聖域奪還戦

第6話

「聖域までの道案内は任せてください」


 ベガがナビ役になってくれるみたいなので、指示を聞きながら進んでいく。

 ベガの案内通りに森の奥深くに進んでいくと周りの雰囲気が変わった。薄暗く、どの方角からも見られているような視線を感じる。さらには禍々しい魔力の気配も感じ取ることができた。


「雰囲気が変わったな」

「にいに。なんか怖いよ……」


 先程まで元気だった柚子が震えながら、僕のそばに寄ってくる。「怖くないよ」と声を掛けて柚子を抱き上げる。


「これなら大丈夫か?」

「うん……ありがとう……」

「すでに奴の支配下にあるようですね」

「主人。気を付けてください」

「言われなくても分かっているよ」


 変な緊張感に額から出る冷や汗が僕の体を冷やす。ここに来て感じたことのない雰囲気に逃げ出したくなってしまうほどだ。それでもお願いを聞いたからには最後までやり通さなければならない。


「アオーーーーーーン!」


 オオカミのような遠吠え、僕は一層気を引き締める。「カサカサ」と右側の草がざわめき始め、当然に狼が僕達に襲い掛かる。


「来たな!」


 僕は風の障壁を囲むように展開して、それを防ぐ。柚子を抱いている状態では回避は不可能と判断したからだ。風の障壁に阻まれて狼は襲いかかってきた方向に吹っ飛んだ。


「やっぱり強いな。この障壁」


 僕は胸を撫で下ろす。三百六十度全ての方向から草の音がして、数十匹の狼の群れが現れる。


「そうだったな。お前らは群れで行動するんだった」

静まり返った空気。まるで戦いの前の静けさを感じさせる。

「柚子。一人だと戦うのは無理そうだ。手伝ってくれるか?」

「頑張ります……」


 普段は聞くことのできない敬語を発する柚子。心の底から心の底から恐怖心が溢れ出しているのがよく分かる。


「よし……始めようか……」


 僕は集中力を研ぎ澄ませ、狼の攻撃に備える。この緊張感。部活の試合を行なっている時みたいな感かんだ。少しだけ楽しんでいるのかもしれない。僕の一番近くにいた狼が飛びかかってくる。鋭い爪に当たってしまうと重傷は免れない。僕は狼の攻撃を横に交わす。狼が地面に着地してしまうと次の攻撃を繰り出させてしまう為、空中にいる間に一撃を与える。銃口から出た風魔法を纏わせた銃弾は狼に命中し、狼は粉々に砕け散った。柚子は僕みたいに俊敏な動きはできないので、言いつけ通りに自分を障壁で守りながら攻撃している。


「それにしてもこの数はなんだ」

「にいに。多すぎるよ」


 狼は群れで行動する生き物なので、しっかりと連携して攻撃してくる。交わしきれないと思った時は障壁を使って防ぎながら攻撃していたのだが、障壁を纏ったまま攻撃をすることはできないので、どうしても隙が生まれてしまう。


「くっ……痛え……」


 狼の爪が頬をかすった。痺れるような痛みが僕を襲う。ここは現実だ。しっかりと痛みを感じる。かすっただけでもこの痛みなのならば直撃したらどうなってしまっていたのだろう。柚子も同じで、かすり傷は負ってしまっている。目にはうっすらだけど水が滲み出ている。痛いのだろう。


「柚子!大丈夫か!」

「……」


 返答は返ってこない。痛みと戦っているのだろうか。僕はすぐに回復弾を柚子に打ち込む。傷はたちまち治るが、痛みだけは消えていない様子。


「柚子!僕の銃を複製できるか⁉︎」

「うん……」


 弱々しい返答だが、指示は伝わっているみたいだ。柚子は僕の銃に手を伸ばし、集中力を高めている。ゆっくりだが次第に銃が形作られていく。


「にいに!」


 柚子は完成した銃を僕の方に投げだ。


「ナイスだ!柚子!」


 僕は銃をキャッチすると構える。


「ディアルハンドガン!レディー!」


 ディアルハンドガンは威力が二倍になる上に、左右でタイミングをずらしながら射撃することも可能なので、戦いの幅が大幅に広がる。


「まだまだ!」


 先ほどよりも早いスピードで狼を減らしていく。それでも数の暴力には敵わないわけで、かすり傷がどんどん増えていく。回復弾を撃ち込んで傷を治しても、体が動かなくなってしまうほどに痛い。


「多すぎだぞ……これは……」


 状況は劣勢だ。何か逆転の策を考えなければここままこ押し負けてしまう。


「アオーーーーーーン」


 狼が吠えると円形の陣が完成する。統率が取れている動きだ。逃げ道も塞がれてかなりピンチな状況に陥ってしまう。狼は一斉にブレスの準備を始める。


「嘘だろ……」

「にいに。どうしよう」


 焦る僕と柚子。まさか狼がブレスを使うとは予想していなかった。周りの温度が一気に上昇したので、火属性のブレスだ。


「柚子!水属性の障壁を六重にしよう」

「はいです!」


 僕と柚子はすぐに六重水属性障壁を展開する。それと同時に狼達は一斉にブレスを放出した。熱銭ブレスとでも名付けておこう。触れたら大火傷を負ってしまうほどの高熱。我慢くらべの時間だ。


「耐えてくれ‼︎」


 僕はそう願いながら叫ぶ。勝負の時間は十秒くらいで、水属性の障壁が破られる前に止めることができた。


「アルタイル、ベガ。何かできることはあるか?」

「目眩し程度の光を発生させることなら可能です」

「同じく」

「了解!柚子!ブラックホールをやるぞ!」

「うん!」

「アルタイルとベガが狼の目つぶしをしてくれるから、柚子はこれを複製して目にかけてくれ」


 僕が作り出したのはサングラスだ。目つぶしをした際に僕と柚子が怯んでしまったら意味がなくなってしまうので、サングラスをかけるように指示をした。ブレスを放った後に多少の硬直はあるようなので、このチャンスを逃してはならないと思った。


「アルタイル、ベガ!頼んだ!」


 柚子がサングラスを着用したことを確認すると、指示を出す。


「了解です」

「了解だ」


 アルタイルとベガは返事をすると、強烈な光を発生させて狼達の目をつぶす。


「今だ!柚子!」

「うん!」


 柚子が地面に銃弾を撃ち込むと、巨大なブラックホールが発生する。これは闇属性の魔法だ。狼達は引力によって中心にまとまる。


「くらえ!」


 僕はロケットランチャーの形に変形させて、撃ち込む。巨大な爆発音と共に狼達は跡形もなく消え去った。

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