第5話

「ま、眩しい」

「眩しいよ〜」


 あまりの眩しさに手で目を塞ぎながら、後退りをしてしまう。


「契約は完了だ。主人」

「契約は完了です。主人様」


 光は次第に弱まり、どこからか男性の声と女性の声が聞こえてくる。おそらくはペガサス達が喋っているのだろう。


「契約?どう言うこと?」


 突拍子もない言葉に僕は戸惑ってしまう。いきなり契約完了と言われても頭がついて行かない。そもそも手と手を接触させるだけで契約が成立するなんて想像ができなかった。契約というのはお互いの意思を確認した上で行うという認識だったからだ。


「ごめん、主人。どうしても伝えたいことがあり、勝手に契約を行なってしまった」

「契約を行わないと意思疎通ができなかった為、契約したのです」


 双子のペガサスの額からはみ冷や汗みたいなものが出てきているように見えた。


「伝えたいことってなんですか?」


 僕が聞き返すと、柚子も興味があるようでまじまじと見つめている。かなり歩いて疲れていたので、大きな木を背にして座って聴くことにする。


「まず、私達はテレパシーで主人様達と連絡をとっています」 

「ペガサスさん。テレパシーって何?」

 

 柚子の純粋な質問に二匹のペガサスは同時に反応を示している。「クスクス」と僕は耐えきれずに笑ってしまう。


「何がおかしい⁉︎主人」

「いやぁ……なんとなくかなぁ……」


 少しだけ誤魔化しながら言う。二匹ともペガサスという名前なので、反応するのは当然なのだが、同じタイミングって……。


「よし!名前をつけよう」


 僕はペガサスな達に向かって提案をする。


「名前をつけてくれるのか?主人」

「そうだよ。名前がないと今みたいに二人とも反応しちゃうからね」

「ありがたきお言葉」


 男性の声を発するペガサスは僕に向かって頭を下げている。同時に契約したのでよく分からなかったのだが、口調からしてこちらの方が僕と契約した方のペガサスなのだろう。


「君の名前はアルタイルだ」

「アルタイル!なんで良き名前を……」


 聞くからに興奮しているような口調。喜んでくれているみたいだ。


「柚子と契約した君の名前はベガだ」

「本当は主人様に名付けてもらいたかったのですが、いいでしょう」


 少し不満そうな口調だったのだが、女性の声をだすペガサスも納得してくれているようだ。


「ベガ!可愛い名前だね」


 柚子は嬉しそうにベガを撫でる。ベガは猫のようにリラックスしているように見えた。


「そういえば主人様。テレパシーの説明がまだでしたね」 

「うん!ベガ。教えて」

「なんと可愛い……んんっ。テレパシーというのは頭の中に直接話しかけることです」


 ベガは少し咳払いをした後に説明をした。


「頭の中に直接!すごい!」


 目を輝かせている柚子。ベガも少し恥ずかしそうにしているように見えるのは気のせいだろうか。


「そろそろ本題に入ってよろしいでしょうか?」

「うん」


 ベガの質問に僕は答える。


「まずは誤解を生まないために、テレパシーを活用しなくても意思疎通は可能です」

「やっぱりそうだよね」

「はい!ですが表に出すことはできない事情がありますので、契約してテレパシーで意思疎通を図っています」


 僕と柚子は相槌を打ちながら聴く。


「この魔獣の森と言われている場所には、聖域という場所が存在します」

「魔獣の森か……やばいところに転生したな」

「主人様達は転生者なのですか?」

「そうだよ」

「なるほど、それならばその魔力量にも納得がいきますね」

「そんなに魔力があるのか?」

「はい!おそらくは。この世界の人間と比べると天と地ほどの差ですね」

「へぇ〜そんなんだ」


 実感がない分、少しだけ驚いてしまう。魔力に関しては柚子にもしっかりと説明しているので、分かるとは思っている。


「本来は聖域には誰も入れないように結界が張られているのですが、なんらかの原因でそれが弱まり、怪物に侵入されたのです」

「怪物とは?」

「この世界には神様の使いである聖獣の他に神様の敵である怪物というものが存在しています」

「神話とかでよくある神に倒された生物のことだね」

「そうです。よくご存知ですね」

「趣味で神話とかも読んだりしていたからな」


 僕はベガの話を聴いて、ワクワクしているようだ。向こうの世界で興味のあったことが現実になるとは。


「怪物が聖域にいては私達、聖獣は本来の力を発揮することができません。怪物を聖域から追い出してくれないでしょうか?」

「協力するのはいいんだけど、勝てる見込みはあるのか?」

「転生者である主人様達ならば可能かと。それに私達を助けてくれた武器。それは恐らく神話級の武器です」

「神話級?何それ?」


 僕は聞きなれない言葉に疑問に思ってしまう。柚子も質問したかったようだが、今回は僕が先に質問した。


「神話級とはこの世界における最高レア度の武器のことです。あまりに強すぎるせいか神様の力を宿したものと言われております。さらにはこの世界に十個も存在しないと思われるほどの武器です」

「へぇ〜それはすごいなぁ」


 この世界に来た時にピンチを助けてくれた武器。なかなかに考え深い。


「神話級の武器は持ち主を選び、それ以外の人が触ろうとすると拒絶反応を起こすので大変危険です」

「だとすると僕が召喚した武器を柚子が複製して使えているのはどうしてなんだ?」

「それは恐らく転生者だからだと思われます。転生者は神に選ばれた人のことなので、使うことは可能です」

「なるほど、分かりやすい」

「柚子は神様に選ばれた存在なの?」


 真剣に聴いていた柚子が首を傾げながら言う。


「ベガの話を聞く限り、そうみたいだよ」

「なんかすっごいね」


 柚子はそう言いつつも、壮大な話しすぎてついていけてないような顔をしていた。


「この武器の強さって分かったりするのか?」


 僕は銃を見ながら質問をしてみる。


「アルタイルなら分かると思いますよ」 

「そうなのか。アルタイル教えてもらっても?」

「了解だ。主人。その武器には魔力消費量を大幅に軽減すると言う力が備わっているようだ。転生者である主人達が使うのならば、どれだけの威力を発揮するか分かるよな?」

「そうだな!魔法を打ち放題と言ったところか」

「そうだ!本来制限のある魔法を打ち放題ということは他の人達にとっては脅威に値する。その他にもその武器から出た弾は威力が上がるようだ」

「あぁあー」

「心当たりがあるようだな」

「めちゃくちゃ、心当たりがあるわ」


 この森にいる魔物のほとんどが、ヘッドショットをすると一撃で死ぬことを実際に経験しているので、分かりやすい説明だった。ラノベやアニメで出てくる魔物は向こうの世界の動物よりも頑丈だということは分かっていたので、一撃で死ぬことはほとんどないのだ。この銃にどれだけ助けられているかを改めて知った気がする。


「よく分かったよ。ありがとう。そろそろ聖域に向かうとしますか」

「みんなで出発出発!」


 僕と柚子が掛け声をかけるとアルタイルとベガはそれぞれの肩に乗った。それを確認した後に僕達はこの場所を後にした。

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