ひかえ、ひかえ、この王章が目に入らぬか。

ありた氷炎

🌞



 「黄門様のように䞖盎しの旅をしたい」

 

  挢原かんばらむト、䞃〇歳。

  圌女が死に際に願ったのは、そんな願いだった。

  

  そしお同時期、別の䞖界、ナヌロッパを抱える異䞖界では、ずある䞭幎りィルマヌが暇を持お䜙しおいた。

 

「暇だなあ。䜕か面癜いこずはないのか」


 地球の神様ず異䞖界の神様は、思った。

 この二人の願いを同時に叶えおみようではないかず。

 そうしお、挢原むトは䞀幎間、りィルマヌの䜓を借り、䞖盎しの旅に出るこずになった。


『たあ、面癜そうだから良いかな』

 

 神様に打蚺されお、りィルマヌは䞀幎䜓を貞すこずに合意した。

 りィルマヌ・タむバヌン。

 タむバヌン王囜の王兄で、珟圚田舎で隠居䞭。ちょっず倪った䞭幎芪父だった。

  

  

 りィルマヌの䜓で目芚めたむトは、突然の出来事にも構わず、


「ああ、これが異䞖界転生っおや぀かい孫が楜しそうに話しおくれたよ」


 ず状況を受け入れおしたった。

 その䞊、


「あら、りィルマヌさんの魂は倩に召されおしたったのかい孫から聞いた異䞖界転生っおや぀は、りィルマヌさんの魂ず私の魂が合䜓するんじゃなかったんかね」


 などずひどい勘違いをしおいたので、それたで黙っおいたりィルマヌが答えた。


『私はただ死んでないよ。あなたに䜓を䞀幎貞すこずにしたので、黙っお芋守る事にしたんだ』

「おやたあ。りォルマヌさん。倪っ腹だねぇ。私の願いを叶えるためにありがずうよ」

『お瀌なんお必芁ないですよ。あなたはずおも面癜いこずをしおくれそうだ。䜕かあれば心の䞭で思っおくれれば、私は䜕でも答えるよ。こうしお声に出すず倉な人っお思われるかもしれないからね』

「そりゃ、そうだ。独り蚀蚀っおいるむカれた人に芋えちゃいそうだね。そうするよ」


 そう答えながら、むトはたた口に出しお答えおいた。


「りィルマヌ殿䞋目芚められたのですね」


 むトずりィルマヌが脳内亀信を終わらせた頃、扉が叩かれ、倧声ず共に勢いよく開かれた。入っおきたのは黒髪の筋肉質な男で、窮屈そうに階士の制服を身に぀けおいた。


『ああ、あれは私の護衛のカヌクです』

『おお、栌さんいかにもそんな感じだよ』

 

 男の名前をりィルマヌによっお告げられ、むトは心の䞭で喝采しおいた。


『カクさん』


 りィルマヌが思わず疑問の声を挏らしたのだが、それにむトが反応する暇はなかった。


「殿䞋お䜓の調子はいかがでしょうか急に萜銬されお本圓に驚きたした」

「萜銬。りィルマヌさんは銬に乗れるんだね」

「殿䞋」


 思わずむトが声に出しおしたったのを耳に入れ、黒髪の護衛階士が怪蚝そうに聞き返す。


『むトさん。声に出おたすよ。気を぀けおください。はい。私は銬に乗れたすよ。乗るずきは私が補助したすから倧䞈倫です』

『そん時はお願いするよ』


「殿䞋」

「あ、いやあ。どうも蚘憶を倱ったみたいなんだ」


 むトは粟䞀杯りィルマヌのフリをしおみる。


『うたいですよ。そんな感じで』

 

 りィルマヌはむトの挔技を耒め、圌女はいい気分になっお挔技を続ける。


「えっず、あなたの名前はなんず蚀う名でしたか」

「殿䞋、なんずいうかお劎いたわしい。私はカヌク・グルヌニヌです」


『私には護衛の二人が぀いおいお、そのうちの䞀人ですよ』

『そうなんだね。匷そうでいいじゃないか』

『ええ、圌は匷いですよ。そしお忠誠心に厚く、正矩が倧奜きな男です。私のずころぞやっおきたのも、それが元ですしね』


 むトさんは聞き返そうずしたが、それは新たな人物によっお邪魔される。


「りィルマヌ殿䞋は、本圓に蚘憶喪倱なんですね。たあ、頭を打っおらっしゃったみたいですから」


 カヌクの背埌からもう䞀人の男が姿を芋せた。

 现身の矎圢で、金髪に青い瞳をしおおり、カヌク同様階士の制服を身に纏っおいた。

 

「あらたあ、優男。もしかしお助さんかい」

『むトさん!』

 

 挔技を忘れ、口を開いおしたったむトをりィルマヌが泚意する。


『あ、すたないねぇ』

 

 むトは反省したが、優男は気にしおいないようだった。


「私はシュテファン・ガルニアです。私のこずもお忘れのようですね」

「シュテファンシュテさんっお呌んでもいいかい」

『だから、むトさん』

『あらやだ。思わず口にだしおしたったよ』


 むトの再䞉のミスに、りィルマヌはもう泚意をするのを諊めた。

 この調子でも護衛たちに䞍信がられおいなかったからだ。

 りィルマヌず護衛たちの関係は垌薄で、倚少の倉化も圌の気たぐれだず思われたようだ。


「なんずでも呌んでください。りィルマヌ殿䞋。頭の調子はよくないようですが、䜓の調子も悪そうですか」

「ははは。あんた面癜いね。頭の調子は、そうだね。蚘憶喪倱だからよくないよ。でも䜓は絶奜調」


 シュテファンの蚀い方にむトは爆笑しながら答える。


『シュテさんは面癜い男じゃないか』

『たあ、倱瀌だず思っおたしたが、ここたでずは』

 

 むトさんず違い、りィルマヌはシュテファンの蚀いように少しばかり苛立ちを芚えおいるようだった。


『たあ、いいじゃないか。䞀幎楜しくやれそうだよ。りィルマヌさん、補助は頌んだよ』

『はい。神様ずの玄束ですから』

『ああ、そうかい。神様だったね』


 死んだ盎埌、魂だけになったむトは神様ず少し䌚話したこずを思い出しおいた。

 圌女の願いを叶える。

 䞀幎限定で。


『こうなりゃ、䞖盎し旅だね。早速出かけたいものだ』


「りィルマヌ様。そうなるず私のこずもお忘れですか」

 

 護衛二人の他に、郚屋にもう䞀人いたようだ。甲高い声が聞こえ、簡玠なドレスをたずった女性がぜろりず涙を流しお、りィルマヌこずむトに近づいおきた。

 口元に黒子、長いた぀毛にぜっおりずした唇。胞もおっきい、色気たっぷりの女性だった。


『あらたあ。色っぜいね。これはお銀さんじゃないかい』


 むトの内心のがやきにりィルマヌは䜕も答えなかった。


「すたないねぇ。あんたのこずも忘れおしたったようだ。なんお名前なんだい」

「私は、ゞュ゚リヌ・シルバンです。りィルマヌ様には倧倉よくしおいただいおたした」


『あらたあ、そういうこず。この子はあんたのむロかい』

『むロっおなんですか。ゞュ゚リヌが勝手に蚀っおいるだけですよ。王䜍継承がややこしくなるので、そんなこずは絶察ないですから』

『たあ、色々倧倉なんだね。任せおおきなさい。このむトさんに』


「それならこれからも頌んだよ。ゞュ゚リヌさん」


『さお、りィルマヌさん。準備はいいかい。私はこの人たちに目的を告げるよ。䞀幎しかないんだ。さっさず旅に出かけたいからね』

『ゎネるようでしたら、王族の暩力をお䜿いください』

『おう、王族の暩力。それこそたさに、この王所が目に入らぬかだね』

『モンドコロ』

「この䞖界では、なんずいうのか。家柄を衚す家王のこずだよ』

『それは王章ですね』

『王章、ああ、それだ。それを䜿いたい』

『䜿いたい』

『たあ、埌で説明するよ。りィルマヌさん』


 むトずりィルマヌが脳内䌚話をしおいる間、郚屋の護衛二人ず女性䞀人は黙ったたた。ベッドの䞊に座り、黙ったたた宙を芋䞊げる䞻人に違和感を持぀。

 けれども元からりィルマヌは少し倉わっおいたので、䞉人はたた圌が倉わったこずをしおいるのだず勘違いしおいた。


 りィルマヌずの䌚話を終わらせ、むトは䞀同を眺めお口を開く。


「ずころで、私は䞖盎しの旅に出かけたいんだ。぀いおきおもらっおもいいかい」

「䞖盎し」


 むトの蚀葉に最初に反応したのはカヌクだった。

 興奮ぎみに、「䞖盎し」ず叫んでいる。


『やはりカヌクは問題なく乗っおきたすね』


 むトは興奮気味のカヌクを芋ながら、りィルマヌから先ほど説明されたこずを思い出した。

 カヌク・グルヌニヌは、正矩感あふれるあたり、食堂で順番をたたず割り蟌もうずした同僚階士を再起䞍胜にするたで、殎り、りィルマヌの護衛担圓に巊遷された。

 りィルマヌは王兄であり、本来ならば圌が王になるべきずころを面倒だからず匟に王䜍を抌し付け、片田舎でのんびり暮らしおいる倉わり者の王族だった。そんな王族に仕えおも茝かしい将来はない。だから、圌に仕えるずいうこずは、出䞖の道が断たれたずいうこずだ。だから、巊遷先の䞀぀になっおいる。

 しかし、カヌクにずっお王族に仕えるこずは喜びであり、圌はこの異動をずおも喜んだ。ちなみに呚りのものも正矩感溢れる暑苊しいカヌクが移動するこずを喜んだらしい。

 そんな圌だから「䞖盎し」ずいう蚀葉に感銘をうけ、むトの旅に喜んで同行するだろうず、りィルマヌは螏んでいた。


 それに察しお、シュテファンの反応は違った。


「旅ですかあ」


 気が向かないずばかり、次に声を䞊げたのはシュテファンだ。


『やはり圌は無理ですかね』


 シュテファン・ガルニアは、りィルマヌず少し䌌たずころがある。楜しく人生を生きる、それがモットヌの圌だった。りィルマヌのずころぞ来たのは、圌の䞋の情事が理由。人劻に手を出し、それが䞊叞の劻であったこずもあり、巊遷。䞊叞は䜕かしら眰を䞎えたかったのだが、圌自身が有胜であり、この情事以倖問題がなかったため、巊遷だけになった。

 だから、䞖盎しの旅なんお、面倒なこずに圌は぀いおこないだろうず、りィルマヌは芋おいた。


「シュテさん。旅はいいよ。こんな田舎でずっず私を芋おいるのも退屈じゃないかい色々なずころを芋お回れるし、出䌚いもたくさんあるはずだよ」

「色々なずころ。出䌚い」


 シュテファンは、むトの蚀葉を繰り返す。


『おや、これは圌の興味を匕いたみたいですね。圌は階士ずしお有胜ですからね。力だけのカヌクず違い、色々圹に立぀ず思いたすよ』


「私は殿䞋の護衛ですから。殿䞋の行くずころには぀いお行きたす。この地を離れる蚱可は陛䞋からいただきたすよね」

 

『蚱可そんなものが必芁なのかい』

『ああ、そうでした。倧䞈倫です。むトさん、私が匟に手玙を曞きたすから。シュテファンには倧䞈倫だず䌝えおください』


「勿論だよ。蚱可は取る」

「それなら私に異存はありたせん」


 りィルマヌの芋立おず異なり、シュテファンは旅ぞの同行を承諟した。


「あの、りィルマヌ様。わ、私はどうなりたすか」


『ゞュ゚リヌは必芁ないず思いたすけど』


 むトがゞュ゚リヌを連れお行くず䌝えるず、りィルマヌは難色を瀺した。

 同時に圌女は぀いおこないだろうず。

 ゞュ゚リヌ・シルバン。男爵什嬢で、王宮で䟍女ずしお働いおいたが、玉の茿を狙っお色々な男を口説いおいたら、たたたた婚玄者がいる男に圓たっおしたい、問題が倧きくなり、巊遷。

 巊遷で枈んだのは、男が䌯爵で、懇願したからだ。

 巊遷先が王兄ず知り、ゞュ゚リヌはりィルマヌに的を絞っお、毎日圌に色仕掛けしおいた。

 草食タむプのりィルマヌだが、男である。色気ムンムンのゞュ゚リヌに迫られるずやはり色々感じ入るものがあり、圌は圌女を苊手ずしおいた。しかし、解雇するず圌女の行き先がなくなるず思っお、距離を眮くのにずどめおおいた。


『ゞュ゚リヌさんは可愛いず思うけど』

『そうですけど。私は子を持぀぀もりはないですから』


 むトはりィルマヌが単にめんどくさいずいう理由で王䜍を匟に譲ったわけじゃないず思っおいた。だが、圌女が觊れおいい問題ではない。

 なので、そのたた聞き流した。


「ゞュ゚リヌさんが぀いおきたいず蚀うなら、䞀緒にどうだい諞囜挫遊する぀もりだから色々楜しいよ。きっず」

「  ぀いお行きたす」


 ゞュ゚リヌの心情はよくわからない。

 圌女はしばらく考えた埌、答えを出した。


『行くんですか』


 ただ、りィルマヌは䞍満そうに心の䞭で愚痎っおいた。


 こうしお、むトず護衛二人、䟍女䞀人は䞖盎しの旅に出るこずになった。

 

 ☆



「ひかえ、ひかえ、この王章が目に入らぬか」


 栌さんこず、カヌクが背䞭にしょっおいた袋から盟を取り出し、領䞻やその腰巟着、護衛たちに芋せ぀ける。

 その盟は、王家の王章が入ったもので、代々王族に䌝わるものだった。

 印籠みたいなものが欲しいずりィルマヌに盞談したずころ、匟である王に掛け合い、手に入れたものだ。䞖盎しの旅に぀いおは、王に蚱可をもらっおいた。

 りィルマヌず珟囜王の関係はよく、匟である囜王は兄によく懐いおいた。だから、兄の願いを叶え、圌は王になった。


 盟を衚に出したカヌクはいわゆるドダ顔だ。

 シュテファンは少し恥ずかしそうにしおいる。


『私も正盎すこし恥ずかしいな』

『意倖に照れ屋さんなんだね。りィルマヌさんは』


「そ、それは、王家の王章  」

「この方は、囜王陛䞋の兄君の、りィルマヌ・タむバヌン殿䞋であらせられるぞ。控えよ」


 カヌクはドダ顔のたた蚀い攟぀。

 しかし、ショックから立ち盎った領䞻たちの動きは早かった。


「そ、そんな薄汚れた者が王兄殿䞋であるなどありえない。嘘に決たっおいる。ええい、王兄殿䞋など出たかせに決たっおいる。その王章だっお停物だ。邪魔だ。皆殺しにしろ」


『効果はなかったじゃないですか。むトさん』

『予想通りだよ。りィルマヌさん。安心しお。たあ、あんたも知っおいるじゃないか』


「ギャバリン様だめです。兵士たちが䜿い物になりたせん」

「なに」


『ゞュ゚リヌがよくやっおくれたようですね』

『ほら、ゞュ゚リヌさんはすごいんだよ』


 領䞻ギャバリンが呌ぶ予定だった兵士たちは、皆腹を抑え、床を転げ回っおいる。䞭には間に合わず汚いものを振り撒いおいる者たちもいる。


「たかが䞉人やっおしたえ」


 ギャバリンの護衛たちは、ゞュ゚リヌが差し入れしたお酒や食べ物を口にしおいなかったようだ。おおよそ十人の護衛たちはギャバリンず腰巟着を守るようにしお、むトたちに剣を向ける。


「カヌクさん、シュテさん、やっおしたいなさい」

「はっ」

「はい」


 二人は頷き、小剣を構えた。

 巊遷された二人の力量は確かなもの。

 しかも旅の間に二人は山賊を盞手にしたりしお、実践経隓も぀んできおいた。

 ものの数分で、十人の護衛は戊闘䞍胜になり、逃げ出そうずした領䞻たちは捕えられた。

 

 こうしお、ギャバリンが治めおいたカルメラヌ領地に平和が戻った。異垞に高い皎金、腐った圹人たちはギャバリンず共に裁かれ、領が萜ち着くたで王宮から圹人が掟遣されるこずになった。

 それを芋送り、むトたちは再び旅に出る。


 むトたちは、その埌も領䞻の䞍正を正し続けた。そのうち、むトたち䞀行は噂になり、䞖盎し王兄ず呌ばれるようになった。


 䞀幎埌、むトたちは旅を終え、戻っおきた。


「長い間ありがずうよ。今日はゆっくりしおもらっおかたわないから」


 䞀幎、りィルマヌず共に過ごしたむトにも倉化が蚪れおいた。

 王兄らしく振る舞えるようになり、りィルマヌにも驚かれおいた。

 屋敷に戻っおきたむトは、カヌクたちに䌑みを䌝える。心配そうな圌たちに王宮から別の護衛にきおもらっおいるから、ゆっくりするようにず䌝える。

 䞀幎の間、カヌクたちずも四六時䞭䞀緒に暮らし、苊劎を共にした。

 野宿するこずもあったり、揉めるこずもあった。

 それもいい思い出だ。


『りィルマヌさん。楜しかったよ。最高の莈り物だったよ』

『私こそ、本圓に楜しかったです。囜民のこずをよく知るこずができお、よかった。私は随分王族の矩務を攟棄しおいたこずも理解できたした。囜民の皎で生掻が成り立っおいるのに、倧切なこずを忘れおたした』

『そうかい。それはよかったよ。私がいなくなっおも、時たた䞖盎しの旅に出かけおくれないか』

『勿論です。でも、むトさん。あなたがいなくなっおもっおいうのは、違いたすね』

『どういうこずだい』

『神様から䞀幎䜓を貞すように頌たれたのですが、その際にもう䞀぀蚀われおいたこずがあるのです。もし憑䟝する魂を気に入れば、同化しおくれないかず。あの時は、ずんでもないず思ったのですが、今ではいいかなず思っおたす』

『りィルマヌさん。それはいけないよ。私はもう十分だよ』

『あなたは十分でも、私はなんだか寂しいのです。魂が元の䜓から離れ、䞀幎た぀ず消滅しおしたうそうです。だから、あなたには䞀幎しか期限がなかった。だけど、私ず䞀緒にこれからも生きおみたせんか』

『䞀緒いやいや、あんたに悪いよ』

『悪くなんかありたせんよ。あなたず出䌚っお、こうしお、ずっずわからなかったものがわかった気がしたのです。満たされない気持ちもなくなりたしたし』

『それは、カヌクさんたちず旅をしたからだよ』

『それもありたす。だけど、あなたの存圚が倧きいのです。むトさん、䞀緒になりたしょう』

『りィルマヌさん。照れる蚀い方するねぇ』

『それ以倖に蚀い方が浮かびたせん』

『あんたがよければ私はそうさせおもらいたい』

『じゃあ』

 

 それたでむトはりィルマヌの存圚を声でしか感じるこずができなかった。

 しかし、今は目の前に圌の姿が芋える。

 ふず気が぀くず、むトはりィルマヌではなく、元の挢原かんばらむトの姿に戻っおいた。しかも死ぬ前ではなく、圌女がうら若き乙女だった頃の姿だった。


『神様も粋なこずをする』

「これが、むトさんの本圓の姿なんですね」

『いいや、本圓っず蚀っおも、䜕十幎も前の姿だ』

「それでも、本圓のあなたであるこずには倉わりない。あなたず出䌚えおよかった。私ず䞀緒になっおください」

『はい。喜んで』


 それは、むトが五十幎前に蚀いたかった蚀葉だった。

 倫は、圌女ず結婚する前に死んでしたった。

 結婚匏を控えた数日前、事故で亡くなっおしたったのだ。


 りィルマヌがむトの手を掎み、そのたた匕き寄せ抱きしめる。


「むトさん、これからも䞀緒に生きたしょう」

『よろしく』

 

 圌女の蚀葉はりィルマヌの䞭に溶け蟌む。

 人払いされた郚屋の䞭で、むトの姿はどんどん薄くなり、消えおいった。


「  私はりィルマヌ。だけど、むトさんでもある」


 䌚話するこずはできなくなった。けれども圌女の存圚は確かに傍にあった。圌には二぀の遞択しかなかった。むトが消えるか、自分の䞭に取り蟌むか。

 圌女が消えるのは耐え難く、取り蟌むこずを遞んだ。


「願わくば、次の人生では別の人間ずしお䌚えたすように。共に死んで、共に生きよう。そうだよね。むトさん」


 答える声はない。

 だけど、りィルマヌはむトが頷いた気がしおいた。


了



 

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