第3話『元内閣総理大臣黒部新造』
助手席には村川が乗る。
舞は気まずいのか車内でも黙ったままだが、桜佑が引き揚げようとすると待ったをかけた。
「家に上がっていって、渡したいものがあるの」
エレベーターから降りて、彼女がドアを開ける。
来客用のスリッパを履かせてもらい、部屋を見渡せば、大学生の一人暮らしにしてはやたらと羽振りがいい暮らしをしているではないか。
よく考えればアパートではなくマンションである。
そして舞は金庫から茶封筒を取り出して桜佑に見せる。
父より。そう書かれていて、中にはUSBメモリが入っていた。
舞は無言でパソコンに接続し、映像を再生する。
「父です」
映像に映った父なる人物に桜佑は驚愕した。
濃紺のスーツに金色のネクタイ。オールバックに太い眉。押し出しのいいその人物は、
「父って、、、この人は、
しっ、と舞は人差し指を唇に当てた。
桜佑は慌てて専用端末で村川に報告を入れる。
『理解が追いつかないが、とりあえず、彼女の出身についてもう一度調べてみる。目立たないように駐車場に応援を呼ぶ』
イヤホンを取り出し、カップルみたいに半分ずつ片耳につける。そして再生した。
* *
まず、公安警察桜佑と自衛隊別班中野真守がふたり揃ったとき森長舞はスパイであり話のわかるふたりを信用して黙秘を破った。
続いて、公安警察桜佑とサシになったとき、森長舞は公安のみにこの重大な秘密を打ち明けた。
ワイシャツ姿の黒部新造が自室で人払いをして撮ったビデオメッセージだった。
『舞、このビデオメッセージを見ていると言うことは、お父さんはもうこの世にはいないだろう』
ドラマでありがちな台詞から始まった。
『アメリカ合衆国CIAは日本でクーデターを起こすことにより日本を軍事統制下に置こうと企んでいる。私は内閣総理大臣、第一次政権時代にその旨報告を受けた。その全貌を暴き、隠し子のお前に託すためにこのビデオメッセージを撮っている』
衝撃の告発である!
『クーデター計画を話す前に、私について話そう。私もどちらかと言えば右派の政治家で、憲法改正や自衛隊強化、そして核武装を提唱する立場だ。その私を広告塔に、CIAは天下教会を挟んでマネーロンダリングする形で選挙支援、資金援助をしてきた。天下教会は反共産主義を掲げてきたからな』
先日の黒部新造暗殺事件にはCIAと天下教会が関わっていたのだ!
『私は総理大臣を引退してから靖国神社を参拝したりロシアと直接交渉したりとかなり大胆なことをやった。そのせいかCIAからの連絡の定期便が一週間前に途絶えた。やりすぎたかもしれないな』
画面に映る黒部はミネラルウォーターを口に含んだ。
『さて、CIAの企みについて話そう。CIAは来るべき米中戦争において、日本を軍需産業の実演ショーの舞台にしようとしている。アメリカは手を汚さずに日本を盾にするつもりだ。共和党カード政権においてはアメリカは極東から軍事を撤退するつもりだったが、民主党デバイス政権では逆転してトマホーク巡航ミサイルや核、その他陸海空海兵隊通常戦力を日本に配備、買わせている』
朝鮮戦争のように、米中の代理戦争の地が日本になるというのだ。
『そこでだ。そのように日本がアメリカの尖兵になるにあたり、アメリカは私こと黒部新造の存在をおそれた。私を中心に日本が結束して軍事力を利用して対米自立を果たしては困るからね。リーダー不在でアメリカに統制されたまま軍事だけ強化したほうが都合がいいのさ』
黒部新造は日本を愛する男だ。
第一次政権で対米自立を唱え潰され、第二次政権ではアメリカとの枢軸を重んじ、政権が延命した。だが黒部は総理引退後、アメリカの統制を外れ、CIAに消されようとしている。
『で、肝心のクーデター計画だが……私も政治家の端くれだ。おおよその見当はついている。まず私を殺害したあと
ゴクリ、と桜佑が唾を呑み込んだ。
『自衛隊も信用するな、自衛隊は別班を中心に米軍に取り込まれている。というより、自衛隊別班は米軍の意を汲んだクーデターの頭脳で、信用できるのは公安警察だけだ』
佑と舞が見つめ合う。
『舞、お前を認知しなかったのは危害を加えられないように祈る私の親心ゆえだ。わかってくれ。愛している。わが娘よ』
……ビデオメッセージは娘の無事を祈る言葉で締めくくられた。
ビデオメッセージのつづきは警視庁公安部のオペレーションルームで再生された。
やがて村川警部がオペレーションルームに入った。
『やっと判明した。森長舞さんは黒部舞という。黒部新造元内閣総理大臣、元保守党総裁の御息女だ!』
クーデター ──Jの諜報戦── 松コンテンツ製作委員会 @toyasan_japan
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。クーデター ──Jの諜報戦──の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます