第2話『自衛隊別班中野真守』
謎の女性は学生証から
持ち物は黒部元総理の写真にスマホに財布に化粧品等入ったポーチのみ。
取り調べにも黙秘で、口を割らない。
書類のサインには素直に応じた。
いよいよ留置場に入る段になる。身体検査にはいちおう女性警察官があたった。
「服を脱ぎなさい」
サブカル系の服を脱ぎ、下着姿になる。
羞恥を覚え、彼女の頬が桃色に染まる。
「下着も脱いで」
舞はややためらったのち、ブラに手をかけ、ホックを外した。そしてショーツを下ろした。
「これを着て、スクワットして」
ガウンのようなものを着せられ、スクワットさせられる。
金属探知機のようなもので性器や肛門の周りを弄られる。
「咳をして」
これは咳をした勢いで肛門や口などから隠し持った異物が出てこないか確かめるただ。
そして灰色のダサいスウェットを着る。
「ご苦労様、あなたも写真を撮っただけで公安にマークされて大変ね」
「いえ……」
「あ、やっとしゃべってくれた」
「私たち地域の警察官も公安は怖いと思ってるから、安心して」
日用品を使うレクチャーなどを受けたのち、彼女は留置場に入った。
* *
夜中の11時。
休憩室でばったり会った二人。中野真守が桜佑に煙草を差し出してくる。
「吸うか?」と真守。
「すいません」と佑。
「吸いませんとすいませんをかけたのか、面白いやつ」
真守は笑いながら煙草をしまった。
代わりに、自販機で缶コーヒーを二本買い、真守に渡す。
「山南の取り調べはどうだ」
「所轄の皆さんやマル自の
「奴は鉄砲玉で、正犯は別にいる、桜さんもそう考えるか?」
「仰る通りです」
二人は缶コーヒーを同じタイミングですする。
時計の針がカチコチと動く。気まずい沈黙。
「
小声で桜佑の耳元に囁きかける中野。
桜佑も小声でこう切り返す
「
中野はぐいとコーヒーを飲み干し、空き缶を無造作にゴミ箱に叩き入れた。
「なにがいいたい」
佑はメモ帳に自衛隊別班、スパイとボールペンで書き、真守に差し出した。
「あなたは、
ふたりが沈黙した代わりに、黒部暗殺事件で慌ただしく動く警察署内の騒音がやかましく響く。
桜佑が挙手すると、そのやりとりを防犯カメラと桜佑が身につけた盗聴器で確認していた。マル自の大河内巡査長と上司の村川警部がなだれこんできた。
「大河内だ。あんたら自衛隊のライバルにあたる」
「マル自か!?」
「ノーコメント」
「中野さん、桜警部補の上司の村川と申します。今後のお仕事の相談がしたいので、とりあえず覆面パトカーに乗っていただけますか?」
* *
緊張をほぐすためにまずは雑談から入った。
「昔見たSF警察アニメで、自衛隊がクーデターを起こして警備警察がそれを止めると言う内容なんですが、こうして自衛官と警察官がドライブし密談するシーンがあったんですよ」
運転席の桜佑が切り出した。後部座席では中野真守を挟むように村川と大河内が座る。
クーデター、という言葉に真守の瞳が鋭くなったのをマル自の大河内は見逃さなかった。
「おいおい、仮にも現職の警察官3名を乗せてるんだからさあ」
一同乾いた笑い。
「見ましたよ。機動警察でしょ? 走る車内なら会話が漏れる心配もないか と言う言葉もありますね──そろそろ仕事の話、しません?」
マル自の大河内がため息をついた。
「あんたは自衛隊別班で、警察官に偽装して事件現場に立ち入り、勝手に現場検証した」
「ああそうさ、俺は自衛隊の犬さ、俺を始末するのか?」
「違う。この件、村川班長を通じて警察庁まで報告が行っているが、上層部はお咎めなしにするそうだ」
「自分で言うのもなんだが、甘いな警察は」
「同感だ。と言うより、上が握りつぶした感じだ。おそらく防衛省自衛隊と警察庁公安部の摩擦を避けるためだろう」
マル自の大河内はライバルの自衛隊の諜報機関を検挙できない悔しさを滲ませながらそう結論づけた。
「昔、ゴーストップ事件ってありましたもんね」
「よく知っているな桜警部補。陸軍兵が信号無視して警察巡査ともめて内務省警察と陸軍の全面抗争になり、昭和天皇の耳に入った事件だ」
「警察は自衛隊別班に味方してくれるのか?」
「味方とはいかないが、今回は見逃す。その代わり山南容疑者の捜査に協力しろ」
大河内は否応なしに真守に迫った。
「僕からもお願いがあります」と佑。
「なんだい桜君」と村川。
「森長舞さんの口を割らせることに協力してほしいのです」
「わかった。ただしやり方は……」
「まかせろ」別班の男が胸を叩いた。
* *
未明、桜佑と中野真守はふたりそろって森長舞の待つ取調室に入った。
「未明から取り調べを再開して悪いね」
「俺たちも仕事でな」
「あっ、あの時の、公安警察の方と自衛隊別班の方ですか!?」
「「なぜわかる」」
「公安の方は自衛隊の方に自衛隊かって尋ねてましたよね? で、自衛隊の方はそれを否定しないし、おまけに警察捜査員の腕章をつけていた。これって自衛隊別班が警察官に身分を偽装して公安と戦った場面を私が盗撮したから大問題なんですよね」
「なんだ、わかってるんじゃないか」
「じゃあなんでいままで黙秘していたんだ?」
「自衛隊別班やスパイの話をしても信用されないと思ったからです」
「なるほど、言い分のスジは通ってる」
桜佑は一枚の書状を差し出した。
「これにサインして拇印を押してくれれば、釈放する」
そこには、秘密を厳守し、今後は公安警察に協力しなければならない旨の誓約書があった。
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