Red Anti Sorcery

白闇エナンカ

Red Anti Sorcery ~レッドアンチソーサリー~


 これは、「外」を知らない『被検体』の話…。



 私は被検体「13962」、この大きな施設に被検体として集められたおよそ5000人以上の子供達が「魔術傭兵育成実験」を日々行っている。

なぜ私達は「魔術傭兵」として育てられているのか、そして私達を産んだ親すら知らない。それでも今日も、三人の少年少女達は身体に電気が走るような魔術テストを受けていた。


「「今日のテストは終わりだ。被検体13962、14409、14810は各自部屋に戻れ」」

 私達は番号はバラバラだけど、実験結果などによって分けられている…、つまり一様ルームメイトでもある。

 部屋に戻ると、同じルームメイトの15031が先に帰っていた。

 「先に帰っていたんだね、15031。今日もお疲れ様」

 「…うん」

 同じ部屋で過ごしているからか、仲は良い関係でもある。

 ガチャ!

 すると、後からルームメイトの一人が遅れて帰ってきた。

 「今回も遅かったね、9899…疲れているみたいだが…」

 14810は心配そうにそう言った。

 「大量の電力を出しすぎたせいだろうな」

 「男の子は私たちよりもキツイって聞いていたけど、本当なのね…」

 9899はルームメイトの中では年長さんで、男子である。

ちなみに14810も男子で、残りの私達は全員女子である。


 「あ、あの…こういう本には興味ありませんか?」

 先に帰っていた15031はベッドの下から大きな本を取り出した。

 「それって、『外』に関する本じゃない!まさかアンタ、書物の部屋から盗んだですの⁉」

 同い年の14409が驚いた表情でそう言った。

 「わたくし…どうやら『物を動かしたり、特定の場所に物を瞬間移動させたりする』ことができるみたい…、だから前から見せたかった本を持ってきちゃった」

 15031は自らの魔術を判明してから、よくいろんなところから物を盗むようになった。

 「正直、気になるわ…外の話」

 「僕も、ここの事も知りたいしね」

 「…構わねぇが、大人に見つかるとどうなるか…わかっているな」

 白衣を着た施設管理の大人達は『私達が『外』のことを知ると、数日後には処分される』…9899の同期もそれによって処分されたって話は聞いていたけど…、

 「私も、外のことが知りたい」


      ◇


 遥か昔、『人間』と『魔法使い』が対立していた。人間は魔法を持たぬ為、魔法使いが世界のほとんどを支配した。

とある人間達はその力に欲するようになった。

そして欲深くなりゆく人間はやがて、敵である魔法使いに力を求めるようになった。


そして月日は流れ…魔法使いの束ねる「ニドマグラ」はその者等に『魔術』という力を与え、魔術師が誕生した。


遂に力を得た魔術師は、長き戦争に力の差で人間に勝利した。そして…その同時に魔術師は力を与えた魔法使いと同盟を結び、女王に君臨したニドマグラは魔法使いと魔術師の『魔法王国』を創り上げた。

そして外で捕らえた人間の女や子供を奴隷…そして『使い捨ての魔術傭兵』として利用するようになった。


      ◇


「うーん…つまり、わたくし達は『人間』であるってことですの?」

14409は15031に質問しました。

「そういうことになりますね。しかも…これを見る限り、わたくし達の立場的にはあまりいい話ではなさそうです…」

「なぁ…9899はこのことを知っていたのか?」

 確かに、最初から分かっていた風な話し方にも聞こえた。

「…アイツはこのことを知った後、俺様を無理やり連れてすぐにここを出ようと試みたが、大人に見つかってそれ以来アイツに会ってない」

つまり、あの後…。

「でもさ、バレなきゃいいのよ!そうすれば処分されずに済むわ」

「そうだね、9899もそうやってうまくやってきたからな」

「…チッ」

みんなそう言った。確かに処分は怖い…だけど、


「でも、このままでいいのかな…」


私は思わず、口を滑らしてしまった…。

…。

「逃げたって、大人に見つかれば処分される」

「わたくし達は『魔術傭兵』なんだから、仕方ないわ」

「アタシ達は『外に出る』なんて、考えちゃいけないのよ…」

「…」

みんな…処分されるよりかは、ここにいた方がマシなんだと言った。


でも、私は………。



皆が寝静まる夜に、一人で鉄格子の窓から見ていた…。広い草原に奥の森には大人たちが見回りをしている。

先程「年に数回、脱走をしようとする者が見つかって以来、施設の周りにも見張りが増えた」って9899が教えてくれた…でもどうしてここまでの情報を知っているんだろう?

9899はわたし達よりもこの施設に長く居るから、大体の出来事を把握しているのかな?でもやっぱり14810が言っていたように…処分されたくないから、今も無理してここに留まっているのだろうか。

「魔術傭兵」という『奴隷』であるわたし達にとっては、『外』のことは知らない方がいいのかな…。


でも…この願いが叶うのなら…、


「壁の向こうを…外を、見てみたい…」



ガチャ!

「な、なに⁉」

扉から誰か来た…でも施設管理の大人にしては格好が変だ。見たところ若い男のようで、茶色のローブで目元を隠している。すると、

「…、見つけた」

「…え?」

 その男は突然、そう言ってわたしを抱きしめた。

「や、やめてください…突然現れては、あなたは誰なんですか?」

 わたしがそう質問すると、その男はわたしの肩を掴んでは懐かし気に答えた。


 「…お前の、父さんだよ」


 父さん…?


すると、

 ガサガサガタガタ…

 「何の騒ぎですか?」

 「こ、これってどういうこと⁉」

 「施設の魔術師ではなさそうですが…」

 「施設の奴らじゃねえなら、何者だ!」

 騒動によって、皆を起こしてしまった…。

 「君たちもここで酷い扱いをされているのか…」

 「だったらなんだ、俺様達を処分しに来たのか‼」

 すると9899はそう言って、身体から威嚇の電気を放ち…14810は蒼い剣、14409は大量の水の矢、15031は目をサイコキネシスの黄色に光らせて物を浮かせて、皆かなり警戒している。

 「待った!君たちとは戦いたくない!だからそれをしまってくれないか?」

 男はそう言うとローブを脱いで、両手を上げた。見たところ地味な格好で、小さいバック以外何も装備していない。

 「…んで、お前は何者なんだ?」

 皆…「敵ではない」と納得してくれたみたいだが、

 「僕はこの子の父親、名は『アデン・ドラフニスタ』だ。よろしくね」

 アデンはそう言って、私の頭を撫でる。

 「それが…『名前』なのですね」

 15031がそう言うと、

 「なまえ?なにそれ?」

 聞いたことが無い言葉に14409がそう言った。

 「そうか、君たちは名前を持っていないのか…」

 なまえ…そういえば、数字ではないみたいだけど…。すると、

 「あぁ‼そうだった。君たち、すぐにここから逃げる準備して!」

 「「え、逃げる⁉」」

 衝撃的な一言で驚いた。そして9899は、

 「『ここから逃げる』って、無理に決まってる…」

 でも彼は微笑み、こう言った。

 

 「無理ではない。何せ僕はね…君たちを助けるために、ここに侵入したんだ」


 「助ける」って、まさか…。



「「ヴォー‼ヴォー‼」」


 「まずい、気づかれた⁉…皆、早く逃げるぞ‼」

 「行きましょう!外の世界‼」

 「なら、アタシ等で脱出するんだ!」

 15031と14409はノリノリで部屋を出た。

 「行こう、9899…一緒に外の世界に…」

 14810は9899に手を差し伸べる。

「…わかった、あいつの分まで生きてやる。だから…これからよろしく頼むぜ、『相棒』!」

 9899引いて、部屋を出て行った。

 残る私は、隣に立つアデンに話しかけた。

 「ねえ…もしも皆で『脱出』出来たら、質問してもいい?」

 「お前の父親として、何でも答えてやる…約束だ。だから…一緒に帰ろう」

 そして私…13962はアデン、彼らと共に施設を飛び出した。


 まさか床に穴が開いていて、そこから侵入していたとは…私達はその穴から床の下に潜り、等々出口に辿り着いた。

 「大きな扉…」

 ギィィ…

 扉を開けると…私たちが見たものは、底が見えない崖だった。

 「アイツはここから逃げようとはした…だが、この崖で追い詰められた」

 「そうか、9899の親友はここで…」

 「向こうに森がありますよ!」

 「でも遠すぎる…」

 すると、

 「「そこまでだ!」」

 施設の大人たちが迫っていた。

 「まずい、見つかってしまいました‼」

 「しかも僕ら全員、追い詰められた⁉」

 「よくも僕の妻と娘を…」

 後戻りは出来ない、危機的状況である。

 「僕から離れないで、『転送魔法』起動‼」

 すると私達の足元に不思議な絵が浮かび上がる

 「すごい、これが『魔法陣』。

 すると、大人たちはアデンにこう言った。

 「貴様…裏切りの罪は重いぞ!」

 そして、光に包まれるのと同時に彼は言った。


「愛する『家族』のためならば、なんだってするさ」



チュンチュン…


鳥の声が聞こえる…

「目を開けてごらん」

目を開けると、一面に広がる草原の上にいた。

「やったわ…遂にアタシ達、『外』に来たのよ」

「風が吹いて気持ちいいですね」

「美しい自然…僕たちは、あの施設から出られたんだな」

「…やったぜ、相棒…」

皆は喜んでいた。奴隷として扱われた施設から、自由になれたのだから…。

「私も…願いが叶って、嬉しいです」

私の隣にいたアデンにそう言うと、

「そうか、嬉しいよ!これで、皆で暮らせるね…」

アデンが遠くにある街に指差して、

「今日からあの街で暮らすんだ。何不自由無く、僕らは『家族』として幸せにね…」

そして皆で、その街へと向かう…。


「ねえ、約束通りに…一つ聞いてもいい?」

「なんだい?」

「私達にも、『名前』を付けてくれる?」

「そうだね…というより、お前にはもう名前は決めているんだけどね」

「なにそれずるい、アタシ達にも名前を付けてくれ‼」

14409がそう言うと、他の皆も彼をジッと見つめていた。

「じゃあ…まず、14409ちゃんは…『ルミル』で」

「アタシは今日からルミル!」

「15031ちゃんには、『シェムリタ』」

「シェムリタ、いい名前…」

「14810くんは、『ライリイ』」

「それは、昔本で見た魔法植物の名前と一致している…ありがとうございます!」

「9899は…『バレスタン』だ」

「……バレスタン、それが俺様の名前…」

皆とても嬉しそうだ。


そして最後に、彼は…いや、父さんは私に言った。


「お前の名は………」

 


あれから二年後…。


人間と魔法が使える人間が集う街にて、ルミル、ライリイ、シェムリタ、バレスタン、そして父親のアデンと私の六人で暮らしていた…。


ところが…私達の脱走がきっかけで、今現在唯一魔法が使える人間と魔術師との戦争が度々起きるようになり、街は『ギルド』を結成し、日々魔術師と戦っている。

そして私も…。


「唯一戦えるのはお前だけだからな…俺様達は街に残って父さんの手伝いをするから、帰ってこいよ…」

「アンタも入れて六人でこそ『家族』なんだから」

「僕らの事は安心して、戦って…そして無事に帰ってきてね」

「わたくし達は、お姉さまの帰りを待っていますから…」

同じ施設に育てられた仲間…兄妹たちが見送りに来てくれていた。


「父さんがくれたこの『ペンダント』に誓うよ、『必ず帰る』って…」


すると、父さんが後からやってきた。

「そのペンダントはお前を生んだ母さんの形見なんだ。相手は相当な強者だから…気をつけてね」

そして父さんは私に言った。


「行ってらっしゃい、『ラース』!」

「行ってきます、父さん!」

そして私は、戦場へと向かう。


「その赤い髪、その『太陽のペンダント』…お前が噂の『裏切り者』か?」

見るからに強そうな敵はそう言った。

「確か…『赤髪の抵抗魔術師(裏切者)』で、通称…」

敵陣が答える前に私は、名乗り上げた。



私の名は、『ラース・ドラフニスタ』…そして、


「我こそが、『Red Anti Sorcery(レッドアンチソーサリー)』である‼」

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