ウクライナ・ララバイ
降布 麻浪(ふりふ まろう)
ウクライナ・ララバイ
焦げた匂いと土埃の混じった煙、色を失った裸の町の中を
赤や青や緑の防寒着とニットの帽子と手袋をした子供達が
白い息を吐きながら女たちに手を引かれ足速に通りを渡る。
ハゲタカ独裁者の独りよがりで歪んだ正義と虚栄心が
温かなベッドと愛おしい小さな日常、確かにあった明日を未来を
一瞬のうちに廃墟へと変えてしまった。
自分の家族や知人、愛人は安全で快適な場所に匿い、
詐欺まがいの口車を使い、不毛で残虐な行為を若い兵士達に強いている。
同じように愛する人や家族を故郷に残してきた彼らもまた、
日々死の恐怖に怯えながら罪のない人々に銃口を向けている。
自分の故郷に似た町を破壊し、知り合いに似た人達を殺戮する。
そして、侵略(明らかに)されている側は愛する故郷や家族を守るために、
同じように恋人や息子の無事を祈り続けている人々の悲しみを次々に生み出していく、まるで工場の機械みたいに。
アンドリーやニコとサッカーした公園も夏に水遊びした旧市街の泉も壊され、跡形もない。
もう、あのドニエプルの川辺で皆んなでピクニックすることもないだろう。
全ては違う惑星の出来事のようだ。
手の中にあった黄金の砂が指の間をすり抜け、何もかも無くなってしまった。
もうここで、小鳥たちの囀りと眩しい朝の光に目を細めて目覚め、
ママの優しい匂いに包まれることはもう二度とないのだ。
2022年4月10日 東京にて
ウクライナ・ララバイ 降布 麻浪(ふりふ まろう) @eastblue_440
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