現か、幻か
編端みどり
過酷な未来のプロローグ
「姫、ご覧下さい」
「わぁ凄い! 凄いわっ!」
少年が魔法で描いた美しい虹を見た幼い王女は、泣いていた事を忘れてはしゃぎ始めた。
「クライブ様のおかげで助かったわ」
「本当にね。あのわ……」
「しっ! リーリア様がご機嫌になって良かったです。さ、リーリア様のお好きなお菓子をご用意しましょう」
「そ、そうね! リーリア様は可愛らしいすてきな王女様ですもの」
リーリアは家族に溺愛されており、リーリアの悪口を言えばクビになる。使用人達はリーリアの言いなりだ。なんでも思い通りになるリーリアは、ますますわがままになってしまう。
「姫、そろそろ時間切れです」
「えー! 早い! 早いわっ!」
「申し訳ありません。僕はまだ魔法が苦手で……」
「仕方ないわね! あとひとつ素敵なものを見せてくれたら許してあげる」
「ありがとうございます。では、海をお見せします」
「うみ?」
「はい。海の上を魔法で飛んだのです。その時の景色がとても素晴らしくて」
「見せて! 早く見せて!」
「はい。ご覧下さい」
少年の魔法は、現実のような幻を作り出す。
美しく広がる海に、侍女達も思わず感嘆の声を漏らした。
「凄い! とっても綺麗!」
「海の上を魔法で飛ぶと、とっても気持ちいいんですよ」
王女は、小さな嘘を吐いた。
「わたくし、まだ飛べないわ」
飛行魔法が使えないだけだと誤魔化そうとした。リーリアは全ての魔法ができない。誰もが体内に魔力を持っている。魔力を持たない者はとても珍しく、生きていくのに苦労する。
リーリアにはちゃんと魔力がある。教師を無視して、魔法の勉強をサボり続けただけだ。
「練習すればできるようになりますよ。魔法は訓練すればするほど魔力が上がり上手になるのですから」
「どうやって訓練すれば良いの?」
「手を握ってもよろしいですか?」
「いいわ! 許すわ!」
「では、失礼して……」
クライブはリーリアの手を握ると、魔力を流した。
「なにこれ! あったかい!」
「これが魔力です。今、リーリア様の掌は温かいですよね?」
「ええ、なんだか不思議。温かいボールを持っているみたい」
「その温かいものが魔力です。身体に取り込んで、体内を巡らせてみてください」
「こう? わ! 凄い! 温かいものが動いてる!」
「素晴らしい。お上手ですね。これを続ければ魔力が上がります。魔力が上がれば、やりたいことをイメージするだけで魔法が使えます。空も飛べますよ」
「訓練したらわたくしも空を飛べる?」
「ええ、もちろん。最後に空を飛んだらどう見えるかお見せしますね」
「うん! ありがとう!」
少年の見せてくれた景色に、幼い王女は夢中になった。その後、王女は訓練を続けて少しだけ魔法が使えるようになる。
わがまま王女が魔法を使えるようになったと話題になったが、その後付けられた魔法の講師が注意をするとリーリアは泣いた。話を聞いた王はすぐに家庭教師を解雇した。
その後リーリアの魔法講師は見つからず、王女は魔法が苦手なまま成人する。
そして、とても後悔する事になる。
だが今の王女は、何も知らない幼い子どもだ。
無邪気に少年に魔法をせがむ。
「もっと、もっと見たいわ!」
「申し訳ありません王女様。そろそろ魔力切れです。この魔法は、あと少ししかもちません」
「えー、そんなぁ」
「王女様が訓練すれば、いつでもご自分で見る事ができますよ。王女様ならきっとおできになるでしょう」
「仕方ないわね! わたくしは凄いから、練習してあげるわ!」
リーリアはクライブを気に入り、再会を望んだ。だが、娘に悪い虫がつくと思った国王の命令により、クライブは他国に留学させられた。
もしクライブとリーリアが定期的に会えたなら、きっと未来で起きる悲劇は避けられた。
リーリアは今まで通りのわがまま王女のまま、与えられた箱庭でつまらない日々を送った。
自分のちょっとしたわがままがどんな影響を与えるか気が付いたのは、国が滅んだ時だった。
今はまだ可愛らしい王女のわがままも、やがて人々の怒りを買い、付け入る隙を与え、国は崩壊する。
全ての人々がリーリアを見捨てても、クライブだけはリーリアを守ろうと奔走する。
だがそれは、まだまだ先の未来の話。
「さすがリーリア様です。さ、そろそろ時間切れですね。この魔法はあと10秒で解けます」
現か、幻か 編端みどり @Midori-novel
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