第45話 誘拐?
オクフカの深い森の中にある小さな花畑。
そこに存在するのは、魔法で建てた小さな小屋。
小屋の内壁では、魔石を燃料とするランプが静かに輝いている。
数時間前、ソルディから要領を得ない連絡を受け、俺とフォコは大急ぎでザヤミキから帰ってきた。
とにかく急いでくれと言われたため、安くない乗車料を支払って特急列車に乗ってきたのだ。
それなのに。
「ソルディとレグナ、『直談判してやる!』って父親のとこに行っちゃったヨー」
小屋の中にはただ一人。
テラがいるだけであった。
そのテラが開口一番に発したセリフに、思わず膝をつきそうになってしまった。
「……一応、止めたんだけどネ」
表情で俺の心境を察したのだろう。
テラの言葉には慰めのニュアンスが混じっていたように感じる。
「……とりあえずラクアは無事だと思っていいのか?」
「うン」
はっきりとうなずくテラ。
心を支配していた焦燥感や不安が若干薄くなる。
とりあえずそれを聞ければ、安心してこの先の話ができる。
テラは小屋の一角に座り、手に持った木の枝をこねくり回しながら話す。
その手の動きは不安定で、枝が細い指からこぼれそうになるたびに、一瞬手を震わせる。
時折、テラの顔には暗い影が落ち、悲しみや不安の色が顕れる。
しかし、テラの目は私を見据え、その奥には強い意志が宿っていることが窺える。
俺も木製のテーブルをはさんで、テラの前に座る。
「俺たちも今すぐ追った方がいいのか?」
「うーン……」
一息ついて、気を取り直してからテラに今必要なことを聞く。
ソルディとレグナが向かっているということは、ラクアの居場所は把握できているのだろう。
しかし、返ってきたのは煮え切らない言葉だった。
「行っても出来ることがあるかどうか分かんなイ……」
「分かった。ラクアが連れていかれた事情を詳しく聞かせてくれ」
「うン……えっト……」
テラはゆっくりと、俺たちがいない間のことを話しだしてくれた。
「ウチも理由とかはよく分からないんだけド……父親だけじゃなくテ、いっぱい人が来テ、ラクアを連れて行っちゃったんだヨ……」
魔法の書や蝋燭が散らばり、クッションが散乱し、いつもは壁にかけられているラクア手作りの布飾りが地面に落ちてしまっている。
抵抗したのだろう、周辺の散らかり具合からそう察せてしまう。
基本的にけだるげなテラだが、今はかなり憔悴しているように見える。
外は雲一つない快晴であるが、強風が窓をがたがたと叩く音が耳に残る。
背中の汗が普段よりも不快に感じてしまう。
「お前らの父親にこの場所の情報は伝えていたのか?」
「ううン。伝えてなイ」
「まあ、天賦持ちがいるなら別にそれは不思議じゃないか……」
実際、姉妹たちには【予言の財】とやらで俺の位置を捕捉されたことがある。
師匠が遠出しており、俺たちがザヤミキに偵察に行っているタイミングを把握されていてもおかしくないのかもしれない。
「解放されるんだよな……?」
「……」
テラからの返事はない。
確証がないということだろう。
「家出した娘を迎えに来たのならラクアだけを連れ帰るのは不自然だよな」
「うン……」
テラの眉間には深いしわが寄り、口元は苦悩に歪んでいる。
時折、テラは瞬きをせず、眉をひそめ、その指先は小さな震えを示している。
「何かしらの理由でラクアが必要になったのか?」
「多分……」
なぜ今になってなのかがはっきりとしない。
気まぐれでないとしたら、ラクアの成長を待っていたのか。
それとも……。
「旦那……」
不安そうな顔と声。
自慢の狐耳はぺたんとしおれてしまっている。
テラが口を開くたびに、唇がわずかに震え、その声には微かな震えが混じっている。
「悪い。お前らも何が何だか分かってないんだよな」
反省しなければならない。
ここで俺が不機嫌な様子を見せても仕方がないことなんて、考えればすぐに分かるはずなのに。
冷静にならなければ。
「ありがとな、テラ」
「……何のこト?」
「お前もラクアを追いかけたかっただろうに、俺に状況を伝えるために残ってくれたんだろう?」
「……うン」
良かった。
テラの表情が少しだけ柔らかくなった。
「行くか」
「うン……!」
不安と決意を込めて俺を見つめ、その中にはまだ希望の光が輝いている。
テラの瞳はしっかりと未来を見据えていた。
ダンジョンはめちゃくちゃ儲かるらしいけれど無視してぶっ壊します~聖女四姉妹と聖犬と透明勇者の迷宮破壊譚~ 白水47 @sirouzu_s
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