第5話 せっかくなので、料理を更に料理します
――深夜。
ベッドで寝返りを打っていたレイスは、真っ暗な天井を見上げて呟いた。
「眠れん」
環境が変わって眠れないせいもあるが、それ以上に腹が空いて眠れない。
理由はもちろん、今日一日で口にしたものが、ベルの激マズ料理モドキの欠片だけだからだ。
(まずいな。はやいとこ食料調達と医薬品の調達ラインを整えとかないと、本格的に俺の命がヤバい)
とりあえず何か胃に入れないと身が持たない。
そう判断したレイスは、もそりとベッドから抜け出して、廊下に出る。
等間隔で廊下の壁に並ぶろうそくの明かりを便りに、調理場へ向かったレイスは、棚の中を確認する。
干し肉か野菜でもあれば、なんちゃって野菜炒めでも作ろうかと考えていたのだが、棚の中は見事に空っぽで、レイスは思わず舌打ちをした。
「しまったな、食料は貯蔵庫にいかないとないのか」
昼間ベルからいろいろ聞き出して、貯蔵庫があることは知っているが、場所までは教えられていない。
諦めかけて調理場を後にしようと踵を返したとき、レイスは視界の端に何かを見つけた。
「あれは……」
暗闇の中、目をこらさなくてもそれが何かはすぐにわかった。
なぜなら、薄暗い調理室よりもさらにドス黒く、禍々しいオーラを放っていたからだ。
「ベルの……料理モドキ」
食べ残したあと、捨てずに放置されていたらしい。
本来、むき出しで外に置いておくとハエが寄ってくるものだが、ベルの料理に至っては逆に虫除けになっているようだった。
(今日は食材がないけど、いつもああやって虫が寄ってこないようにしてるのかな? 合理的だ)
手料理が虫除けにされるとか、作った側はたまったものではないだろうが……こればかりは流石のレイスも、虫除けに使うことを発案した誰かさんが正しいと思った。
それほどまでに、ベルの料理は前衛的かつ刺激的だったのだ。
そのとき、レイスのお腹からぐぅ~と音が鳴る。
どうやらベルの料理も、腹の虫だけは追い払ってくれないらしい。
「あ~くそ。腹減った」
レイスはお腹を押さえ、それからベルの作った料理を見る。
しばらく真っ黒な塊を見つめていたレイスだったが、吸い寄せられるように歩いて行くと、料理モドキを手に取った。
「こっから何かしら手を加えれば……旨くなったりしねぇかな?」
ものは試し。
空腹に耐えきれなくなったレイスは、カチコチに固まった虫除け料理を食べることにした。
△▼△▼△▼
「――できた」
小一時間ほど虫除け料理と格闘していたレイスは、皿に盛られた、辛うじて肉だとわかる黒い塊を前に、額の汗を拭った。
水を入れた鍋ですすぎ洗いを繰り返すこと10回。
その後、余っていたハーブや香辛料の中に突っ込んで無理矢理臭みを消し、とりあえず焼いておくことにしたのだ。
レイスの前世――万丈明は、料理をした試しがない。
得意料理は卵掛けご飯。
食事はどうしていたかというと、日々三食カップ麺という、不健康極まりない生活を送っていた。
故に、料理知識は壊滅的。
本来ならベルをディスる資格などないが、それでもベルを前にすると、レイスの飯マズ属性など赤子同然だった。
(とりあえず、食ってみるか)
レイスは、おそるおそる真っ黒な塊を口に運ぶ。
「あー……こうするとマズくはないな、ベルの料理」
無論、かなり譲歩して、である。
謎の紫ソースを洗い流し、臭みを無理矢理抜いて香辛料で味と香りを誤魔化したからこそ、辛うじて食べられるものに仕上がっているだけだ。
これを料理と呼ぶ者がいたら、かなりの貧乏舌か、特殊性癖の持ち主だろう。
それくらい、ギリ食べ物として成立している状態だった。
「これは、毎晩ここで調理しないと食べられないな」
やれやれと肩をすくめつつ、レイスは食事を続ける。
と、そんなレイスの様子を。
頬を真っ赤に染めて、入り口の廊下から見つめている人物がいた。
言わずもがな――ベルである。
女神に嫌われて《恋愛フラグを折られる呪い》をかけられた俺、一周回ってなぜかモテた件。 果 一 @noveljapanese
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