7-4

ネイピアが話終わるなり、フューは目をキラキラさせながらテレジアナに話しかけた。


「ジーナ!さっきのすごかった!オレにも教えてよ!」


フューはあのテレジアナのかっこつけにすっかり魅了されてしまったらしい。


純粋なおめでたい奴だと思いながら見ていると、続いてリズまでもがその輪の中に入っていく。


「あの…よろしければ私にも、コントロールの仕方など教えていただけないかしら」


どうやらテレジアナの態度に嫌気が差しているのは僕だけのようだ。


そんなに持ち上げると絶対調子乗るだろ…


案の定、テレジアナの口角は分かりやすく上がっている。


しかし、あくまでツンとした態度で


「そうね、わたくし自分の試験対策には余裕がありますの。お手伝いして差し上げても宜しくてよ」


と答えた。


ああもう、まじでうざい。


そしてこの上から目線発言をなんとも思わないかのように、それどころか有り難がっている他の二人にも腹が立つ。


こいつらと一緒にやっていくのなんてごめんだ、と離れて行こうとした背中を、テレジアナの声に引き止められた。


「シンシアさん、あなたにも基礎から教えてあげますわ。ご遠慮なさらずこっちにいらっしゃいよ」


つまり僕が基礎からできてないって言いたいのか。


ガキ相手に怒鳴るのも馬鹿らしいから、腹の底から湧き上がるむかつきを抑えながら「いい、自分でやる」と返した。


しかしテレジアナはそれじゃ納得しなかったらしく、さらに重ねてくる。


「そう意地を張るのはよろしくありませんわよ。はっきり言って、あなたが1番危ないと思いますわ」


ああ、その通りだ。


だけどこんな奴に言われるのは我慢ならない。


「お前の助けなんか借りる気ないから。ほっといてくれよ」


そう言うと、テレジアナの白い頬がみるみる赤くなっていく。


「お前ですって…?マイエル伯爵家の娘に向かってなんて無礼な!大体、その乱暴な言葉遣いはなんなんですの!?訂正なさい!」


「訂正?なにを?」


テレジアナの金切り声と二人の間に張り詰める緊張の糸を感じて、フューがおどおどと二人の顔を見比べ出した。


その様子を見たリズが、少し戸惑いながらも落ち着いた声で言う。


「おふたりとも、喧嘩はよして…」


「クラリス様!シンシア嬢はわたくしを侮辱したのですわよ!わたくしがせっかく手を差し伸べてあげたと言うのに…」


テレジアナは真っ赤な顔でこっちを指差しながら、品性も忘れて怒鳴っている。


僕はそんなの全くどうでもいいという風に目も合わせなかったが、それがさらに自尊心の高すぎるお嬢様を刺激するらしい。


「なんとか言いなさい!」


今にもこっちに掴みかかろうという勢いをなだめるように、リズはテレジアナの左腕をそっと押さえる。


「たしかにシディーのさっきの言い方は良くなかったわ、だけど今はそっとしておきましょうよ…ね?」


しかし当然それじゃあテレジアナの怒りは治まらない。


そこに見かねたネイピアが、


「二人ともちょっと落ち着きなさい、せっかく練習場に来てるのに、もったいないわよ」


と二人の間に割って入った。


「ネイピア先生!シンシア嬢が…!」


テレジアナが訴えるように言う。


ネイピアはテレジアナの方にかがみ込んで、その頭を撫でた。


「ええ、良くなかったわね…だけどシディーにも色々思うことがあるのよ。今はちょっと我慢してあげられる?」


「…わかりました」


テレジアナは色々な感情を押し込めるようにして小さく言った。


その目はやはり納得できないというように潤んでいる。


そうしてネイピアに慰められている姿は、急に子どもらしく見えた。


ネイピアは僕の方に振り返って、「シディーも、あとでちゃんと謝るのよ」と言い聞かせる。


なんで僕が…とは思ったが、なんだかもう譲歩してやっていいような気になっていた。

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美少女に転生したけど納得いかないので男に戻りたい かずあきら @kazuakira99

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