第50話 一郎君にピッタリだと思ったのですが

「えへへへへ」


 家に帰ってから、私は一郎君から頂いたプレゼントの薔薇を早速飾ることにしました。

 元々は池さんが持っていた薔薇ではあるのだけれど、誰の物だったとかそういうことよりも、一郎君が私に手渡してくれたという事実がとても嬉しかった。


「じゃがいもスターの隣に飾りましょう」


 お気に入りの棚の中には三つのプレゼントが並んでいる。

 一番左には以前ゲームセンターで一郎君がUFOキャッチャーで取ってくれたじゃがいもスターのヌイグルミ。

 真ん中にはじゃがいもスターの玩具。録音機らしいですが勿体無くて録音機能はまだ使っていません。一郎君はじゃがいもスター11号と言っていました。

 そして一番右には今日頂いた薔薇の花。って、これよく見ると造花ですね。でもとても綺麗です。


「……って、そういえば……」


 以前、こんなことを言っていたのを思い出す。

 アレは球技大会の日、池さんが口に咥えていた薔薇を女の子に上げていた時――




     ――『なるほどー。女の子というのは口に咥えた薔薇をプレゼントされると嬉しいのか。初めて知ったぞ!』


     ――『……一郎君、間違ってもあの人みたいな真似しないでくださいね』


     ――『アレは池君以外の人がやったらドン引きされるよ。まぁ、池君がやっても私はドン引き気味だけれど』




「あ、あはは……」


 乾いた笑いが出る。

 間違ってもあの人みたいな真似をしないでと言ったのは私だったはずなのに。

 いざ真似をされると、ドン引きどころかこんなにも嬉しいだなんて……


「えへへへへへへへへ」


 他人に見られたら今の私は気持ち悪いことこの上ないでしょう。

 実際自分でも気持ち悪い笑いを浮かべていると思います。

 でも一郎君が私の為に尽くしてくれて、本当に嬉しい。

 いつも……いつも……私の為に……

 ……アレ?


「って、私いつも貰ってばかりで何もお返ししていません!」


 今更ながらとんでもないことに気付いてしまった。

 私、最低です。一郎君が私の為に色々良くしてくださっているのに、私、一郎君に何もやっていませんでした!


「こ、これは由々しき事態です」


 このままでは私すごく嫌な女の子になってしまいます。

 早急に一郎君にお礼をしなければ!

 それに……


「一郎君に……お礼がしたい……」


 私の中で一番大きな気持ちとして膨れ上がっているのがそれだった。

 お礼……やっぱりプレゼントが定番ですよね。

 プレゼントをもらったからプレゼントを返す。普通のことです。

 それに、もし私からのプレゼントで一郎君が喜んでくれたら、それだけで私は幸せな気持ちになれそうです。

 幸いにも明日は土曜日。

 休日を存分に利用して一郎君へのプレゼントを探してきましょう。


 でも今日は……


「えへへへへへへへへ」


 お気に入りの棚に並ぶプレゼントの列を眺めて再び笑い出す私。

 今日くらいは幸せな気持ちに浸っていても罰は当たりませんよね?







「う~~~ん」


 翌日。

 駅中の雑貨屋さんの前で私は頭を悩ませていた。

 私の前に二つの雑貨が棚に並んでいる。

 そのどちらかを一郎君のプレゼントにしたいと思っているのですけれど……


「う~~、こっちが良いと思うけど、こちらも捨てがたいです」


 一郎君に似合うのは圧倒的に右なんでしょうけど、私的には左も一郎君っぽくて良いと思います。


「何悩んでるの? 月ちゃん」


「はい、一郎君へプレゼントのお返しをしようと思っているのですが、どっちが良いか悩ましく――って、いつの間に後ろに居たんですか!?」


 小野口希さん。

 つい最近下の名前を知ることが出来たクラスメートで、とても仲良くさせて頂いている人です。

 特技はこのように誰にも気配を悟られずに背後へ立つことだと最近気付きました。

 いつか驚かずに出迎えたい所ですが、この調子ではしばらくは無理そうですね。


「どれどれ~」


 両手を私の肩に置いて、頭の上から覗き込むように棚に並ぶ雑貨を見る小野口さん。

 次の瞬間、何故か小野口さんの身体が硬直した。


「1/50歴史人物萌えフィギュアとリアルウナギぬいぐるみ?」


「はい! 小野口さんはどっちがいいと思いますか?」


「どちらもいいと思わないよ!」


 期待を込めて聞いてみたけど、小野口さんはなぜか呆れ顔のままため息を一つ吐いていた。


「こんなこと言いたくないけど、月ちゃん、センスが絶望的にないよ!」


「そ、そんなことないです。一郎君にピッタリだと思ったのですが……」


「月ちゃんの中で高橋君はどういう人間性なのさ!? 前者はまだ分かるとして、どうしてリアルウナギというチョイスが出てくるの!?」


「このつかみどころがない所がすごく一郎君っぽいかなーっと」


「さりげなく酷いこと言ってる!? リアルウナギぬいぐるみプレゼントされても高橋君困惑するだけだよ!」


 そうでしょうか? 可愛いと思うのですがウナギさん。私が欲しいくらいかも。

 でも、確かにぬいぐるみをプレゼントされても喜びそうはありませんね、男の子ですし。

 よしっ! ならば一郎君へのプレゼントはこっちです。


「すみません。この歴史人物萌えフィギュアをくださ――」


「ストォォォォォプ! そっちもだめぇ! 月ちゃんは一度その二択から離れなさい!」


 何故か小野口さんに全力で止められてしまう。

 どうして止められるのでしょう? よく分からず小首を傾げる。


「心底不思議そうな顔しない! もぅ、仕方ないなぁ。プレゼント選びに関してはこの希ちゃんが助言をしてしんぜよう」


「手伝ってくれるんですか?」


 期待の眼差しで見つめながら問うと、小野口さんは小さく笑って首を縦に振ってくれた。


「もちろんだよ。でもあくまでも選ぶのは月ちゃんだよ。私は名サポーターとして着いていくだけ――」


「――あっ、小野口さん小野口さん。アレなんか良くないですか? 黒い霧が出るカキ氷器! なんかそそられます!」


「不衛生なカキ氷ができそうだよ! まずはその変な物を見つける才能を何とかしなさい!」


 むー、これも駄目ですかぁ。でもいいなぁ、アレ。今度こっそり買いに行こうかなぁ。


「それにしても、なんか今日は駅中騒がしいよね。芸能人でも来ているのかなぁ?」


 確かに言われてみれば周りがざわついているように見えます。

 駅でイベントでもあるのでしょうか?


「あっちで何かやっているのでしょうか?」


「行ってみよっか」


「えっ? でもプレゼント……」


「あっちにも雑貨屋さんあるよ。面白い物たくさん置いてあるし、私的にはそっちがお奨め♪」


「はぁ……」


 こっちの雑貨屋さんにもすごく面白そうなものが沢山おいてあるのですが、ここよりも凄いのでしょうか?

 とりあえず小野口さんに着いていくことにしましょう。

 ……黒い霧が出るカキ氷器、次に私が来るまで買われてないといいなぁ。







「すみません。イケメンを一つください」


「……………………ぇ?」


「おっと、すまない。イケメンはすでに俺が持っていたね」


「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁ! 池きゅぅぅん! 格好良いぃぃぃぃぃっ!!」」」


 駅前のざわつきの原因が一発で分かりました。

 池さんが服屋さんの店員さんを困らせている。

 その様子を見て、なぜか池さんのファンが黄色い声を上げていた。


「「「イケメン! イーケメン! イーーケメン!」」」


 球技大会の時にも聞いた謎の三拍子がファン達の間で上がる。

 なんでしょう。こんなこと思っちゃいけないのでしょうけど、すごく宗教的な臭いがします。


「い、いこっか、月ちゃん」


「そ、そうですね」


 同じ勉強会の仲間なので挨拶くらいはしたかったのですが、とてもそんなことできる状況ではない気がしました。

 挨拶をしただけで何だかファン達に刺されそうな雰囲気がある。

 でも改めて池さんの人気っぷりが分かった一時でした。







「しっかし、池君まで駅にいるとはねー。ひょっとして高橋君や青士さんまで居たりして」


「ま、まさか……」


 でも一郎くんならあり得る話です。

 妙な意外性を発揮する人ですし、油断はできません。

 ついキョロキョロと辺りを見渡してしまう。


「なんで『先生』っていう選択肢が最初からないのよぉぉ!」


「「わぁぁぁっ!!」」


 一郎君も青士さんも見当たらなかったけれど、代わりに西谷先生が私達の背後に居ました。

 なんていうか、完全に不意を突かれた感じです。

 そうでした。意外性を見せるという意味では西谷先生は一郎君以上に注意が必要な人物だったのです。


「二人ともデート中? 羨ましいね~」


 デートって。

 女の子同士でもデートって言うのでしょうか?


「西谷先生はおひとりですか?」


「……ぅっ! わ、悪かったわね! 休日に食べ歩きして何が悪いっていうのよ!」


 なぜか逆切れされました!

 それにしても休日に一人で食べ歩きなんて、もしかして先生もぼっちなのでしょうか?


「西谷先生、結構ファンが多いのにどうして一人なんです?」


 小野口さんが疑問を投げる。

 確かにその通りです。西谷先生は池さんと同じくらい――とは言わなくても、かなりの人気を持つ人だったはずです。

 実際、すごく綺麗――というより可愛い人ですし、私服姿も大人っぽくてとても素敵です。


「どこ情報よ、それ! どうせ私は友達居ないもん! 絶対貴方達も就職したらこうなるんだからぁ」


 先生が生徒に脅しをかけている。

 高校や大学卒業後、みんな離れ離れになって徐々に一人になっていくみたいな話は聞いたことありますが、その具体例が西谷先生だったなんて。

 もしかしたら私もそうなるのでしょうか。今隣にいる小野口さんとも青士さんとも池さんとも……

 一郎君とも――


    ぶんぶんぶんぶんっ!


 そんなわけない。少なくとも一郎くんとは『経験値稼ぎ』という共通目的があるのですから、そんな簡単に関係が壊れるはずないです。

 私は首を大きく左右に振って、ネガティブな未来思想を止めることにした。


「二人はこれから時間ある? おやつくらいは奢るわよ」


「マジかよ! ひゃっほ~い! センセ、アタシ、バーガーが良い。ギガバーガー!」


「「「うわぁぁぁぁぁぁっ!」」」


 いつの間にか今度は青士さんが私達の背後に潜んでいました。

 どうしてこの場に居るのか? という疑問よりも先に、どうしてここに居るメンバーは挨拶も交わさずに背後に潜むようなことばかりするのか、それが不思議でたまらなかった。


「い、いつの間に居たの? びっくりしたなぁ。変なエンカウントやめてよ」


 あの小野口さんですらこの出現に驚いている。

 ……小野口さん、今日一番最初にそういう出現をしたのは貴方ですからね?


「ギガバーガーがアタシをここに呼んだんさ。センセ、早くいこーぜ。ポテトLサイズ頼んでいー? それと飲み物はシェイクで!」


「さりげなく遠慮ないわね。まぁ、いいけど。ほらっ、二人も行くわよ」


「あっ、で、でも……ぷれぜんと……」


「いいじゃない、月ちゃん。まだまだ時間はあるんだからさ。ここはゴチになろうじゃないか~♪」


「は、はぁ……」


 なんだろう。徐々に本来の目的から外れてきているような気が……

 本当に今日中に一郎君へのプレゼントが買えるのか、今から心配になってきました。







    パクパクパク……


 常温に置かれたパンはそれだけで美味で、だけどその二つのパンに挟まれたハンバーグの存在が大きすぎて、それら全てが合わさった時、それは美味しさの形として出来上がる。

 だけど、それは完全ではありません。

 本当の引き立て役はパンではなく、ハンバーグに適よく掛けられたトマトケチャップ、歯ごたえ抜群のレタス、添えられるように置かれたピクルス、そして口の中で自然とトロけてくれるチーズ。彼らがいるからこそ、それは完全体として成し得るのです。

 ハンバーガー。ファストフーズのキングの一角。お店に入るだけで幸せな気分になれる不思議な食べ物。


「「「…………」」」


 あ、あれ?

 ふと気が付くと、小野口さん、西谷先生、青士さん三人の視線が私に集まっていました。


「おめー、幸せそうに食べるな」


「はい?」


 なぜか呆れ半分で青士さんにツッコまれる。

 私的には普通に食べていただけなのですが、どうして三人共不思議そうに見つめるのでしょう?


「美味しいものを美味しそうに食べることは割と難しいはずなんだけど、星野さんはそれが自然と出来るのね」


 西谷先生からは感心した眼差しを向けられる。

 だけど言っていることはよくわかりませんでした。

 美味しいものは美味しい。それを不味そうな顔で食べる方が難しいのでは?


「もぉぉぉ。月ちゃんは可愛いなぁ♪」


「わぅ……」


 小野口さんがまたも抱き着いてくる。

 食事中だけはやめてもらいたいのですが……

 あっ、いえ、食事中じゃなくてもこの抱擁と頬ずりは慣れないです。


「しっかし、休日にこれだけのメンツが揃うってすげー偶然じゃね? 高橋や池もどっかに居んじゃねーの?」


 先ほど私と小野口さんが思っていたことを言葉にする青士さん。


「池さんなら青士さんや先生と会う前に服屋さんで見ましたよ」


「服屋さんでイケメン買ってた」


「……普通なら意味不明なセリフなはずなんだが、池の場合は何故かその様子が目に浮かんでくるな」


「まーね。ファンの子もいっぱい取りついていたし、邪魔しちゃ悪いと思ってみなかったことにしてきたよ」


「な、なんか文章としておかしいような……? まっ、いっか」


 このグループの中で池さんの扱いがドンドンひどくなっていくような……

 一番の新参なのに、ちょっとかわいそうになってきました。


「高橋の方はどうなん? 近くにいねーの? どうなんよ、星野」


 なぜか私に名指しで聞いてくる青士さん。


「んー、今日は会っていないので何とも……」


 そもそも一郎君へのプレゼント選びで今日外出しているわけですので、一郎君と出くわすとまずいのですが。


「星野さん、ちょっとメールしてみたら? 一番のお友達なんだからアドレス知っているでしょ?」


 そういえば先生には以前一郎君は私の親友ですって公言したんでしたっけ。

 うーん、でもメールですかぁ。今日だけは一郎君と会う訳にはいかないけど、メールするくらいならいいかなぁ。

 一度ハンバーガーを置き、ナプキンで手を拭いてから携帯電話を取り出す。

 未だ一郎君としかメールしたことないですけれど、あの人とのメールは文章がすぐに思いつきます。




  ――――――――――

  From 星野月羽

   2012/07/07 15:33

  Sub アウトドアっ子の月羽さんです

  ――――――――――


  今何をしていますか?

  何のゲームをやっているんですか?

  休日なのに一日中外に出ないつもりですか?

 

  -----END-----


  ―――――――――――




 これでよしっと。

 メール送信後、ハンバーガーを再び頬る。

 やっぱり美味しいです。これがお手軽値段で購入することが出来るなんて素晴らしい世の中です。



    ~~♪ ~~~♪



 五分くらい経過した後、私の携帯が音を鳴らす。

 メールだ。

 送り主は勿論一郎くんだった。




  ――――――――――

  From 高橋一郎

   2012/07/07 15:39

  Sub いやぁ 今日も筋トレで忙しいなぁ

  ――――――――――


  ごほん、ごほん 何を言っているのやら

  休日にゲーム三昧なんてあるわけないじゃないか

  さて、今から日課であるジョギングにでも行ってこようかな

 

  -----END-----


  ―――――――――――




「一郎君は家に居るみたいですねー。たぶん今日一日中部屋から出ないと思われます」


 予想通り、一郎君はゲームをして休日を過ごしているようです。

 まぁ、私もプレゼントのお返しを思いつかなければ一郎君と同じ過ごし方をしていたのでしょうけど。


「ふーん。まっ、高橋っぽいな」


 ポテトを頬張りながら喋る青士さん。

 何気にこの人が一番多くの量を食べています。

 でもそれでもこの中で一番スタイルいいんですよね……本当、身体の構造どうなっているのでしょうか?


「えー、高橋くん来ないの~? つまんないなぁ」


 小野口さん。今日の目的忘れていませんよね?

 今日一郎君と出くわすと不味いこと忘れていませんよね?


「ふーむ、先生的にはクラスのお友達と遊んでいてもらいたかったんだけどなぁ。まだクラスに溶け込めていないのかなぁ」


 西谷先生は心配そうにつぶやいていました。

 そうでした。少し前に西谷先生と対談した時、一郎君は『その内ちゃんとクラス内にも友達を作ります』って約束していたんでした。

 でも総経験値320程度で友達作りが出来るでしょうか?

 一郎君の可愛さと格好良さのギャップをみんなに分かってもらえれば女子生徒に人気が出そうですが……


 ………………

 …………

 ……


 一郎君には男子のお友達を作ってもらいましょう。

 異性の友達はこんなに居るんですから、もう十分ですよね、女の子は。

 それと、仮に一郎君に友達が増えたとしても『親友』のポジションは絶対に渡さないんですからぁ!

 うん、そこだけは譲れません。


「ごちそーさん。センセ、上手かったぜ」


 一番多い量を食べていた青士さんが一番早く食べ終わっていた。


「はいはい。遠慮無かったわね青士さん」


「これでも控えたっつーの。腹二分目ってやつ?」


 これで控えていたんですか!?

 ていうか二分目!? あと五倍食べられるってことですか!?


「私もご馳走様でした。先生、美味しかったです」


 見ると小野口さんも食べ終わっていた。

 わわっ、食べ終わっていないの私だけです。急いで食べなきゃ。


「……はむっ……もぐ……はむはむ……もぐ……」


 一口が小さいせいか、ハンバーガーが中々減りません!

 ぅぅう、一郎君と休日経験値稼ぎした時は食べ終わるタイミング同じくらいだったのにぃ……


「ねね、月ちゃん、私、思いついたんだけど」


「……はむ?」


 小野口さんが急にこちらを振り返り、思わず食べる動作を止めてしまう。

 ハンバーガーを齧りながら私は小首を傾げた。


「月ちゃんさ、今ケータイ出した時、ストラップ付けてなかったよね」


「……もぐもぐ」


「だから……さ――」


「……はむはむ」


「あああもう! 月ちゃん可愛いよぉぉ!」


「はぐっ!?」


 突然話を切って抱き着いてくる小野口さん。

 だから食べている時はそれやめて貰いたいです。ハンバーガーが喉に詰まりかけました。


「というわけで、私と月ちゃんはこれからラブラブしてくるんで、また来週ね」


「わ、わわわっ!」


 貞操の危機を感じながらも小野口さんに引きずられているように退室する私達。

 青士さん達はその様子をポカーンと見つめていた。


「いいん? アレ、何気に星野ピンチじゃね?」


「いいんじゃない? あれこそ友情よ。高橋君もクラスメートとああいう風になって欲しいんだけどねぇ」


「それ、なんかホモの臭いしね?」


「いいのよ。友情とホモは紙一重なのよ」


「…………」


 店内に残った青士さんと西谷先生が何やら危険な会話をしていた気もしますが、それ以上の会話は私の耳に入ることはなかった。







 小野口さんに引きずられるままやってきたのは、駅中の隅っこにある携帯ショップでした。

 でもどうしてここに?


「思い出したんだよね。そういえば高橋君もストラップ付けてなかったなって」


「……あっ」


 ようやく小野口さんが言いたいことが見えてきました。

 どうして小野口さんが一郎君のケータイにストラップが付いていないことを知っているのか、とかほんの少しだけ気になりましたが、この人に対してそんな細かいことツッコむだけ無意味ですよね。


「プレゼント、それにしなよ。ついでに自分のも買ってお揃いにしちゃえ♪」


「は、はい!」


 それだけ言い残すと、小野口さんはそのまま踵を返し、ショップから出て行こうとする。


「あ、あれ? 小野口さん帰るんですか?」


「うん。言ったでしょ? 今日の私は名サポーターさんなのだ。プレゼント選びは月ちゃんがやるんだよー。じゃね♪」


「あ、ありがとうございました!」


 小野口さんを見送り、再びプレゼント選びに戻る私。

 わぁぁ、可愛いストラップがいっぱいです。すごくすごく迷います。


「うーん。ゾウさん、アルパカさん、ブタザルさん……動物シリーズがいいですかね~……あっ、でもでもこっちの家電ストラップシリーズも可愛いです」


 ストーブのストラップ、掃除機のストラップ、ソーサラーリングのストラップ……ぅぅうう、可愛いのが多すぎて困ります。

 でも、時間はまだまだあります。存分に悩んで一郎君にピッタリのストラップを探し出してみせます。


「なんだか楽しくなってきました」


 経験値稼ぎ以外の過ごし方でこんな楽しい気分になったのは本当に久しぶりでした。



―――――――――


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新作【転生未遂から始まる恋色開花】の投稿を始めました。

もしよければそちらもご覧いただけると幸いです。

https://kakuyomu.jp/works/16817330666247715045/episodes/16817330666248420198


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