30. さようなら、アッシュ

 ぼくは、フレアを抱きしめた。

「さようなら」

 そういうと彼女は涙を流し、「戻ってきてね」と言った。


 そしてぼくのポケットに、四つ折りくらいの紙をいれた。

「あっちについたら、読んでね。この国へと戻ることができるかもしれない方法が、事細かに書いてあるから。きっと大丈夫だから。わたしの仮説は、必ずと言っていいほど正しい」


 彼女はやけに饒舌じょうぜつだった。その理由は、震えている両手を背中に感じることで、一瞬で了解できる。恐れは、ひとを黙らせるか、もしくはおしゃべりにさせる。


「自分から飛びこもうか?」

「ううん、大丈夫。いま、噛みしめているところだから」


 じゃあ、自分から飛びこんであげた方が、よさそうだ。

 ぼくはフレアの方へと向き直り、背中から落ちようとした。


 しかし、そこにいたフレアの表情は――ぼくは二度と、彼女のあの表情を忘れることはないだろう。


「さようなら。おバカさん」


 ぼくは、次の瞬間、急激な速度で落下していった。遠いところで、紙吹雪が舞っているのが見えた。

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残る2つの未解決問題を解くには、彼を突き落とすだけでいいのに。 紫鳥コウ @Smilitary

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