<第1話>夢じゃない

 「 「 「 ね・ぼ・う・し・たあぁぁぁぁあ!!!! 」 」 」



 いつも通り、古隆寺こりゅうじ家全体を揺らすような絶叫が響き渡った。


 いつも通り、その声で目を覚まし、居間へと向かう妹。


 いつも通り、それを押しのけて居間へと向かう自分。


 いつも通り、居間でスマホを持ってくつろいでいる姉。




 私は姉に駆け寄り、姉が触っている 自分のスマホを取り上げる。


 「あっ」



 姉が状況把握を行う前に、私は自室に戻り パジャマを脱ぎ捨てる。


 「なんで……なんで……今日に限ってーーっっ!!」



 スカートを履き、Yシャツのボタンを留めている間も、時間は経過して行く。


 「あぁぁぁぁ……!!」



 靴下を履くのに苦戦していた時、どこからか 振動がなった。


 「っ……!?」



 それはブーーッ、ブーーッっと音を立て、私の気を散らすには十分な雑音であった。


 「……ッ…!」



 靴下を履くのを諦めて、スマホを手に取った。


 電話のようだが、私は発信相手も確認せずに電話に出た。


 「はい、もしもし!! 今急いでるんで、あとに、 し、  て……?」



 後から相手の電話番号を見て、私は唖然とした。


 「……な、何これ……」



 今、不可思議なことが起こっている。


 掛かってきたのは、なんと自分の番号・・・・・・だったのだ。


 「…いや…不具合か……」



 朝っぱらからの不気味な現象に 背筋も凍りついたが、単に何らかの故障で 自分の番号が表示されているだけ なのかもしれない。


 それでも 気味が悪いことに変わりはないので、すぐに電話を切った。


 相手の話も、用件も、聞かずに。







 「…はぁ…はぁ……」



 何とか学校の校門まで走って来ることができた。


 だが、


 「――キーンコーンカーンコーン」



 始業のチャイムが鳴り響き、この瞬間より 私は「遅れ」となった。


 「あ、あぁ……行かな、きゃ……」



 それでも校門を通り、校舎まで必死に足を動かした。




—―このとき、私はまだ知らなかった。 


 「……ゼェ……ハァ……ゼェ…‥ハァ……ハァ…………ハァ…………」



――学校、いや、「この町」を覆いつくしている「非日常」を。




 息を切らして昇降口に足を踏み入れた。


 そして————。







 「 「 「 !!!!?? 」 」 」



 声が出なかった。


 一瞬 目の前の光景を理解することが出来ず、今やっと、恐怖を感じた。


 「……な、なん、なの……。……これ、これ、は、いっ、たい……!」



 動悸が起こり、呼吸が苦しくなってきた。


 






 昇降口には、誰もいなかった。


 ただその代わり、数多あまたの首なし人形が 転がっていたのだ。


 それもほんの10個、20個程度ではない。


 何千もの・・・・胴体が、床を埋め尽くしていたのだ。


 「……あ……あぁ……! ああ……!!」



 あまりにむごい光景に、私は悲鳴を上げることもできず、後ずさって、後ずさって…………



 「――ズサッ」



 昇降口前の 3、4段の階段から落下した。


 「――ガンッ」



 直後、頭に激痛が走ったと思ったら、スッと意識が遠のいた。

























 「――――――る———!」







 「―――あ——————め——!」







 「――――――――――あるめ———!」







 「(……う……うぅ……)」







 「――――クソッ、全然 起きねえ! やっぱ先生呼ぶか!?」







 「(……あ、ああぁ……ちょっとだけ……頭が痛い……)」







 「――――あぁもう、何なんだよ! なんで こんなところで倒れてんだよ!」



















 「……………………っ!!!!」




 ようやく意識を取り戻した。




 私は 気がついたら ベッドで寝ており、周りは白いカーテンで囲まれていた。




 「……ここは……保健室……? でも、なんで……」



 そのとき、バサッとカーテンが開いた。


 私はビクッと驚いたが、そこにいたのは保健室の先生だった。







 先生の話によると、どうやら 同じクラスの男子が、昇降口前の階段下で倒れている私を発見して、それを女子が保健室まで運んでくれたらしい。


 「具合悪いなら無理しないの」と軽く注意され、今日は 家に帰らされることと なった。


 なにせ私は、熱が39度もあったのだ。


 自分でも驚くほど高熱で、今まで風邪を引いたことのない私の人生では最高記録だった。


 「親に電話する」と受話器を取ろうとする先生を 私は止め、お礼を言ってから サッと保健室を出た。




 さて、あとは家に帰るだけ。










 —―そう思ったのも、束の間だった。


「…………あ、れ……?」



 私は、昇降口の入った所に 立っていた。


 足元には、無数の人形の胴体。




 振り返ると、昇降口の扉は閉まっており、辺りは 夕闇のように 薄暗かった。




 「あぁ、やっぱり……」



 ――夢じゃなかった。

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ファンタジー・ダスト青春記 ~或る目に映るは夢想幻影~ イズラ @izura

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