たまらない

二十歳の誕生日を迎えた時、初めに迎えたのは住み慣れた家とは異なる天井だった。


五歳の頃から始めたサッカー。今では十六年目となるこのスポーツで、私は半月板断裂という大怪我を負ってしまい、手術のため入院していたのだ。


二十歳の誕生日というのはどこか特別な物になると思っていたのだが、環境のせいだろうか、嬉しさだったり達成感だったりと感じる事はなかった。ただいつもと変わらない一日が過ぎるのみである。


ああつまらない。


何か面白いことが起こればいいのに。


と、入院中の私は常々思っていた。

体育会に属する大学生。遊びたい盛りなのである。そんな人間に病院という閉鎖的で、変わり映えの無い日々を過ごす義務を与えられる場所は果てしなく退屈なのである。


しかし、そんな生活にも悪くないと思えることもあった。とても可愛い看護師がいたのだ。正直に言おう。とてつもなくタイプだったのだ。


少しでも仲良くなろうと、採血をしてもらう際やご飯を運んでもらう際など、様々な場面で声をかけたが、自分なんて運ばれてくる茶碗の中の米粒の一つでしかなかった。


虚しくも一夏のアバンチュールもとい、一入院のアバンチュールを成し得ることはできなかった大学生は、パソコンの中の世界に入り浸ることとなる。


あくまで学生であるため、大学からの課題もあるし、授業の配信もあるのだ。暇なのが幸を奏して、その期間の授業は普段より楽しいものとなった。


存外、授業の内容は面白いもので、心理学などの授業を取っていたこともあり、今の自分をそれに当てはめてみたりもした。

間違っても自分は学問に興味がある訳ではなく、ただの興味本位でそれを行ったことは分かっていて欲しい。


そんな自分の分析結果というものが面白いもので、色恋に熱中しがちというものだったのである。つい先日、新たな恋の始まりと終わりを得たばかりだった自分にとっては


ああ、たまらないものだったのである。






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そらのあおさ まあるい @fullfull

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