第一章 物騒なプロポーズは突然に⑤
「ヴォルフ様! 早まられるな!」
「げっ!
赤色の髪の男性と、青色のショートボブヘアの少女──。騎士とメイドといった装いの二人が、それぞれヴォルフとフェルマータに
「
赤髪の男がものすごい
(この
ホッとしたからか、ようやく思考と感覚が
「わっ。蒼い火ぃ出てんだけど! あの話って、ホントだったん? やっぱ、辺境伯に何かされてんじゃん!」
メイドが心配そうにフェルマータをのぞき込むと、それを聞いたヴォルフは
「おい。俺が危害を加えたと言いたいのか」
「しかないじゃん。アホ辺境伯!」
「いい度胸だ、ブルーナ。表に出ろ!」
メイドがふてぶてしく舌打ちし、ヴォルフが声を
あぁ、こいつらうるさいなと、フェルマータが黙って背中の熱に
「心配はご無用。
赤髪の男が
すると、フェルマータと同じ蒼い炎が、彼にもゆらりと揺らめいているではないか。そういえば、けっこう前から燃えていたような気がする。
「ヴォルフ様は平然としていらっしゃいますが、この【砂時計の刺青】も蒼炎を帯びております。聖女様も同じでしょう」
「そう……だけど」
フェルマータが目を
そして、赤髪の男の口から
「【砂時計の刺青】の蒼炎反応は、呪いが解けつつある
(聞き間違い? 愛とか運命とか聞こえましたけど?)
フェルマータはぎょっとして、赤髪の男を見つめ返す。
だが、彼の
「いやいや、運命って。愛で呪いが解けるなんて」
「ナギア王国一の【死神】学者の見解です」
「そんなの初耳よ」
「三年間森に引き
赤髪の男は、
「実際、聖女様はヴォルフ様に愛までとは言わずとも、感謝の念を
である。
これにはフェルマータも「たしかに」と
(たしかに、危ないところを助けてくれて感謝したし、
「で、でも! だからって、いきなり
「
フェルマータは
かつて、愛を信じた末にこっぴどく裏切られた身なのだ。フェルマータにとって、人を愛することは十分にトラウマになっていた。
(ケビンは私を自分に
そんなフェルマータの胸中を知ってか知らずか、
「あなたが無理に主を愛する必要はありません。主から愛されるだけで、あなたの呪いは解けるのですから」
と。
フェルマータの真隣にいるメイドにも聞こえていたらしく、彼女は「家臣のくせに」と批判めいた感想を
聞こえていないのはヴォルフだけ。彼には気の毒だが、フェルマータにとっては朗報だ。
「形だけでも妻になって生活していれば、ご主人様の良い所が見えてきて、きっと好きになってくれるはず……とか思ってる? 甘いわよ」
フェルマータは
やはり、バケモノと呼ばれる【不死の
けれど
「これからよろしくお願いします。
仁王立ちから一変。ぼろぼろになった聖職衣の
(もう、誰も愛したくない。だけど、死にたくはない。なら、やるべきことは決まってるじゃない)
ヴォルフの金色の
「……貴様と俺の
「えぇ。呪われ婚の終わりを目指して──」
『死にたい』と『生きたい』を
あぁ、聖女なのにこんな
(私の呪いさえ解けたら、こんな契約結婚、すぐに解消してやる。それまでせいぜい全力で愛してよね、【不死の狼騎士】様)
● ● ●
王都に在するゾタ教会に、一人の男が静かに入って行く。
黒茶色の長い髪を垂らしている、中性的な顔立ちの若い男。ゆるりとした司祭用の聖職衣に身を包み、光を失った目を閉じたまま歩を進める彼の名は、ドルマン・エンセント。他者を寄せ付けない
「今日は一段と熱心に
ドルマンが
浅黒い
「当然だ。
「命……というと?」
「ドルマン。貴様、
男は神杖を手に取ると、
「そうでしたね。もう三年
「そうだな。その時代には【死神】を
再び目を閉じ、主であるゾタ神に祈りを捧げるこの男の名は、アデラール・ミレー。フェルマータが追放された後に、ケビン王子の傍付きの任を引き
そして、
薄命聖女と不死の狼騎士の呪われ婚 死ぬ運命だった二十歳の誕生日に「俺を殺せ」と求婚されました ゆちば/角川ビーンズ文庫 @beans
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