第9話 国譲り

「貴方がたが古の魔王……のチカラの化身と大剣豪様か。そして、あなたは……。聞いていた通り、伝承上とは性別が違うのですな」

 

 あれから俺たちは国王と謁見していた。

 どうやら禅譲してくれるようだ。

 こうもあっさり、というのは予想外だしなにか仕掛けてくるのでは?と警戒していたが、どうにも気力が感じられない。

 ……ふむ、疲れていたのか。そして心を病んでいたか?

 

「この時代に生まれ変わった際にこの姿になってしまいましてね。最悪の気分ではありますが、元の私の姿によく似ているので無理やり許容してはいます」

 

「そうでございましたか……。して、なぜ伝説の勇者様の仲間であり、時には勇者様よりも活躍を語られるあなたが魔王軍に寝返ったのですか?……ここばかりははっきりさせてもらいたいのです」

 

 へぇ、俺はこの時代ではなかなかに素晴らしい伝えられ方をしているんだな。

 俺はパーティの中では確実に一番弱かったのになぁ。

 勇者がぶっちぎってて、魔法使いも火力がヤバイ。

 あいつらが猪突猛進な性格だったのに対して俺はある程度冷静に振る舞えたこと、サブの異名を得てからは汎用性がやたら高いお陰でなんとか魔法使いには喰らいつけていたが……。

 タイマン張るなら魔法使いには負ける気はしないが、それは相性に依るところが大きいからなぁ。実際の実力だといくらか劣る。

 

 なんだか照れくさいな。……メーティもなぜか誇らしげだ。

 

「私にとっての最強の敵は、魔王ワイドブレイズですから。いきなり現れた新参者が最強の魔王ヅラしているのが気に食わないんですよ。実際の力関係では遥かに我々のほうが弱いのでしょうが……許せるはずがありませんので」

 

 俺のその答えに対して、王は形状しがたい感情を顔に浮かべていた。

 

「やはり、俗説どおりあなた様は魔王と……恋仲だったのですかな?」

 

 ……は?いや、待て……意味のわからない言葉を言われたぞ。

 俺とワイドブレイズが、恋仲?

 

「意味がわかりませんね。大魔王陛下であれば望むのなら何でもして差し上げますが、ワイドブレイズへは憎しみばかりが募っています」

 

  俺の言葉にメーティがなにやら反応を見せていた。

 心拍数が上がっている?顔も赤い……やっぱり気の所為じゃなくて、俺に気があるのか?

 君が望むなら恋人にでもなってもいいけど、今は一応女同士なんだがな。

 メーティ的にはいいのか?

 いや、いいなら喜んで恋人にならせてもらうけど……。

 

「故郷も焼かれかけましたし、旅先ではヤツによる悲惨な光景も何度も見ましたから。第一、ヒトガタになる術も収めていないドラゴンと恋仲になるなど……私はそんな変態ではありませんよ」

 

 まあ、どうでもいい……とは言わないけど二の次だな。

 なんだかんだ好ましく思っているし、なんなら愛情も多少感じるけど、俺にとっての一番の目標は今の時代のクソッタレ魔王をぶち殺すことだから。

 

 しかし、メーティならまだ良いけどワイドブレイズと恋仲など許せない。

 第一、アイツの性別ってどっちだよ。

 そもそも竜に性別ってあるのか?なんか超越してそうな感じがあるんだが。無性ではなく両性ってこともありうるな……何馬鹿なことを考えてるんだろう、俺。

 

「……先程、俗説と言いましたか。もしや、世間では俺とヤツの恋物語などが語られているのですか?」

 

 思わず殺気を出してしまった。それに、一人称も素が出てしまった。

 慌てて抑えたが……顔面蒼白になってる人も結構いる。

 アンガーマネジメントはもっと意識しないと……。一日二日でそんな簡単に変わらないのはわかっているが……。

 

「……そ、そうですな。女魔王のワイドブレイズがあなたに執着を抱いて、そこから始まるその他すべてを巻き込んだ悲恋の物語が人気でありました」

 

 頭が痛くなってきた。

 どういう発想だよ後世のやつら。頭おかしいんじゃないか?

 

「……そのような事実はありませんね。たしかに互いに随分執着はしておりました。しかし、それは好敵手として認めあってるだとか、憎しみの感情によるものといった類ですから。我らが上に立つ以上は発禁処分にしろ……と言いたいところですが、民たちの反感を生むでしょうから辞めておきましょうか。……ああ、心底苛つきますね。最大の敵として認めてはいますが、本気で嫌いですからね、奴のことは……!!」

 

 憎悪を抑えきれずにそう吐き捨てた。

 

「いえ、すみません。流石に予想外だったもので、驚きましたよ。こちらが悪かったです、どうか気を直してください」

 

 そして後悔して軽く謝る。あくまでこちらが立場が上ということは崩さない程度に。

 首脳陣たちは汗をダラダラ流して首を縦に振っていた。

 

「……まあ良いでしょう。それで、本当に国を譲ってくれるのですか?」

 

「は、はい。……我々にはもう、抵抗する力は殆ど残されていません。いや、元々そんなものはありませんでした。ですので、あなたがたの庇護が欲しいのです」

 

「そうですか。では、遠慮なくその座を貰い受けましょう。そして私達があなた達を守り、鍛え上げて差し上げましょう。現代の勇者はそれなりに際立っておりましたし、スクトラ……でしたかね?あの男も素晴らしい才能を持っていました。それに、彼に率いられた部隊も、皆が例外なく天賦の才を持っています。エリートだから当然……そう思うのかもしれませんが、この魔軍司令である私から見ても天賦の才、と言えるほどですから、正直驚きました。……共に力を合わせて戦いましょう、そうすれば勝ちの目も見えてくるはずです。ふふふ……」

 

「我々自身の力で立つのも条件の一つ、ということですか……」

 

「そういうわけではないですけどね。こちら側もそこまで余裕があるわけではないんですよ。この国を滅ぼすことくらいは容易く行えますが、そんなことをしても心が痛むだけですから。だったら兵を鍛え上げて共に戦場に立てる配下たちを増やしたい、それらを養うための糧食を得たい、そして魔王として治める民が欲しい、それだけの話です」

 

「……わかりました。既に国民には通達しております。これからは大魔王メーティ様が国王となります。私どもの命は好きにしてください。ただ……民を守ることだけは誓ってほしいのです」

 

 言葉に対し、俺はメーティに目配せをする。

 

「自らの民を苦しめても大して面白くないだろうし、守ってあげるわ。でも、あなたたち上層部も一緒に戦ってよね?死ぬなんて許してあげないわ。ざこにもざこなりに使い道はあるのよ。そしてあなたたちはそれなりにマシなざこ。あの強大な魔王軍……僭称軍相手にこの限界寸前の戦線を持たせてきたんだからね。だから、十分に役立つはずよ。……じゃあ、これからよろしくね、私の配下たち」

 

 メーティはそう言ってニヤリと笑った。

 命が救われたことに安堵するものもいれば、活躍を評価されて嬉し泣きしている者もいた。

 だが、ここらで死んで逃げたかったと思っていそうなものも少なくない。

 ……それほど絶望的だったのか。

 まあいいさ。俺たちの力でこの国を最強の帝国にのし上げてやる。

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勇者パーティの大剣豪だったけど、生まれ変わったら何故か美少女になっていた上、メスガキ魔王の配下になりました 小弓あずさ @redeiku

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