5000年前の先祖のせい

ちびまるフォイ

今の時代の自分に罪はない

「〇〇だな?」


「え? あ、はあ。警察がこんな朝っぱらからなんですか?」


「5000年前の殺人でお前を逮捕する!!」


「え、えええ!?」


アマゾンの配送よりも素早く警察署に護送されてしまった。


スタンドライトとカツ丼がアルミテーブルの上に置かれ、

怖そうな尋問官がにらみをきかせている。


「あの、それで俺の罪というのは……」


「いやお前に罪はない」

「え」


「お前の5000年前の先祖が殺人したのが悪い」


「俺は悪くないってわかってるのに捕まえたんですか!?」


尋問官は顔をさらに険しくして睨む。


「いいか。犯罪がなくなってもう5000年。

 かつての犯罪者の血を受け継ぐお前は犯罪者予備軍なんだよ」


「そんなむちゃくちゃな! なんの根拠があるんですか!」


「蛙の子はカエル、というだろう。

 ともかくお前は明日留置所へ送られる。

 それまでは警察署の部屋で過ごすことだ」


「ひどい! 俺はやっとトンファー世界大会の代表選手に選ばれたんですよ!

 明日は遠征も控えてるんです! なのにこんな仕打ちって!」


「よかったじゃないか。

 将来、世界大会出場選手が犯罪をしたら

 応援していた人はがっかりする。未然に防げたじゃないか」


「そういうこっちゃない!!」


自分の意見はなんら受け入れてもらえず、

5000年前の先祖の罪で明日にも時分は犯罪者として扱われる。


親の育て方が悪い、とかいうのも意味分からないが

先祖が悪いなどと言い始めるともはや納得いかない。


怒りは非論理的な理由で逮捕した警察官にも向けられたが、

それ以上に犯罪を犯した先祖に対しての怒りが大きくなった。


「5000年前の先祖め……。なんで犯罪なんかやらかしやがったんだ!」


5000年前にはすっかり犯罪AIが発達して、犯罪件数は大きく減少。

そんな情勢でわざわざ犯罪を起こして末代に迷惑かけるという先祖はゆるせない。


怒りに続けていたが、その日は疲れで眠ってしまった。




『この声が聞こえますか……』



夢の中で声が聞こえた。


『わたしは時間をつかさどる神……。

 あなたを特別に好きな時間に送って差し上げましょう』


『た、タイムスリップってことですか!?』


『俗世の言い方をすればそうです』


『それじゃ、5000年前に行ってください!

 俺の先祖の犯罪を防ぎます!』


『わかりました。でも滞在できる時間に限りはあります。

 では、いきますよ……』




次に目を覚ましたときは5000年前に飛ばされていた。


目に映る風景はかつての資料に残っていたような昔の家や服ばかり。


「ほ、本当に5000年前に戻ってきたんだ」


5000年後の自分の服装は悪目立ちして、周りに驚かれていたかまわない。

残り時間は短いので自分の先祖探しに向かった。


そして、血の繋がりがそうさせたのか、あっという間に先祖は見つかった。


町の路地のゴミ袋のうえに、酒瓶を抱きしめながら眠っている。


「こいつが俺の先祖……」


今にもなんらかの犯罪を起こしそうな見た目をしている。


「おい起きろ!」


「むにゃむにゃ……なんだてめえ」


「俺はあんたの後世だ。あんたが犯罪するのを止めにきた」


「ははは。犯罪? 何いってんだ。おらぁ人畜無害で善良な市民だぜ?」


「その見た目でそんなわけないだろう!?」


「見た目で判断するんじゃねぇやい」


「とにかく! あんたは近々犯罪をするんだ!

 5000年後にそれが原因で俺が逮捕される!

 いい迷惑だ! 犯罪なんかするんじゃないぞ!」


「うるせぇな。どう生きようとオレの勝手じゃねぇか」


「お前の勝手で、5000年後に迷惑かけるなって話をしてるんだよ!」


「5000年後なんてしったことか。

 お前は1億年先の未来を考えて、今を行きてるのか? ん?」


「この……っ!!」


いくら話しても平行線。

このままでは何も変わらないまま5000年後に戻ってしまう。


「この! わからずやがーー!!」


必殺のトンファーキックをお見舞いした。

みぞおちにヒットしたのか、先祖はそのまま突っ伏した。


「お前が!! 犯罪なんかしなければ!!

 俺は5000年後にひどいめにあわずにすんだんだ!!

 ちっとは、自分の行動を改めろ!! この犯罪者!!」


先祖に馬乗りになって力いっぱい乱打乱打。

もう動かなくなったのを確認したとき、ぐらりと世界が歪んだ。


「な、なんだ!? 周りが急に暗く……!」



次の瞬間、5000年後の世界へと戻されてしまっていた。


「ここは……?」


「警察署だ。ったく。尋問中にぼーっとするなんて、たいした度胸だ」


尋問官がするどい目つきをこちらに向ける。


「で、さっき話したように貴様は5000年前の先祖の罪で逮捕されたわけだがーー」


「待ってください!! それは冤罪です!!」


「はあ?」


「先祖は犯罪なんか起こしてません!

 というか、犯罪ができっこありません!」


あれだけボコボコにしたのを体がまだ感触を覚えている。

あんな瀕死の状態であらたに犯罪を起こせるわけがない。


「ちゃんと調べてください。5000年前に先祖は犯罪をしてません!」


「そんなはずはない。自動歴史筆記装置でも、犯罪歴が書いてある」


「うそだ! できっこない!」


「ちゃんと5000年前の証拠もある。見ろ」



カーテンを取ると、そこには5000年前に置き忘れたままの血がついたトンファーが押収されていた。



「5000年前、犯行に使われたトンファーが残っている。

 この証拠を見てもお前は先祖が犯罪をしてないとでも!?」


トンファーには見覚えがあった。

そして、5000年前に置き忘れたことも今思い出した。



「……やっぱり、先祖が犯罪をしたと思います!!

 俺はなんにもしてません! 先祖がぜんぶ悪いです!!」

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