第63話 夏の味
目隠しをされると、思いの外暗い。光が一切入って来ないから、かなり怖いな。この状態で誰かの指示に従って動くなんてできないだろう。
みんなと同じように、その場で回される。こうなると、もうスイカがどっちの方にあるのかはわからない。
「キョウたん、左に回るんだよ!」
「真後ろだよ、氷室くん」
「きょ、キョウちゃん、右側……!」
「京水ー、真っ直ぐ歩いて……ぷすーっ!」
決定。奏多は嘘つき。
となると、萬木と九条と杠だが……聞けば聞くほど、みんな嘘を言っているようにしか聞こえない。これ、かなり難しいぞ。
とりあえず、左に回って真っ直ぐ歩く。
慎重に、ゆっくりと足元を確かめながら進んでいく。
「あ、京水。こっちじゃないって……!」
「ちょ、危ない危ないっ!」
「え?」
奏多と萬木が慌てたような声を上げる。
何をそんなに慌てて──ガンッ。
「〜〜〜〜ッッッ!?!?」
す……すねっ……いってぇっ……!!
思わず木刀を落として地面を転がり回る。これ、もしかして協賛シートを囲う鉄パイプ……!? そりゃ痛ぇわ……!
「もー。何してるのさ、京水。ほら、立って」
「す、すまん……」
奏多に手を引かれて立ち上がり、木刀を握る。
けど、今の痛みで自分の位置がわかった。確かスイカは、シートから左斜め前に置いていたはず。だから、えーっと……。
「ほら京水、こっちだよ」
「ぇっ、奏多……!?」
ううううううっ、後ろから奏多の爆な感触がっ……!? し、しかも耳元で囁かれて、吐息が耳に……!
肩を掴まれ、方向を変えられる。けどおっぱいと吐息のせいで、意識が散らされてしまった。自分がどこにいるのか、またわからなくなった。
「このまま真っ直ぐ3歩進んで。ぼくを信じて、京水」
「お……おぅ……」
こうなってしまっては、奏多の言う通りにするしかない。というか、奏多の声が脳を痺れさせ、それ以外の選択肢が消えてなくなった。
言われた通り、3歩前に歩く。
こ……この辺、か?
木刀を振り上げ、思い切り……おりゃっ!
──パコーンッ。
んおっ? この感触……もしかして成功か?
目隠しを外して下を見ると、見事に真っ二つに割れたスイカが、シートの上に飛び散っていた。
「おおっ。キョウたん、大成功だね!」
「やるじゃないか、氷室くん」
「さ、さすがキョウちゃん……!」
3人がやんややんやと盛り上がり、周りにいた通りすがりの人たちも拍手をしてくれる。
なんとなく気恥ずかしくなり、適当に頭を下げてみんなの所に戻った。
「へい京水、ナーイス」
「お、おう」
奏多とハイタッチをすると、ニカッと太陽のような笑顔を咲かせた。まさかこいつが嘘をついてないとは……。
「京水、今失礼なこと考えなかった?」
「失礼じゃないぞ。お前が嘘をつかなかったことに驚いてるだけだ」
「それが失礼って言うんじゃないかな?」
ジト目で睨まれた。ごめんて。
「まったく……ぼくが君に嘘をつくはずないじゃないか。言ったろ? どんな事があっても、ぼくだけは君の味方だって」
「……ああ。そうだったな」
そんな真っ直ぐな目で言われると、罪悪感が……後で何か奢ろう。余りにも気まずすぎる。
スイカを回収して、みんなでスイカにかぶりつく。甘く熟れているけど、長時間外に置いてたからちょっとぬるい。
けどみんなは満足そうな顔で、スイカを頬張った。
「んめーっ! けどウチも割りたかったー!」
「ぼくもやりたかったなー。今度、家の庭先でやってみよ」
家でスイカ割りって、なんか虚しくない?
と、杠が持ってきていたのか、どこからか塩を取り出して俺に渡してきた。
「キョウちゃん、塩いる?」
「ありがとう。よく覚えてたな、俺がスイカに塩かけるの」
「中学ん時は、毎年一緒に食べてたじゃんか」
あぁ、そういやそうだった。去年も食ったのに忘れてた。奏多が戻ってきてから、まだ2ヶ月くらいしか経ってないのになぁ。随分昔のことのように感じる。
スイカに塩を掛けてかぶりつく。うんうん、これこれ。
「ふーん……へぇ〜……」
「……なんだよ、奏多」
「べっつにぃ〜?」
奏多が不機嫌になってしまった。え、なんで?
首を傾げると、九条が楽しそうに笑った。
「ふふ。甘酸っぱいねぇ」
「スイカは甘いだろ」
「夏の味だよ」
夏に味なんてあるわけないだろ。
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