第62話 海と言えば
「よーし! 日焼け止めも塗りたくったし、次のイベント行ってみよう!」
と、萬木がかばんから取りだしたのは、見事に熟れたスイカだった。
「ほー。スイカ割りか」
「イッエース! 夏の海と言ったらこれでしょ!」
ウキウキ、ルンルンと準備をする萬木。木刀とアイマスクも持って来ていて、準備万端だった。
確かに夏といったらスイカ割りのイメージがある。やったことないし、ちょっと楽しみだ。
持って来ていたレジャーシートの上にスイカを置き、じゃんけんの結果、最初は杠になった。
「す、スイカ割りって久しぶり。ちょっと緊張するな、これ」
「大丈夫大丈夫。ぼくたちがしっかりリードするからさ」
「カナタ……うん、頼むよ」
あ。奏多の奴、めっちゃいい笑顔。この顔の時の奏多は悪だくみをしている時だ。
目隠しをした杠が木刀を持ち、奏多と萬木の2人が十周回してスイカを右手にして止めた。うわぁ、やらしいことするな。
「それじゃあ、よーい……スタート!」
萬木が合図を出すと、杠は木刀を抱えて一歩踏み出す。
「小紅ちゃん、左、左!」
「違うよベニちゃん、真後ろだよ!」
「小紅、私の方においでー」
3人が3人とも、適当なことを言ってやがる。見ろ、杠の奴、誰を信じていいのかわからなくておろおろしちゃっている。
……それにしても、なんというか……水着で目隠しって、ちょっと……いや、だいぶそそる。
俺、こんな性癖があったのか。知りたくなかった、こんな性癖。
みんなの指示であっちを向き、こっちを向き、右往左往する杠。
けど、指示に集中しすぎて自分の胸がどれだけ揺れているのかもわかっていないみたいで、でっかいお胸様がぶるんぶるん揺れていた。そのせいで、周りの男どもの視線を集めている。
杠はただの友達だけど……友達がそんな目で見られてると、ちょっとムカつくな。いや、気持ちはわかるけど。俺だって男だし。
…………チラッ。
「いでででっ」
ちょ、脇っ。脇腹痛いっ。
見ると、いつの間にか隣に座っていた奏多が、ジト目で俺を睨んでいた。
「京水。小紅ちゃんのおっぱいがエッチなのはわかるけど、じっと見すぎ」
「す……すまん」
確かに、おっしゃる通りです。でも奏多もエッチだって思ってるじゃん。
3人があっちこっちと指示を出しながらも、杠はなんとかスイカに近付いていく。
俺も指示出してやるか。
「おーい。杠、もう少し左に回って」
「キョウちゃん……! こ、ここっ?」
「そうそう。そこで振ってみ」
「うんっ。せいっ!」
――ボフッ!
「……はれ?」
あるはずの手応えがなく、呆然とする杠。
アイマスクを取ると目の前にスイカはなく、ちょうど正反対の位置にあった。
「あっははは! キョウたん、ひっでー!」
「京水ってそういうところあるよね。ぷぷぷ」
お前らも適当なこと言ってたじゃん。むしろそれでよく、スイカの近くまで誘導できたな。
騙されたことに気付いた杠が、顔を真っ赤にして近付いてきた。
「騙したな、キョウちゃん!」
「そういうゲームだろ。誰の言葉を信じるかを見極めなきゃ」
「ぐっ……くそっ。キョウちゃんはアタシの味方だって信じてたのにぃっ」
悔しそうに地団駄を踏み、涙目で睨んできた。まあ、一発で終わったらつまんないからな。許せ、杠。
「ふふ。やるね、氷室くん。さて、次は私の番だ」
立ち上がった九条が、アイマスクと木刀を受け取り定位置に着く。
今度は杠と萬木が九条を回すと、スイカとは反対方面に向けた。いや、お前らも相当意地悪だな。俺のこと言えねーじゃん。
「ほらほら、麗奈! まっすぐだよ、まっすぐ!」
「違うよ麗奈さん、真左に行けばあるよ!」
「レナ、すぐ近くだって!」
お前らくっそ適当じゃねーか。
「九条、真後ろだぞ。ぐるっと回って、真っ直ぐ行くんだ」
「――なるほど……ここだ!」
「え」
俺が指示を出した瞬間、大きく3歩前に歩き、思い切り振り下ろした。
当然、そこにはスイカはない。というか、杠の時以上に離れている。
「ん? あれ? 後ろ?」
「だから言ったのに」
「おかしいな。嘘つきの氷室くんの言葉を信じなかったのに」
おいコラ。俺だってずっと嘘ついてるわけじゃねーよ。
九条が外したアイマスクと木刀を、俺に手渡してくる。次は俺の番……なのだが。
「ふっふっふ……京水。ぼくがちゃ~んと指示出してあげるからね♡」
「たっぷり楽しませてあげるよ、キョウたん☆」
「アタシ、さっきのこと忘れてねーからな」
「大丈夫、私は嘘つかないよ」
どうしよう。果てしなく心配です。
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