第57話 美少女生着替え part1
呆れたため息をついて、九条が着替え用テントに入っていく。
着替えているのか、中からは衣擦れの音や、テントにぶつかってしゅるっ、しゅるっという音が聞こえてくる。クラスメイトの美女の生着替え……いかん、けしからんぞ。いくら俺に彼女がいると言っても、思春期男子の妄想力の前では建前のようなものだ。
だ、ダメだ。さすがに音に集中しすぎてる。これ以上は九条にも失礼だっ……!
慌てて海の方を見て、意識を逸らす。
が、1回意識しちゃうと聞き耳を立ててしまうのが男のサガというもので……。
しゅる……しゅる……ぱさっ。
な……艶かしい。後ろを向いちゃったせいでより聴覚が鋭敏になって、生着替えを意識してしまう。
「ねえ、京水。今やましいこと考えてない?」
「何言ってるの、カナタ。キョウちゃんがそんなことするはずないじゃん。……ネェ……?」
「からーげおいしい!」
右から奏多に詰められ、左から杠に光の無くなった目で睨まれる。あの、本当に怖いからやめてくれ。いくら俺でも詰められるとなんも言えなくなるから。あと萬木は無邪気か。可愛いな、もっと食べなさい。
若干の緊張感を持って意識を海に向けていると、後ろからテントのチャックが開く音が聞こえた。
「お待たせ。ふぅ……ちょっと緊張するね」
「おぉ……やっぱ麗奈さんの体、めっちゃ綺麗」
「だよねぇ〜。昔っから無駄な肉がなくて羨ましい体してんのよ、麗奈は」
「アタシ、贅肉増えてるからなぁ……いいなぁ」
奏多・萬木・杠がテンション高く口々に九条へ感想を送る。
俺も肩口にちょっとだけ振り向くと、太陽に照らされた眩しい肢体が目に飛び込んできた。
オフショルダーで紺色のバンドゥビキニで、男の俺の前でも恥ずかしげもなく肌を露わにしている。
お腹には薄ら縦線の腹筋が見えていて、無駄な肉がひとつもついていない。まさに女性からしたら、理想的な肉体美だろう。
確かにこれは、みんなが熱い吐息を漏らすのも頷ける。遠くからも九条に熱い視線が注がれているのを見るに、協賛エリアじゃなければ瞬く間にナンパされてただろう。
「どうだい、氷室くん。私も捨てたもんじゃないだろう?」
「ああ。めっちゃ可愛い」
「……そ、そうか。うん、そう言ってもらえると嬉しいかな」
感想をぶつけると、頬を朱色に染めて目を逸らされた。聞かれたから答えたのに。
因みに俺の感想は、嘘ではない。正確には可愛いと言うより綺麗系なのだが、こういう時は可愛いとストレートに褒めてやった方がいい。奏多と一緒にいて得た知見と直感だ。
横目に、奏多と杠が悔しそうな顔をしているのが見える。心配しなくても、似合ってたらちゃんと褒めるって。俺はやればできる子なんだから。
「こ、こほん。ほら、純恋、着替えて来なさい」
「あーい。麗奈、これ持ってて」
いつの間にか大量に買い込んでいたのか、唐揚げやら焼きそばやらたこ焼きやらを九条に押し付ける萬木が、着替え用のテントに入っていく。
九条はオフショルダーの、イメージ通りシンプルなものだった。柄がないけど、それが返って九条の綺麗さを際立たせている。
萬木は……イメージができない。可愛い系も綺麗系も似合いそうだ。
テントの中から、また衣擦れの音が聞こえてくる。しかも、萬木の「んーしょ、んーしょ」という声と共に。
なんで女子が着替えてる音って、こんな艶めかしくリアルに聞こえるんだ。別に男が着替えてようが、まったく色気は感じないのに。……あ、いや、ミヤは例外。あれは別種の男だ。男の俺でも、たまにめっちゃ色気を感じる。
「おっし。はい、お待たせー」
準備ができたらしく、ジッパーを開けて外に出てきた。
まず目に飛び込んできたのは、いつの間にか準備していたのか大きく膨らませた浮き輪。腰に付けて布面積が大きく見えているが……想像以上に、布面積が少ない。マイクロビキニほどじゃない。いわゆる、ブラジリアンビキニだ。
黄色い布で大切なところは覆われていて見えないけど、それでも肉に食い込んだ紐が艶やかで、奏多ほどではないが豊満な胸やお尻が強調されている。
今まで萬木にこう言った感情は持って来なかったけど、これは……。
「純恋さん、えっっっっろ」
「ワォ。攻めてるね」
「えへへ、でっしょ~?」
奏多と杠の2人に褒められ、嬉しそうにくるっと一回転する。
うん、エロい。低身長巨乳のブラジリアンビキニ、意外と様になってるというか……萬木だから、ここまで着こなせてるんだろう。それくらい、ベストマッチだった。
「ほらほら。麗奈、キョウたん。何か言うことはないかい? ん?」
半ばドヤ顔で感想を求めて来た。あ、いつも通りの萬木だ。
「すげー可愛い。萬木って、何着ても様になるんだな」
「まあ、ウチくらい可愛いとね~」
ドヤドヤドヤァ、と謎のセクシーポーズを取った。可愛いけどそれで台無し感あるくらい、セクシーポーズが様になってない。うーん、残念美少女。
と、固まっていた九条が、自分が持っていた日差し避けの薄いパーカーを萬木の肩に掛けた。
「はいはい。すごい似合ってるよ。けど、日焼け止め塗るまではこれ着てようね」
「ん? それもそっか。ありがと、麗奈っ」
「う……うん」
萬木に感謝されて、恥ずかしそうに顔を逸らした。
肩に掛けたパーカーは、萬木の体にぴったりのサイズだった。九条が着る分には、少し小さい。まるで、萬木のために用意したというか、萬木を隠すためみたいというか……。
なんでだろう、と首を傾げると、九条が俺の方をじっと見て来た。
「な、何?」
「……あんまりレディの体をジロジロ見るもんじゃないよ」
「あ、はい」
それは確かにそうだ。反省。
頭を掻いて視線を外すと、今度は杠が荷物を担いだ。
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