第45話 最高の仲直り
「完 全 復 活!!!!」
ベッドの上で腰に手を当て、堂々と佇む奏多を見上げて、思わず苦笑い。
単純だなぁ、こいつ。エネルギー入れてたった数時間寝ただけで、もう回復しやがった。やっぱり疲れが溜まってたんだろうな。
「京水の愛でヘラったメンタルも回復したし、もうぼくは無敵です! どっからでも掛かってこーい!」
「モヘンジョダロ遺跡はどこの国の世界遺産?」
「……ちきゅう」
おいコラ無敵の奏多様よ。こっち見て答えろや。ちなみに答えはパキスタンな。
「まあ、まだ時間もあるし、だいじょーぶだいじょーぶ!」
「お前が言うな」
若干呆れてため息が漏れるが、確かに最近詰め込み過ぎてる気もする。
詰め込まないといけないのは重々わかってるけど、少しは休ませてやらないと、またぶっ倒れたら元も子もない。
「しゃーない……今日は遊ぶか」
「え、いいの?」
「たまには気分転換した方が、勉強の効率も上がるだろうからな。その代わり、明日から頑張れよ」
「〜〜〜〜! 京水、だいすき!!」
飛び付いてきた奏多を抱き留め、背中を擦る。まったく、現金なやつめ。
「何して遊ぶ? ゲームでもするか?」
「…………」
「……奏多?」
どうしたんだろうか。抱き着いたまま動かない。
不安になって奏多の顔を覗き込むと、潤んだ瞳の奏多と目が合った。
「か、奏多……?」
「きょーすい……キス、したい」
胸元の服を捕まれ、熱い吐息混じりにせがまれる。
「そ、それは……」
「お願い、京水。今、すっごく京水といちゃいちゃしたい……」
ごくっ。変な考えが脳裏をよぎって、喉の奥にへばりつく唾液を飲み込む。
確かに……最近、いちゃいちゃしていない。と言うか、満足にいちゃいちゃしたことなかったような。
「い……いいんだな?」
「ん……」
目を閉じ、口を僅かにすぼめて待っている奏多。
奏多の頬に手を添え、少し上を向かせると……迷うことなく、キスを落とした。
甘くとろける唇に、何度も何度もキスをする。
「んっ……はっ……京水、唇かさかさ……」
「わ、悪かったな」
「んーん……京水らしくて、好き。なら、ぼくが潤わせてあげるね」
え? それって……んんっ!?
今度は奏多からキスをされた、けど……! さっきみたいな、唇を合わせるキスじゃない。舌を使って、唇を舐めてきて……!?
慌てて離そうとするが、先回りして後頭部に腕を回し固定された。
舌が、気持ちいい。ゆっくり這ってきて、唇を濡らしてくる。
呼吸が苦しくなって一瞬だけ口を開けると、隙間を縫って口内に舌が入ってきた。
「んんんんっ……!?」
「んっ♡ ぁ……はぁ……♡」
こ、れは……大人のキスというやつでは……!?
長く、ぷっくりとした舌が、俺の舌に絡みつく。
水の音が部屋に響き、呼吸に熱が帯びて脳が痺れてきた。
酸欠状態による集中と思考力の低下で、俺も少しずつ現状を受け入れ……奏多を強く抱き締めた。
「きょーひゅぃ……きょーふい……♡」
「かなた……すきだ、かなた……」
「ぼくも……らいひゅき……♡」
繰り返されるキスの応酬。今まで感じたことのない淫らで艶やかな感触と水音。互いの熱が高まり、鼻腔をくすぐる匂いに、いつもとは違う甘味を感じ始めた。
1度唇を離すと、陽光に照らされた銀色の橋が掛かる。
奏多の頬が紅潮している。恐らく俺も似たようなものだろう。
唾液を飲み込み、奏多の目を見つめる。
「奏多、俺……」
「ん……おねがい……来て、京水……」
──プツン。頭の中で、何かが切れる音が聞こえ……理性をかなぐり捨て、奏多の体に覆いかぶさった。
◆◆◆
「……しちゃったな……」
「たはは……しちゃったねぇ」
今何時だろう。さっきまで明るかった外が、もう黄昏色に染まってる。
体にあるのは、虚無にも似た満足感と、ぼやける思考のみ。
俺の腕に収まり、胸板を枕にしている奏多に視線を落とす。
図らずも奏多も俺を見上げ、同じタイミングで見つめあった。
「何?」
「奏多こそ」
「んー……幸せだなって」
「はは、俺も同じこと考えてた」
「ほんとーかー?」
指先でお腹周りを撫でるの止めて。いや、ホントに。
また反応しちゃう前に起き上がり、奏多にガウンを投げ渡す。
「飯、作るか。さすがに腹減った」
「だね。ぼくも、フレンチトースト消化しちゃった」
起き上がり、ガウンを羽織った奏多が、嬉しそうな顔で俺に擦り寄ってくる。
「どうした?」
「んん? んー……てへへ。好きすぎて困っちゃうなってね。……愛してるぜ、京水」
「っ……なんだよ、それ」
「お? 照れてんのか? 賢者タイムってやつか?」
やめろ、お馬鹿。そんな言葉どこで覚えた。それを覚える暇があったら、歴史の年号のひとつでも覚えなさい。
……なんて、幸せそうにしてる奏多を見たら、どうでもよく思えてきた。
今はまだ、余韻に浸ってもいい……よな?
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