第38話 Coward
案の定、勝手な約束をするなと拳骨を食らった。最終的には許してくれたけど。お袋殿の懐のデカさには感謝してもしきれない。
まあ、いろいろ察したのか、飯の最中はずっとにやけ面だったけど。俺からは何も言わなかったけど、親に察せられるの、意外と恥ずかしいな。
飯、風呂と一通り終え、自室のベッドに寝転がった。布団を干してくれたのか、ふわふわで寝心地がいい。
今日はいろいろあったな……奏多への想いを自覚し、付き合えて、ちゃんとキスまでして……幸せで弾け飛ぶんじゃないかってぐらい、幸せを実感している。
それに、旧友の杠とも再会できたし。まさか萬木の実家で再会するなんて思わなかった。
いろんなことがありすぎて、体も心も疲弊している。今日はよく眠れそうだ。
スマホで時間を確認する。すでに23時を過ぎていた。明日も学校だし、もう寝ないと……ん?
不意に、手元のスマホが震えた。こんな時間に誰だ……って、奏多? 珍しいな、あいつが電話掛けてくるなんて。
「もしもし、奏多か?」
『わ、出た』
「出たとはなんだ、出たとは」
『たはは、ごめんごめん』
電話掛けて来たのはそっちだろう。出ちゃ悪いのか。
……ん? なんか、奏多の声が反響してるような気が……? どこにいるんだ、こいつ?
『京水、耳離してみてみ』
「耳? 何を……ぶっ!?」
ちょ、え、は……!? かかかかかか奏多ッ、おま……は!?
画面に映っていたのは、通話中の画面ではなく、奏多。テレビ通話を掛けて来たらしい。
が、奏多のいる場所が問題だ。
首筋からデコルテにかけて光る汗のような水滴。頭には白いタオルが巻かれ、首から肩湯が流れている。
そう……間違いなく、風呂場だ。浴槽に浸かっている。
慌てて顔を逸らして目を伏せる。くそっ、顔熱い……! 絶対今の俺、顔真っ赤だ……!
「なっ、ななななななんて場所から電話してきてんだ……!」
『それがねぇ、聞いてよ京水。ぼくね、今お風呂入ってるんだけどさ』
見ればわかるわ! だから、なんでそこから電話なんか……!
『最初は写真フォルダを見てたんだけどさ……急に京水の声が聴きたくなっちゃった』
ぅっ……くそ。急に可愛いこと言い出すじゃねーか。
お、落ち着け俺。ゆっくり、大きく深呼吸するんだ。そうだ、奏多はただ電話してきただけ。意識する方が間違ってる。……ん? 意識しない方が失礼なのか、こういう場合は?
わけがわからなくなり、内心首を傾げていると、奏多が動いたのかちゃぷっという水の音が聞こえて来た。
『ねえ京水、なんで顔逸らしてるの? ちゃんと、ぼくの方見てくれないと寂しいよ……』
「だ、だって……お、お前、裸じゃ……!」
『そりゃあ、お風呂だし。大丈夫、恥ずかしい体はしてないから』
そうだけど! そうなんだけど! いくら彼氏彼女と言えど、恥じらいってもんは持とうよ! てか、俺たちまだお互いの裸は見てないじゃん!
「こ、こういうのは順序ってもんが……!」
『遠慮や羞恥は日本人の美徳だと思うけど、ぼくとしてはもっと踏み込んでもいいって思うんだよね』
お前も日本人やろがい! ……アメリカのどんな環境で育って来たのか知らないけどさ。
そういや、奏多が向こうでどんな生活を送ってたのかって、聞いたことないな……彼氏はいなさそうだけど、アメリカって彼氏彼女のラインが曖昧だって聞いたことがあるような。
悶々とする複雑な気持ちを抱えていると、奏多が心配そうに声をかけて来た。
『京水、大丈夫? 深刻そうな顔してるけど……』
「……え、あ。だ、大丈夫だ。それより、やっぱりこういうのは段階を踏んでだな」
『Coward(腰抜け)』
……なんだと?
「お前、俺が英語わかるって知ってて煽ってんな」
『にゃんのことぉ~?』
こいつ……相変わらず煽り力たけーな、おい。
『ぼく、京水になら、見られていいのにな』
「っ……い、いいんだな」
『うん。お願い……見て?』
艶やかに誘う言葉に、脳が一気に沸騰する。
理性とか順序とかそんなのすべて吹き飛び、俺の視線は滑らかに画面に注がれ……。
スク水姿の奏多が、画面いっぱいに映し出された。
「………………………………は?」
『ぷ……ぷーくすくすくすっ。あははははは! 引っ掛かったな、ばか京水! 恥ずかしがり屋のぼくが、そう簡単に裸を見せるわけないじゃないか!』
こいつだけはホンット……! くそ、やられた……!!
そりゃそうだ、恋人として意識しすぎてた時は、触れるのも無理だったんだ。裸なんて見せられるわけがない。
頭を掻いて、大笑いしている奏多を画面越しに睨む。
……いや……こう見ると、やっばいな。なんというか……ほんと、凄い体してやがる。
とにかく、胸の張り出しがすごい。そこから腹かけての括れと、また広がる腰周り。
スク水ってだけでもエロいのに、水に濡れて肌に張り付いて……正直に言うと、全裸より全然エロい。間違いない。
『な、なんか京水から、邪な視線を感じるのは気のせい……?』
「……奏多、気付いてないみたいだから言っておく」
『な、何?』
「お前……風呂場スク水、普通以上にエロいぞ」
『……………………~~~~ッッッ!!!! ば、ばか京水! おやすみ!』
あ、切られた。こんなことなら、もっとガン見しておけばよかった。まあ、最後にやり返せてスッキリしたし、俺ももう寝よう。
奏多におやすみとメッセージを送り、目を閉じて眠りにつく。
……当たり前だが、脳内に奏多の艶やかな肢体が焼き付いて寝付けなかったのは、内緒だ。
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