第21話 強かな大親友
一階には女性物の化粧品やハイブランドのテナントが並び、どこを見てもくまをモチーフにした商品が陳列されていた。
なんでここまでくまを推してるのかはわからないけど、効果は目覚ましい。すさまじい集客力だ。
「~~~~ッ! て、天国……! ここが天国ですか……!」
「ただのデパートだ」
そんな集客力に捕まった奴がここにも1人。あっちこっちを見て目を輝かせる姿は、5歳児となんら変わらない。
でもこれだけ華やかに盛り上がっていると、否が応でもテンションが上がるな。
奏多についていって、近くのコスメショップに入る。特設コーナーには、ブランドロゴとくまがあしらわれた化粧品が並んでいた。
「かぁぃぃ……かぁぃぃょぉ……!」
頬にもみじを散らし、声が掠れるほど興奮している。確かに、これが屋上まで続いてると考えると、くま好きにとっては天国かも。
興奮冷めやまぬ奏多を連れてエスカレーターを1階、2階と登っていき、3階で降りる。
3階はブランドものと言うより、少しカジュアルなテナントが多い。ポップで可愛らしいものも多く、若い女の子に人気の階だ。
あれこれ見て回っていると、急に奏多が走り出した。なんだ?
「京水、京水……! 見て、でっかいくまさん!」
「おぉ……確かにでっけぇな」
休憩スペースのある広場の中央に、見上げんばかりのくまが座っている。周囲には踊ってるくまが並べられていて、スピーカーからは音楽まで鳴っていた。
このくま、確か奏多の部屋の多数を占めてたっけ。人気なんだなぁ、これ。
撮影エリアには結構人が並んでいる。みんな、あれと一緒に撮りたいらしい。
どうせ奏多も一緒に撮りたがるだろうな。
「奏多」
「もちろん!」
「だと思った」
せっかくの撮影スポットがあるのに、奏多が見逃すはずがない。
「じゃあ行ってこいよ。俺は見てるから」
「何言ってんの。京水も一緒に撮るんだよ」
「いや、俺はいいって。恥ずかしいし」
「恥ずくないって。ぼくと一緒なんだから、だいじょーぶだいじょーぶっ」
「ちょっ……!」
抱きつくな引っ張るな人の話を聞け……!
抵抗する間もなく、待機列に並ばされる。俺たちの後ろにも続々と人が並び、今更抜け出すのも申し訳なくなるほど、長蛇の列ができた。
しかもほとんどがカップルか、女子同士。傍から見ると俺たちもカップルに見えなくもないが、内心めっちゃ気まずい。
「うーん、どんなポーズで取ろうかなぁ。セクシーに? やっぱりハート? でもくまさんだから、可愛い方が……ねえ京水、どうする?」
「奏多に任せるよ。写真慣れしてないから、俺」
「うーむ……」
俺のバリエーションなんて、ピースか仁王立ちくらしいかないし。その点、奏多なら撮り慣れてるだろ。
どうしようか悩んでいる奏多を横目に、気まずさを忘れて列に並ぶ。
と……後ろから、嘲笑に似た声が聞こえてきた。多分、休みの女子大生かなんかだろう。無駄にハイブランドを持っている。
「ぷっ。ねぇ、前の人、太ってるのにセクシーとか言ってる(笑)」
「ダメだよそんなこと言っちゃ(笑)」
……? あ、あー、そうか。奏多がオーバーサイズのシャツ着てるから、勘違いしてるのか。
けど、それを俺が窘めるのも変だし……奏多も気付いてないみたいだから、無視でいいか。
待つこと数分。俺たちの番になった。
はぁ……ようやくこの居心地の悪い空間から抜け出せる。
「決めたっ。京水、僕の言う通りに立ってね」
「え? あ、はい」
奏多に言われるがまま、定位置に立たされる。今はまだ、立ってるだけだ。どんなポーズを取るんだ?
疑問に思って奏多に目を向けると──
「よっ」
──脱いだ。シャツを。
「うおおおおおおいっ!?!?!?」
「え? あぁ、大丈夫だよ。ちゃんとタイトシャツ着てるし」
え? ……あ、本当だ。下着じゃなくて、ちゃんとシャツ着てる。
けど本当にタイトなシャツだから、体のラインが浮きまくり。身長にそぐわない巨乳に、この場にいる誰もが目を見張った。
彼女、嫁さんのいる男も、全員奏多に見とれている。そりゃ、こんなエロ可愛い巨乳女子がいたら、誰だって釘付けになるか。
けど、いきなり脱ぐなよ。マジで心臓に悪いから。
「ほらほら、京水。ぼくの腰に手を回して」
「え。あ、こう……?」
まだ心臓が痛いくらい跳ねてる。正常な判断ができないまま、言われるとおりに腰に手を回した。
「おけおけ。じゃ、お願いしまーす」
「……あ。は、はいっ……! そ、それじゃあ、こちらのくまさんを持ってくださーい」
茫然自失としていた撮影係のお姉さんからくまを受け取り、満面の笑みを魅せる奏多。
さっきの奏多のシャツ脱ぎ事件で、めちゃめちゃ気まずい。頬を掻いて顔を背けると、その瞬間をシャッターに撮られてしまった。
「はい、オーケーです」
「ありがとうございました♪」
ほ……無事終わってよかった。さっさとこの場から離れたい。
お姉さんからスマホを受け取る際、後ろに並んでいた女子大生2人が、気まずそうな顔をしていた。太ってると思った相手をいじったらこんな爆よりの巨乳だったんだ。そりゃ気まずいか。
と、シャツを着直した奏多が、チラッと女子大生の方を見て嘲笑を浮かべた。
「flat-chested」
「「〜〜〜〜ッ」」
「えっ。あの、お客様っ?」
奏多に英語で何かを言われ、2人組は顔を真っ赤にして行ってしまった。
「なんて言ったの、お前」
「貧乳」
ワォ、強か。
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