第22話 大親友、ピンチ
「はふ……買ったった」
あれから、あちこちを練り歩き、奏多の欲しいものを片っ端から買っていった。おかげで足元には、大量の紙袋が置かれている。
これ、全部持って帰るのか。今から辟易するな。……奏多が満足なら、それでいいか。
「奏多、少し休憩しないか? さすがに疲れた」
「おろ? なんだなんだ、弱っちいなぁ、京水は」
全部持たせてきたんだろうが、こんにゃろ。
じとーっと奏多を見ると、無駄に上手い口笛を吹きながら、いつの間にかフロアマップを手に入れてたらしい奏多が、10階の飲食フロアを眺める。
どうやらこのフロアマップも、くまフェス仕様になってるらしい。どこにどんな展示がされているのかが、一目でわかるようになっていた。
「あっ! 京水、この喫茶店、店員がくま耳付けてるんだって! ここがいい!」
「こっちのくまカフェじゃなくていいのか? 各テーブルにくまの人形があるみたいだぞ」
「そっちはお昼。こっちは休憩」
休憩と昼飯ではしごするつもりか、こいつ。まあ、この年頃の女子にしては、俺と同じくらい食うから、問題ないのかもしれないけど。
足元の荷物を手に、えっちらおっちら10階まで登る。
そろそろお昼時だからか、飲食フロアはえらい混んでいた。これ、はしごするの難しくないか? 幸い、くま耳を付けている喫茶店は、まだ空きがありそうだ。
「奏多、こりゃはしごは無理だ。1つに絞ろう」
「えぇ~……」
「このフェス、明日までだろ? ならまた明日来ればいいさ」
「……それもそっか」
よかった、納得してくれた。
胸を撫でおろしてくま耳の喫茶店に向かうと、横を歩いていた奏多が俺の服の裾をつまんだ。
「ね、京水。もちろん明日も……」
「ああ、付き合うよ」
「……たははっ、そうだよねっ」
間髪入れず即答すると、嬉しそうな笑みを浮かべた。俺と奏多の仲なんだ。今更、遠慮することはない。
喫茶店に入り、くま耳を付けた女性店員に2名と伝えると、窓際の席に案内された。
街が一望できる席で、超巨大なジオラマを眺めている気分になる。下を見ると、米粒があちこちへ行き来していた。
ここ、初めて入ったけど、こんなに眺めがいいんだな。さぞ、夜景も綺麗なんだろう。
「いらっしゃいませ。お水をお持ち…………キョウ?」
「え? ……あ、ミヤ」
おもむろに名前を呼ばれて振り返る。なんと、我が友ミヤがいた。
……くま耳を付けて。
「何してんの?」
「見ての通り、バイトだよ。えへへ、似合う?」
こいつに羞恥心という言葉はないのか。自分のくま耳に触れ、美少女顔負けのスマイルを魅せた。相変わらず、仕草や微笑みが女子なんだよなぁ……男だって知らなかったら、即落ちしてた可能性大。
ミヤと話していると、奏多がじーっとミヤのことを見た。そういや、初対面だったな。前に、ミヤを女の子って勘違いしたことはあったけど。
「奏多、紹介する。こいつは朝宮恋哉。中学からの友達だ。ミヤ、こいつは火咲奏多。ガキの頃からの大親友」
「初めまして、火咲さん。朝宮恋哉です。ミヤって呼んでくれると嬉しいかな」
「は、初めまして。火咲奏多です……え、本当に男の子??」
ぷっ。近くで見てもわからないか。そりゃそうだよな。こいつ、そんじょそこらの女子より可愛いから。
「本当に男の子だよ。ほら、見て。男の制服着てるでしょ?」
「そんなの今は普通じゃん」
「そ、そうだけど……参ったね。僕、本当に男の子なのに」
困ったように俺に助けを求めて来た。ふむ……。
「安心しろ、奏多。ちゃんと付いてるから。修学旅行の温泉で見た」
「キョウ!?」
「ああ、それなら安心か」
「嫌な納得の仕方された……!」
悪い。これくらいしか証明の方法がなかったから。
内心でミヤに手を合わせていると、別テーブルの客に呼ばれて行ってしまった。
「いやぁ……話してみても、まだ信じられない。声も女の子だし」
「本人は気にしてるから、言わないでやってくれ。あれでも、それなりに苦労してるんだ」
「あ……sh○t。見た目で判断するとか、やっちゃった……後で謝らなきゃ」
そう思ってくれるだけ、ありがたいよ。中には、ずーっといじってくる奴とかいたから。俺と大喧嘩の末、喧嘩両成敗でどっちも停学1週間くらったっけ。懐かしい。
「にしても、バイトか。偉いなぁ、あいつ」
「確か、バドミントンクラブなんでしょ? それに加えてバイトなんて、ぼくには真似できないな」
「俺だって無理だ」
でも高校に入ったからには、何かバイトはやりたいところだ。接客は面倒だから、もっと気楽なバイトしたいけど、いいのあるかな。
くまフェス限定メニューをどれにするか選んでる奏多をぼーっと見ていると、視線に気付いてメニューで顔を隠した。
「な、何さ。悩んでる顔、そんな見んな。はずいから。さっさと自分の分決めなよ」
「それもそうだな」
「あ、ぼくAセットにするから、京水Bセットね。後でちょっとちょうだい」
「決めろって言いませんでしたか、奏多サン?」
◆◆◆
ボリューム的にも味的にも満足のいく昼食を食べ、俺たちは二手に別れてトイレに向かった。荷物が多いから、交互に荷物番をしながら。
先に奏多がトイレに行き、次に俺がトイレに向かう。
無意識に我慢してたのもあり、結構時間が掛かった。奏多の奴、遅いって怒ってるかな。
トイレから駆け足で、待ち合わせ場所に向かうと。
「いーじゃん。俺たちと遊ぼうぜ?」
「彼氏なんかと遊ぶより、俺たちの方が絶対おもしれーって」
うわ、絡まれてる。しかもかなりガラの悪い2人に。
俺が遅かったからか、クソッ。
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