第13話

テレビで、俺の亡命のことが放送されていた。

ソ連が全世界に向けて発信したニュース映像であった。


妻が記者会見を行っている。

妻はカメラに向かって、涙ながらにこう言った。


「主人は私の焼くパイが好きで、事件の前日もおいしそうに食べてくれました。私はパイを焼いて、あなたの帰りを待っています」


は?


何の話だ?

妻は俺と結婚してから一度もパイなんて焼いてくれたことはない。

離婚してくれと毎日言っておきながら、何が「待っています」だ。


続いて、妻の隣りにいた女性が話し始めた。

誰かと思っていたら、なんと、俺の産みの母であった。

俺は母の声を初めて聞いた。


「ビクトルは祖国愛の強い、自慢の息子でした。アメリカの陰謀で無理矢理に亡命させられました。早く息子を返してください」


は?


母とは俺が2歳の時に離別し、それ以降、面識はない。

あなたは俺の何を知っているというのだ。

早く返してくれだと?

息子を置いて出ていったのはあなたの方ではないか。




< 了 >


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

そうだ! 日本に行こう!!(ソ連軍戦闘機パイロット物語)【実話】 神楽堂 @haiho_

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画