第12話
しかし、大きな疑問があった。
日本の自衛隊は、なぜ俺にスクランブルをかけなかったのであろう。
それは、後の報道で明らかになった。
奥尻島のレーダーサイトは、ソ連から飛来する戦闘機を捕捉していた。
このままの進路であれば、日本の領空に入ることが想定された。
直ちに、航空自衛隊千歳基地から2機のF-4ファントム戦闘機がスクランブル発進した。
自衛隊機はMiG-25に近づくことに成功し、無線で領空侵犯の警告を発したという。
しかし、俺は無線機を切っていたので、警告には気が付かなかった。
その後、日本のレーダーサイト、及び、日本の戦闘機のレーダーは、俺を見失った。
あまりにも低空飛行であったため、俺の機体はレーダーには映らなかったのだ。
雲が低く立ち込めていたため、視認もできなかったという。
自衛隊のF-4ファントム戦闘機は、俺を完全に見失っていたのだった。
日本の技術力は高いと教わってきた。
自衛隊のレーダーがあちこちに配備されていることも知っていた。
しかし、俺は日本の防空網をあっさりと突破してしまっていた。
これが戦争だったら、俺は英雄になっていただろう。
俺の行動は、世界中の空軍に衝撃を与えた。
超低空で飛行すれば、レーダーには捕捉されない。
また、高い高度で飛ぶ飛行機は、低空の飛行機をレーダーで捕捉できない。
この事実が明るみに出てしまったのだ。
世界各国は、レーダーの弱点を克服するために、さらなる技術開発を迫られることとなった。
また、戦闘機には自機より下方を飛行する敵機を捜索するルックダウン能力の向上が求められることとなった。
* * * * *
俺はアメリカに亡命を果たし、「自由」というものを初めて手にした。
「自由」とは「選択の権利」のことであった。
アメリカに渡ると、生活の中でさまざまな選択の場面に直面した。
ソ連での暮らしは、自分で決めることなど、まるでなかった。
すべての行動が規則で定められ、命令を忠実に遂行する毎日であった。
一方、アメリカでは些細なことでも自分で選ぶことを要求された。
初めはかなり戸惑ったが、今ではだいぶん慣れてきた。
もはや、ソ連に戻りたいとは思わない。
自分の行動に自分で責任を取る「自由」というものは、とても素晴らしいものに思えた。
亡命してよかったと、今でも思っている。
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