二人目 Fascinatingeye
イケメンだのブサイクだの人の顔の善し悪しは俺には関係なかった。生まれてこの方人の顔なんてまともに見えたことはない。強いて言うなら、みな平等に恐怖の対象である。ある人は顔が渦巻のようになっていたり、ある人はのっぺらぼうのようであり、ある人はただ闇に染められていたりなど僕にはみんな等しく同じように恐怖の対象であった。自分が周りと違うと初めて分かったのは3歳のころだった。両親からすれば人見知りが凄くすぐ泣く子供であったが、その人見知りの対象に両親も含まれていた。人見知りはなくなることなく、それは両親も例外ではなかった。不審に思った両親はすぐに医者に俺を見せた。医者は先天性の相貌失認と診断し、かなり珍しい症例で治療法はあまりわかっていないとのことであった。しかし人間、順応能力というものがあるらしく顔で判断できないのであればほかの部分で人を判別するようになる。匂い、体型、声、雰囲気など様々なものを利用し、6歳ごろには大体の人の判別はつくようになってきていた。しかし人間、恐怖までは克服できなかった様で他人の顔に対する恐怖感は消えることなく俺はずっと下ばかり向いて過ごしていた。それは今でも健在である。もちろん友達なんかできるわけもなく小中学校を過ごし、部活ももちろん入らなかったが高校に入ると趣味で絵を描いていたこともあり始めての部活である美術部に入った。理由は、部員が俺一人だったからである。もともと人気のない部活だったらしいが昨年度の卒業生が最後の部員たちだったらしく、俺が入らなければ廃部だったらしいが俺としてはとんでもない好条件であった。こうして美術部は学校での俺のたった一つの居場所となった。授業は苦痛そのものであったが、自分の居場所があると思えば耐えられたし、授業以外の時間はほとんど部室で過ごした。そんな学校生活を続けて早一年がたった高校2年の夏に俺の人生は変わった。
ある日部室に行くと、黒い髪を腰まで伸ばした女子生徒が窓の外を見つめながら立っていた。俺は部室の扉を開けるのをためらったが勇気を出し扉を開け、部室に入る。
彼女は俺に気づきこちらに振り返った。自分の目を疑った、彼女には「顔」があったのだ。自分の正気を疑った、だが何度見ても彼女には顔があった。初めて見る自分以外の顔、それは自分以外の顔を知らないせいかとても美しく、そして魅力的であった。驚きと感動と色々な感情が入り混じって固まってしまった。
「そんなに私の顔じろじろ見て、何か変?私の顔。」
そう言われ正気に戻りとりあえず否定を入れた。普通に考えたら人の顔が認識できないなんてわかるはずがない、なるべく平然を装って聞く
「その、何か御用でも」
「うん、ちょっとお願いしたいことがね。」
そう言いながらこちらに歩み寄ってくる、背丈は174の俺より5センチほど低く華奢な体つきだった。
「お願いしたいこと?」
「そう、お願い」と言って彼女は近くにあった適当な椅子に座り俺は少し離れたところに座る。やはり顔が見えても、人間への恐怖心はぬぐえないようだ。
「具体的には何をすれば?」
「私の絵を描いてほしいの。」
静かな物腰でそういった彼女の目はとても美しかった。まるで引き込まれるような感覚に見舞われた。
気付けば俺は彼女の願いを承諾していた。理由はいろいろあるだろう、初めて顔を認識できた人だからというのもあるが、純粋に彼女に興味があるからであろう。
俺の返事を聞いて彼女は俺に微笑み「ありがとう」と、
「でも、どうして絵を?」
「君に描いてもらった自分を見てみたい、じゃあ理由にならないかな?」
正直言って意味不明だった、なぜ俺なのか?なぜ彼女の顔が認識できるのか?でもそんなことよりも、彼女を描いてみたいという好奇心が勝っていた。
「彩花」そう名乗り彼女は僕に微笑んだ、すべてを見透かしたようなその笑顔はどこか不気味で、そして魅力的だった。
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