第31話 希はフィネに提案する

 キノコのダンジョン騒動から1ヶ月が経ったある日。希は屋敷にフィネを招待しており、庭園にてお茶会を実施している。そしてフィネは希の爆弾発言に困惑していた。


「ユーファネート様に雇われる?」


「そう。私に雇われて欲しいの」


「今も雇われていると思っていましたが違うのですか?」


 キョトンとした顔も可愛いわね。そう思いながらフィネの顔を希は眺める。かすかに首を傾げほほに指を当てる姿は可憐であり、流石は主人公ヒロインと希はテンションを上げていた。


「なにか危険なお仕事があるのですか? ユーファネート様からのお願いであればが、まずは内容を聞いておきたかなと」


「ごめんごめん。私がフィネさんに危ない事をさせる訳ないじゃない! 私に雇われるって話だけど学院で私の姉になって欲しいの」


「へ?」


 唐突な希の発言に、フィネは開いた口がふさがらないようで、そのまま硬直している。


「どんな顔してても可愛いわね」


 思わず口に出してしまう希。

 理解できずに固まるフィネを眺めつつ、背後に控えるセバスチャンへ紅茶を淹れ直すように伝える。希とフィネの会話を聞きつつも、特に反応せず黙って紅茶の準備をするセバスチャンを眺めながら、フィネの再起動を待つ。


 静かな時間が流れ、やっと再起動を果たしたフィネが確認してくる。


「今、姉になって欲しいと言われた気がしたのですが?」


「合ってますわよ。フィネさん」


「私に弟はおりますが、ユーファネート様にはギュンダー様がおられますよね? いや、その前に姉って??」


「え? 何その未発表情報。え? 弟さんがいるの? 今度一緒にお茶会でもしましょうよ。設定集にもないその情報は気になる……まあ、それは一旦は置いといて。実はフィネにはお兄様と一緒に――」


「ギュンター様と一緒に何すればいいのですか!?」


 希からギュンターの話題が上がるとフィネは勢いよく食いついて来た。一言でも聞き逃してなるものか。そんな表情を見て、ニヤリと笑う希が話を続けようとすると、ギュンターがやってきた。


「なあ、ユーファ。さっき、父上が『フィネさんって子を侯爵家に迎え入れて欲しいとユーファに言われたが、なんのことだ?』と言われたんだが、今度はなにをしようとしている? おお、フィネ嬢。来てたのか」


「ギュンター様! ご無沙汰しております」


「ああ、1ヶ月振くらいか? またユーファに何か無理でも言われているのか? もしそうなら言ってくれ。ユーファはいつも唐突に話し出すからな」


 ギュンターの姿を見たフィネが慌てて立ち上がり、頬を染め挨拶をする。2人のやり取りをニヤニヤとして眺めていたユーファだったが、ギュンターの言葉に希は頬を膨らませる。


「『また』とはなんですか!? 私はフィネさんに無理を言った事なんてありませんわ。ちょっとお兄様と一緒に学院に入って欲しいとお願いをしようとしてただけですわ。そして私を妹として扱って欲しいのです」


「やはり私が姉になるのですか?」


「は?」


 希の言葉にフィネとギュンターが声を上げる。特にギュンダーの頭の上にはハテナマークが大量に出ており、その様子を見て希は詳細な説明をする。


「フィネさんには飛び級で入学してもらって、お兄様と学院で派閥を作っておいて欲しいのですわ! そして家族として私を迎え入れて欲しいのです」


「い、いや。派閥を作るって……。ギュンター様がおられれば私なんて必要なのでは? それに身分も違いますし……」


「全く意味が分からん。それにフィネ嬢を姉って。ユーファとフィネ嬢は同い年だろう? それに急に準備と言われてもフィネ嬢も困るだろうし、第一、侯爵家の一員となるなんて短期間では無理だと思うぞ」


 フィネの慌てた声にギュンダーも同意する。激しく同意するように何度も頷きギュンターを見ているフィネに希は首を振る。


「お兄様とフィネさんが先に居れば安心だと思ったのですわ! それにフィネさんなら今から教育すれば間に合いますわ! なんなら婚約してもらってもいいと思ってますのよ」


「なにを言っているんだ! それに俺みたいな奴と婚約しろなんて言われてもフィネ嬢も困るだろうが!」


「フィネさんのような可愛い子とお付き合いしたいと思わないのですか!?」


「婚約者よりも俺はユーファを――」


 希の言葉にギュンダーが何か言おうとしたが、フィネが手を挙げて発言してくる。


「ユーファネート様の姉になるとの申し出は、冷静に考えれば嬉しい限りですが、ギュンダー様とお付き合いなんて考えたこともありませんよ?」


「え?」


 フィネの発言に希が固まる。あれほどギュンダーを見て頬を染めていたではないか。そう言いたげな希の表情に気づいたのか、フィネは説明を始める。


「ギュンダー様は遠くから愛でるだけでいいのです!」


「なんて?」


 思わず希は確認する。思わず口走ったとフィネは慌てて口を押さえるが、ギュンダーにもバッチリと聞かれており、続きを話すようにフィネをうながす。


「詳しい説明を頼む。フィネ嬢」


「え、えっと。そのですね――」


 ギュンダーの視線に負けたフィネが辿々たどたどしく話し始める。去年に天国へ旅立った飼い猫と同じ毛色であるギュンダーが気になっていると。それならば希も同じではないかとの質問に「オスだったんです」と返すフィネ。


「ギュンター様」


「な、なんだ?」


 真面目な顔で近づいてくるフィネに、思わず顔を赤らめるギュンターに、フィネは目を潤ませて見上げて見つめた。


「ペスって呼んでもいいですか?」

「念の為に聞くが、ペスってのは飼っていた猫の名前か?」

「はい! そうです!」

「却下だ!」

「でしたら遠くから眺めるだけでもいいのですよ。ペスも構いすぎると逃げていたので」

「それはペスの話だろう。俺はギュンダーだ!」


 2人のやり取りを眺めていた希が、自然と隣にいるセバスチャンへ話しかける。


「ねえ、セバス。私って余計なお世話をしちゃったかしら?」


「いえ、ユーファネート様がされる事に間違いなどございません。先ほどのフィネ様をお雇いする話も、ユーファネート様が学院に行った際にお困りになる可能性が減ります。個人的には家族なんて羨ましすぎるので、メイドとして雇ってもらいたいところではあります。ただ、先に学院に入られるペス様のお世話も必要でしょうし、フィネ様はメイドとしてお雇いになられた方が」


「誰がペス様だ! セバス、お前いい加減にしろよ!」


 希とセバスチャンの話が耳に入ったギュンターが、真っ赤な顔になりながらこっちへやってくるのだった。

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黒幕令嬢に転生?それより推し活していいですか? うっちー(羽智 遊紀) @unasfine

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