第2話

 その夜、腹痛を引き起こした。夕食を食べている間、もしやとは思っていた。


 だが、気づかぬふりをした。気づけば、たちまち襲ってきそうだったから。


 全身で風を感じたせいか。いや、風はいつも感じているが、今日はやけに冷たかった。昨日まではまだ涼しいぐらいだったのに。


 夕食後、それは襲ってきた。ヘビが脱皮する動画なんて見ていたから隙をつくれたのかもしれない。もうすぐ試合が始まる。会場は密室。コーチもいない、1on1。やるしかない、そう心に決めて会場への扉を握った。


 今にも羽ばたきそうなほどの鳥肌。ぼーっとしていると、冷えた缶を押し付けられた後のような首。眉間にできたシワ。1試合目、積極的になれず、敗北した。


「敵からの攻撃がすごくて、ひるんでしまいました。」


 会場の外で、私がまず向かったのはコーチのもとだった。敵からくらった痛みを抱えながら、コーチとともに作戦を練った。お腹を撫でながら、呪文を唱えたりもした。


 コーチから慰めの言葉と「腹痛 なおすには」を教えてもらい、勝ってやるという強い意志を持って第2ラウンドへ。


 カンカンカン、と脳内に響く。勝利の合図。やったぞ。


「1試合目はー、相手のペースに呑まれちゃったんですけどー。今度は自分らしい試合ができました。」


 喜びにあふれたコメントだ。自信がついてきている。もう翻弄されはしない。


 安心したのも束の間、敵が最後の力を振り絞って攻撃してきた。私は再び会場入りする。


 もう試合は見えてるんだ。てめーの負けだ。


 結果として、私は合計3時間の格闘のすえ、勝負に勝った。敵はボコボコになっていた。あばよ。


 まるで最初からいなかったかのように、敵は跡形をなく消え去った。


「全て出し切りました!」

 シャッター音が脳内で鳴り響く。


 試合が行われた扉から一歩出ると、右腕を上へ上げずにはいられなかった。鳴り止まない歓声。手には力いっぱいのガッツポーズ。会場の電気は消えたのに、私を照らすライトは消えていないようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私は夜風を許さない 真倉樺 @Makurakaber

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ