第4話 なるようになったりとか
《実長樹里》
待ち合わせ場所につくと、すでにリンが浴衣姿で待っていた。
「おっ、浴衣じゃん。いいね」
「樹里も着て来ればよかったのに」
「着付けられる人いないよ、うちに」
「私が着付けてあげたよ」
「さすリン。また今度ね」
それから浴衣姿の清鷹も来た。残りのメンツはみんなラフな私服だったので、裕生が「お前、リンとペアルックみたいになってるだろうが。空気読めよ」と清鷹に食ってかかっていた。可哀想である。清鷹は「いやお前も浴衣着て来ればよかっただろ」と眉をひそめていた。まったくである。
まだ明るい空の下をぞろぞろと歩いた。夜店が出始め、祭囃子が聴こえてくる。なんだか味のよくわからないカラフルな飲み物を片手に持ちながら、美味しそうな匂いにつられて歩く。
「あ、りんご飴」
「りんご飴まだはえーわ」
「りんご飴との出会いは一期一会なわけよ。あとで後悔しても知らないからね」
私は駆けて行って、りんご飴を一つ買った。ふと見ると、みんな立ち止まらずにどんどん先へ行っている。信じられん。
慌てて追いかけようとすると、腕をつかまれ短く悲鳴を上げてしまう。
「実長さん」
どこから現れたのか、それともずっと待っていてくれたのか、太朗がそこにいた。言いづらそうに、「あのさ」と言ったきり視線をさまよわせ、それから思い切ったようにまた口を開く。
「迷子になっちゃおうよ」
それから有無を言わさないような力強さで、太朗はみんなと反対の方向に歩き出す。私は手を引かれて、どうしてだか何も言えずに、りんご飴をただ握りしめていた。
《鈴木りん》
ヨーヨー釣りをしていると、裕生が隣で同じように屈みながら私を見ていた。
「何?」と眉を顰めれば、「別に!!」と返される。
声でっか……。
やっとヨーヨーが釣れたので立ち上がると、裕生以外の見知った顔がいなかった。
「あれ? 朝菜たちは?」と訊いたが、裕生も今初めて気づいたようで、「は? あいつら俺たちのこと置いてったのか?」と顔をしかめている。
二人で近くを探したけれど、どこの夜店にもいなかった。どうせ先に行ったんだろう、と裕生は言って、どんどん歩いて行ってしまう。
待ってよ、そんなんじゃ私たちまではぐれちゃうよ、と言ったのに聞こえていなかったみたいで、裕生は立ち止まらない。
追いかけなきゃと思って慌てて、慣れない草履が痛くて、思うように歩けなくて。
浴衣なんか着てくるから、と頭のなかで姉が仕方なさそうに言った気がした。
だって、しょうがないじゃん。着てきたかったんだよ、浴衣。
本当は樹里や朝菜に『みんなで浴衣着ていこっか』と言えたはずなのに言わなかった。
裕生から、特別に見られたくて。裕生に、一番可愛いと思われたくて。抜け駆けみたいに一人で浴衣を着てきた。
全部裕生のせいだ。あいつを好きになるほど、自分の性格が悪くなってく気がする。
全部裕生のせいだ。今さら私のことが好きだなんて。きっぱり諦めて卒業するために、心の準備は済んでたのに。
裕生――――子どものころからずっと。あんたに振り向いてほしくて色んなことをした。初恋が実らないって本当だなと思いながら、だけど諦めきれなくて、ずっと。あんたは知らないでしょう。知らないから、私のことを好きだなんて言う。私なんてあんたのこと好きで、好きで、友達よりも目立とうとして浴衣着てくるような女なのに。
でも、もう、知らないから。あとで『好きだなんて言わなければよかった』って後悔しても知らないから。
私はこぶしを握る。深く息を吸い込む。
「ゆうしょーおっ!!」
力いっぱい名前を呼べば、裕生は驚いたように振り向いて、私の顔を見た。
《鎌倉朝菜》
草が生い茂る川の土手でかき氷を食べながら、私と清鷹は「世話が焼けるでござる」「まったくでごわす」と言い合う。太朗と樹里は勝手にどっか行ったが、せっかくなら裕生とリンも二人にしてやるかという配慮である。
「上手くいくと思う?」
「どっちが?」
「どっちも」
「まあ……いけるでしょ、あの分だと」
膝を立てて頬杖をつき、「なんかちょっとむなしいかもー」と私は嘆く。清鷹は笑って、「俺らって友達想いだよな」と言った。
ふう、と脱力して私は膝を抱く。
「清鷹はさ、」
「うん」
「ほんとに彼女と結婚すんの?」
「いや……まだ答えてもらってない」
瞬きをする。なんだか周囲が騒がしくなってきた。たぶん、花火が上がる時間だ。
「『行くなよ』って言えないの?」
「あー……まあ、言いたい気持ちはあるよ。大体、そんなの中学んときから言いたかったよ」
「言ったことないんだ?」
「まあ、な。人を好きになって、両想いになって、その末にさ、結局無理にどっちかの生き方に合わせるしかないなら、そんなのつまんないよ。俺も生き方を遥に合わせられない、だから遥にも俺に合わせろとか言えねえだろ」
「はーむず。東大レベルの話してる? 今?」
「別におんなじ道歩けなくてもいいのにな、って思うわけよ。全然違う道歩いてて、いつかたまたま、道がちょっと近づいてさ、交わったりしてさ、それで……『なんだ、あの時別れなくてよかったね』って笑えたらいいのになって思うんだ。だから、他人同士になりたくないの、俺は」
清鷹は一瞬黙って、それから「花火だ」と指さす。私もそれを見て、しばらく無言でいた。なんだか花火は、去年の方がもっと綺麗だったように思えた。
――――恋を。
恋をしたてだったからかもしれない。
あの人が近くにいるかもしれないと思いながら見る花火は綺麗だった。いつかあの人の隣で見ることがあるかもしれないと思った花火は綺麗だった。たとえ叶わなくても、そのような夢をはらんだ花火は綺麗だった。
「清鷹は、なんでそんなに彼女のことが好きなの」
「さあ……」
少し照れたように清鷹は笑って、「よくわかんねえ」と言う。
「ガキの頃から将棋やってるやつなんてこの辺じゃ俺か遥ぐらいだった。ずーっとあいつに勝てなくてさ。中学んとき、『勝った方の言うことなんでも聞く』ってルールで将棋やったら、俺、勝てちゃったの。まさか勝てると思ってなかったから、なんも考えてなくてさ。で、冗談で『俺と付き合って』って言っちゃったのよ。別に遥のことそういう目で見たことなかったんだけど、ガキだったからさ。そしたらまさかのまさか、あいつが『いいよ』って言ったの。そんで、その時のあいつの笑った顔がさ、なんか可愛くて。もしかしてこいつの笑った顔って世界一可愛いんじゃないかと思って。やべえ、笑顔が世界で一番可愛い女と付き合うことになっちゃった、って。なんか今でもそんな気がしてんだよな。もしかしてこいつの笑った顔って世界一可愛いんじゃないかって。それだけ」
わかる、気がした。
世界って時々信じられないほど綺麗に見えるときがあるから。
あのさ、と私は口を開く。
「私……卒業して、それから先生にまた告るのってアリかな。やっぱ迷惑すぎかな」
「誰が何言ったって諦められやしないんだろ。意見なんか求めるなよ」
「一歩間違えればストーカーじゃん。つかすでに思考がストーカーかもと思ってこわい。恋ってどこまでが無罪で、どこからが罪になるんだろう」
「そんなの俺にわかんねえよ。俺だってこれが見当違いの大迷惑だったらどうしようってビビってんだからさ」
「ねえ、清鷹が諦めるとき言ってよね。それで我が振り直すからさ」
「まるで俺たちが別れるの確定みたいに言うなって。結構感触いいんだぞ」
「は? 私より見込みあるって言いたいわけ?」
「そうですぅー、大体俺はまだ振られてませんー。付き合ってますー」
「“まだ”って言ってる辺りやっぱ振られそうだなと思ってそうで草」
「サナちんさぁ、そんなに俺のこといじめて楽しいの?」
「元気出る」
「はぁ~イイ性格してる」
冗談だよ、と私は笑う。「上手くいくといいね」と付け加えた。「サナちんもね」と言った清鷹は完全に社交辞令だったろうけど、どこか戦友に向けるもののようでもあって、心地よかった。
花火が上がる。私にとっては味気ない、誰かにとっては人生で一番綺麗かもしれない、花火が上がる。
だけどね、先生。
去年私の見た花火が本当に綺麗だったのは、あなたのおかげだったのです。それだけは、間違いないんです。だから私はこの恋をして、よかったと――――『もっとこうなら』と思うことはたくさんあるけれど、あなたに恋をしたこと自体は、本当によかったと思うんです。
《田中裕生》
潮が引くように人が少なくなって行く。花火が上がる時間だから、みんなよく見える場所に移動しているのだろう。
突然に俺の名前を叫んだリンは、ぐっと力を込めて俺を睨んでいる。
怒っている。完全に。なんで?
「私に合わせて歩かんかいっ!」
おお……なるほど、たしかに。
俺は慌てて来た道を戻り、リンの前に立った。リンは俺の目を見上げ、なおも睨んでいる。
「ご、ごめん……」
「こっちは草履が痛いんじゃ!」
「はぁ……」
「“はあ”じゃないわ」
ぷりぷり怒っているリンの機嫌を直そうと、「なんか食べるか? 負ぶっていこうか?」と下手に出てみた。リンはつんとそっぽを向く。
「大体あんたは……」
「はい」
ちらっと俺のことを見て、顔を真っ赤にしながらリンは言った。
「浴衣を誉めんかい」
「えっ」
「浴衣似合うねって言わんかい」
「ゆ、浴衣似合ってる。超似合ってる。この世のものとは思えないほどかわいい」
「この世のものじゃ」
「たしかに」
じっとこちらを見ていたリンが、突然恥ずかしくなったのか「こっち見んな! バカ!」と両手で顔を覆った。
「いや、あの……」
「あのさあ!」
「はい」
「わたし……わたしっ、お姉ちゃんと違って性格悪いの! 裕生は知らないかもしれないけどすっごい性格悪いの! アイス勝手に食べられたときとか全然口きかないし! 超SNSで愚痴るし!」
「え、知ってる……怜ねえが言ってた」
「おねえちゃんっっっ」
顔を伏せたまま、「んも~~~~」とリンは嘆いている。正直、おもしろかわいい。
「アイス勝手に食わないようにするよ」と俺は言っておく。「そういうことじゃないんだって」とリンはまた嘆いた。
「まあ、好きだよ。たぶん、そういうところも」
「私がどんだけめんどくさくて性格悪いか知らないからそんなこと言うんだよ」
俺は思わず吹き出して、そのまま腹を抱えて笑ってしまった。リンは呆気にとられて、そんな俺を見ている。
「すきだよ」
「話聞いてた?」
「すきだよ、なんでだか自分から『めんどくさくて性格悪くて』って主張しちゃうようなとこが」
ぐっと押し黙ったリンが、視線をさまよわせた。俺はちょっと肩をすくめ、「俺の彼女になってくれないの?」と尋ねる。
「幸せにするよ、せいいっぱい。俺なりに」
リンが唇をへの字にしたまま、しっかり俺を見た。それから、口を開く。
「手ぇ、繋がんかい」
俺はなんだか感動してしまって、それをじっと見た。
あの日――――大切な人の葬式の日から、知らないうちにすっかり優等生じみてしまっていた幼馴染が。ガキの頃わがまま言ったときみたいにちょっとふてくされた顔をして、俺に右手を差し出していた。
《飯泉太朗》
サンダルで砂利道を駆けていく。手を繋いでいる彼女も一緒に走っていて、二人分の足音が響いていた。
風でTシャツがはためく。汗が背中を伝って流れていく。
なんでだろう。逃げているんでもなくて、どこかにゴールがあるわけでもなくて。ただ走っているのは心地よかった。このままどこにもたどり着けないままで、走り続けていたかった。
「――――あ、」
実長さんが呟く。僕もちょっと振り向いた。低い音で、花火が咲く。
僕たちは少しずつスピードを緩めて、ゆっくり立ち止まった。
「花火、始まっちゃったね」と実長さんが言う。少し遠いが、花火はここからも見える。あの真下にはたくさんの人たちが集まっているのだろう。清鷹たちもいるだろうか。僕らを探しているだろうか。
実長さんがその場に腰を下ろす。僕もその隣に座った。大きめの砂利が結構痛かったけど、そんなこと全然気にならなかった。
「なんか、思ってたより綺麗だね」
「わりと」
「抜け出しちゃってよかったの? 僕と」
風が、二人の髪で遊ぶように吹いていた。彼女は僕のことを見て、「ねえ」と静かにささやく。
「告んないの、私に」
花火が開く。遠いはずの青い光がここまで伸びて、実長さんの顔に影を落とす。
僕は口を開けたり閉じたりして、やっとの思いで「告白したら、振るでしょ?」と聞き返した。
「わかんないよ、そんなの、その時にならないと。私まだ告白されてないもん」
僕らは見つめあう。先に目をそらしたらすべてを台無しにしそうで、ただじっと見つめていた。
想いを示しておきながら、その答えを求めないでいるのは、不誠実なのだろうか。
僕らは上等な果実を一番おいしく食べられる方法を探し、じれったく撫でまわしたりしている。それが熟れて腐り落ちてしまうことより、十分にそれを楽しめないことばかりを恐れていた。
みんなが自分の気持ちに誠実なのが見えて焦る。僕はこんなだ。どうすればいいかわからないでいるんだ。
僕が顔を近づけても、実長さんは拒絶しなかった。
はじめてのキスは、南国のフルーツみたいな味がした。それではじめて、あのなんの味だかわからないカラフルな飲み物はフルーツの味だったんだなとわかった。
どうしてキスしたんだろう。どうして君はそれを許してくれたんだろう。
顔が離れる。彼女は目を閉じることもせずに、勝気な目で僕を見ていた。おでこをくっつける。ちょっと離して、今度はこつんと軽く音がするくらいにぶつけられる。
彼女の手に触れ、握ろうとしたらちょっと避けられた。キスはいいのに、手を握るのはダメなんだ。さっきまで散々繋いでたのに、変なの。
二度もキスしたら恋人みたいだ。こんな風に思うのもきっと不誠実だよな。
僕が君のことを好きで、もしかしたら君もそうかもしれない。そんな言葉にもいいあらわせない奇跡に、“恋人”だなんて名前を付けて甘いだけのものにしないで。
まだ、しないで。
「告白……した方がいいのかな」
「キスしてから言うんだ。ふしだら」
「今のキスは友達のキスだよ」
「嘘つき」
彼女の“うそつき”の響きがくすぐったく耳に残る。うん、と言った。嘘だ。アメリカ人だって友達とこんなキスしない。
「いつか誰かと恋人になるなら、それは君以外に考えられない」
「ギリギリ告白?」
「告白の予告」
「そういうのやめてよね。予定が立てづらいんだけど」
「ごめん」
ふっと笑った実長さんが空を見て、「こんなところで花火見たのはじめて。他人事みたいに見えるね」と言う。それから僕の背中をたたいた。
「さしあたり、さっきのキスは引いとくから」
「何から?」
「付き合ったあとの私たちから」
僕はぽかんとして、そしてしみじみ「手痛い損失だなぁ」と呟く。
そのあとはもう何も言わず、実長さんは無邪気に花火を楽しんでいた。
夏はうるさくて、僕らの声もかき消されたりして、だからこんなに近くで君の声を聴くのだけど。
どうしてだか、君の隣ではどんな音も、ひどく鮮やかに聞こえる気がした。
《清鷹恭介》
祭りの終わり、夜店は片付けられて。
ちょっと乱れた浴衣をそのままに、帰り道を歩く。なーんで浴衣なんか着てきちゃったんだろうなと思ったが、そんなの未練以外にないだろう。去年は遥と浴衣で歩いたから。
別れてやるべきなのかなあ。
やっぱ邪魔なのかなあ、俺。
朝菜にはああ言ったけれど、一回振られてるようなもんだよな。
遥の言ってることは、わかる。結局、今がよくたって大人になっていくうちにライフスタイルが合う人間といた方が幸せに思えてくるんじゃないかってことだ。そうかもしれない。わからない。ただ、今は――――
「恭介」
そんな風に名前を呼ばれて、俺は振り向く。遥が肩で息をしていた。
「……なんでいんの」
「ごめん、やっぱ間に合わなかった」
「なんで……」
遥の顔は汗でぐしゃぐしゃだし、制服のまんまだし、髪もぺたっとしちゃってて、なのにやっぱ可愛いなと思ってしまった。笑ってるともっと可愛いんだよな、これが。
俺は一気に力が抜けてしまって、遥の手をつかみながら「そんな汗かいて、ぶっ倒れるって」と笑う。
「飲み物でも買おうぜ。ついでに手持ち花火でも買ってさ、その辺でやろうよ。ゆっくり喋ろう。――――会いたかったんだ」
遥は頷いた。それから照れくさそうにうつむいたまま、俺に何か押し付けてくる。
「これ。届けに来た」
「んー?」
遠距離の彼女がわざわざ手ずから渡してきた届け物は、どうやら紙みたいだ。街灯の下で目を凝らすと、それはアレだった。つまり、いわゆる、婚姻届とかいうやつだった。
俺は思わず吹き出す。遥が「何笑ってる??」と不満そうにした。
「いや……いや、お前さあ」
「なに? そっちが言ったんだからね」
「まあそうだね」
「今さら本気じゃなかったなんて言わないでよね」
「言わない言わない」
手をつなぐ。わざと大きく振る。
「待っててよ」と遥が言って、「待ってるよ」と俺は答えた。まだまだガキの俺たちにはそれだけで十分。十分な、約束だった。
《実長樹里》
「で、結婚したの?」と朝菜がなぜか呆れた顔を清鷹に向けている。「してないよ」と清鷹が頬杖をついた。
「親にも言ってねえし、できるわけないじゃん。向こうが大学卒業するころもっかいプロポーズするよ。その時までに指輪ぐらい買えるようになってなきゃいけないし」
「あっそう……。はあ……あんたは戦友だと思ってたのに……裏切られた気分……」
「祝福しろって」
「あー、私も早く卒業して先生に猛プッシュしたい」
「もう開き直ったの。早いね」
話を聞いていたらしい裕生が、しみじみと「すごいなお前は……」と本気で尊敬の目を清鷹に向けていた。
「おー、ゆーしょー。お前、すきだよビームやめたんか」
「ああ。一日に一回言えば十分だって」
「うわ……付き合いたてのノロケって聞くもんじゃねえな」
遠くからリンがこっちを見て、『よけいなことをいうな』と裕生に唇だけで伝えようとしている。裕生はよくわかっていないらしく、「なんだ? 可愛いな」などと言っていた。
私は三年の夏にもなって浮ついた雰囲気の友人たちをぼうっと見る。カツサンドを食べて、ため息をつく。
顔を上げたら太朗と目が合った。アホの太朗。目が合った拍子に慌てたように私に小さく手を振った。
「……付き合ってんの?」と朝菜が確認してくる。「付き合ってないよ」と私は答えた。
付き合ってないよ、まだ。
「祭りのとき二人で抜け出しといてまだ付き合ってないとか、何してんの?」
「さあ……。まあ、でも」
「でも?」
「なんか人生って長いらしいし、一生かけてやるつもりなのかも」
「おっ、気の長い話ですねえ」
楽しそうな牛歩だな、と清鷹が笑う。まあね、と私はため息をつく。
悪くないなと思ってしまった。どうしてだか今のところ、飽きる見込みがなくて。
太朗はといえばこちらの会話が聞こえていないのか、弁当を食べながらふにゃふにゃ笑っていた。
僕たちのブルー、私たちのブルー hibana @hibana
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます