第一章【第一話・・・ここまで急展開すぎ!】
テント群の入り口であろう場所には何人かが集まっていて手を振っているのかそれとも踊り狂っているのか、分からないが動き回っているのが見て分かった。
その群衆に俺はなぜあんなにも喜んでいるように動き回っているのか理解できず、頭の中をクエスチョンマークで一杯一杯埋め尽くされてしまう。
「え~っとイツキ? 拠点ってあそこの事か?」
「ん? そうだよ?」
疑問を解消すべく質問を飛ばす。するとイツキは振り返って俺の質問に端的に答える。しかしそれでも頭の中にあるクエスチョンメークは減ることはなかった。
そのため俺は再びイツキに対して口を開き疑問を飛ばす。
「じゃ、じゃああの動き回ってる群衆は?」
「あ~、あれは......僕これでも勇者なんだよね、多分僕の帰りを楽しみにしてる人たちだと思う......」
「あ、そ、そう......」
突然告げられた勇者宣言に理解が追いつかず自分がした質問への答えが疎かになってしまう。しかしイツキは、俺が疎かになった返事なんて聞いていなかったのか何も反応せず群衆に向かって手を挙げ、大きく振り始めていた。
そんなイツキに俺は適当な返事を聞かれていなかったと安堵し胸を撫でおろす。胸を撫でおろすもののまだ緊張感らしきものが残っておりドキドキと鼓動が打ち付けられる。
すると緊張からなのか口の中も乾燥してきたように感じ、それに続いて喉も乾き始めてくる。
そんなことを気にしている間にもテント群の入り口にどんどん近づいて行っている。
近づいてくるにつれて動き回っている人たちの様子が鮮明になってくる。動き回っている人たちの中には踊り狂っている人や腕を大きく振っている人、嬉しさのあまりなのか泣きそうになっている人たちがいた。
何か関わってはいけないような感じがするのだが、俺はそんなこと気にせずイツキに引っ張られるがままテント群の入り口まで進む。
「な、なあ、この人たち大丈夫か?」
「まあ大丈夫でしょ、大丈夫じゃなくてもなんとかなるよ」
「んな無責任な......」
何かと危険そうな人たちについてイツキに向かって質問を飛ばすものの何かあったときのことを考えていない無責任な答えが返ってきたため俺は咄嗟にその無責任さを指摘する。
しかしイツキは俺の指摘に見向きもせず入口に歩を進める。やがて入口手前まで来ると待っていた人々の歓声と泣き声(?)らしいものが鼓膜を刺激する。
正直に言うと結構うるさい。例えるなら飛行機のエンジン音ぐらいうるさい。ただそんなうるささもつかの間、入口に着いても歩みを止めることなくそのままテント群の間を歩き回る。
そして何個もあるテントの中で他のテントより一回り大きいテントの前でイツキは進めていた歩みを止める。
するとイツキは俺の手を引っ張りながらそのテントの中に入る。引っ張られて入った俺はテントの中を見て胸が高鳴る。なぜならそこには思春期男子なら一度は持ってみたい、振り回してみたいなどの願望を抱くであろう``剣``が何本も地面に置かれていたからだった。
そしてイツキはさっきまで掴んでいた俺の手を離す。
「ここは?」
「う~んなんて言ったらいいかな......まあ僕ら勇者の拠点だと思ってくれればいいよ」
素朴な疑問をぶつけると、イツキは説明がしにくかったのか少し考え込む。しかし何とか説明をする言葉が見つかったのか少し自信なさげに、そして曖昧な説明をする。
するとイツキはテントの中にある少し装飾が施されている少し豪華な椅子に座ると両手を顔の前で組む。
「......さて僕の名前は言ったけど君の名前はまだだね」
「ああはいはい、俺の名前は
「まあそうなるだろうとは思ってたよ......」
「? 何か問題でも?」
「え~っとね、とりあえずここは異世界。そうしたら必然的に名前の表記、順番が違ってくる。ここでは名前が先、苗字が後になるんだよ。例えば君だったらツキジ・ナリタ。だから『ツキジ・ナリタ』これがこの世界での君の名前だよ
」
「は、はあ......?」
分かるようで分からなかった。なぜイツキが異世界などという言葉を知っているのか、そして俺の名前がこの異世界で変わることに。
しかし何となく分かったような気がしたため深く追求することはせず、変わった自分の名前を受け入れてそのことについて考えることをやめる。
そんなことをしているとイツキが急に立ち上がって口を開く。
「ねえ、ちょうどさ勇者パーティー一人募集してたんだよね、だから入ってくれない? ね?」
「......え? は? はああああ!? いやいや急展開すぎ! ていうかそんな『合コン人数足りないから来てくれない?』みたいなノリで誘うことかそれ!」
「いや~でもほんとに人手不足で......」
イツキの口から突拍子のない発言に理解が追いつかず何を言っているのかさっぱりだったが、言葉を理解した......としても言っている意味が分からなかった。
しかし何か答えを出さなければと思い必死に思考を巡らせるとある一つの結論に至る。それは逃げとも捉えることができるものだった。
「と、とりあえず考えさせてくれ、そんないきなり言われても......」
「......分かったよ、でもなるべく早くね」
「ああ、分かった」
イツキからの条件を飲むことに承諾すると、俺は何をすればいいのか分からないので勇者パーティーに入るか入らないかの考えに没入するのだった。
異世界に召喚された俺は勇者パーティーから追放される 空野そら @sorasorano
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