クラスの男子が嘘告されるらしい。いや私はその男子じゃない人違いです。てか女子です。
くと
プロローグ
第1話 勘違い?
ぼんやりと人の流れを見て考える。自分は何者なのだろうか。皆それぞれが経験、時間の上に立っている。皆自分のキャンバスに色を塗って絵を描いて自分を作っている。私は何色だろうか。どんな絵を描いているのだろうか。
「だからさー、面倒だったし振ってやったんよ」
「うわー、えぐいねー」
昼休み、教室の一角で数人の女子生徒がたむろして話をしている。その会話は同じ教室に居る私にも聞こえるくらいだ。
付き合っていた人を金づるだの荷物持ちだの言って嘲笑う声が聞こえてくる。やだ、最近の高校生怖い。
「相変わらずあのグループは…」
「ほんとにね」
そんなひそひそ話が聞こえてくる。私含めて同じクラスの中には男女問わず彼女らに悪い印象を抱いている人は少なくない。彼女らは制服を着崩していたり、髪だって茶色や金色に染めていて不良と言って差し障り無い。
本当か嘘かはわからないけど中学時代に他校の学生と喧嘩した人もいるとか、とにかく悪い噂が絶えない。だから皆、藪蛇を嫌って関わろうとする人は少ない。
ただ、その集団の中にも、すこし浮いた、いや、本来なら普通だけどその集団の中では異色の人もいる。
「そういえば沙織何で髪黒に戻しちゃったの?」
「んー何となく」
件の人物は神崎沙織。制服は多少気崩しているけどみんなやってる範疇。髪も染めてない綺麗で長い黒髪。他の金やら茶色やら賑やかなメンバーと比べるとコントラストが際立って異質に見える。それに、いつも騒がしい一団の中では声は控えめだし、口数も多くない。でも、少なくとも2年に進級して同じクラスになった時点では髪は茶髪に染めていた。それが数週間ほど前に突然黒に戻していた。
「金髪とか似合うって」
「んー遠慮しとく」
わざわざ髪を染めることに何の意味があるのだろうか。間違いなく不良扱いされるし、良いこと無いと思う。
「おいおい、明るい髪色なんて日本人には似合いませんよ。せいぜい茶髪で我慢しな嬢ちゃん」
とか言ったら〆られるんだろうなぁ……
「春香、急に何言ってるの」
私の対面に座っている数少ない友達である三原美樹があきれたような表情を向けてきた。どうしたんだい、何かあったのかい。……ん?今、声に出てたって……?
「まーじ?」
「うん、まじまじ」
え、それは困る。向こうに聞かれたらボコされるかもしれないし…
「聞かれてないよね」
「大丈夫でしょ、話に夢中みたいだし」
集団の方を見ると会話が盛り上がっていて気づいた様子はない。良かった、危うく教室の床に額をこすりつけるところだった。
「えー良いじゃん似合うって」
「んーどうだろ」
神崎さんは見た目だけではなくなんというか行動でもあのグループでは異質だなと感じる。なんというかノリと勢い?みたいなもので動いていないというか、決して他のメンバーが何も考えて無い頭くるくるぱーだと言いたいわけではなくて…
「ねえ、誰かに嘘告して遊ぼうよ」
「いいね、ついでにいろいろおごらせたり出来るし」
やっぱくるくるぱーかもしれない。私が一人で戦々恐々としている一方でとんでもないことを話し合っているみたいだ。ほんとこわい。というか会話丸木声なんですけどいいんですか?
「あの女子みたいな名前したやつ誰だっけ」
「あーいたね鈴木だっけ。あいつにするの?」
ご愁傷様です、鈴木君。きっと辛いでしょうがいつかお勤めが終わることをお祈りいたします。というか鈴木君、同じクラスメイトなのによく教室で堂々と会話が出来るものだと思う。もしここに鈴木君が居たらどうするつもりだったのだろう。やっぱりくるくるぱーだ。
「なにこれ?」
放課後、帰り支度を済ませて玄関に着いた時だった。自分の靴箱を開けると何かが落ちた。拾い上げると一通の手紙。飾りっ気のないシンプルな手紙。これはもしかしてラブレターとか恋文とかいうやつですかい。私、男子とほぼ話したことないのにもしかして一目ぼれさせちゃいました?いやー照れますなー
…そんなわけないか。
とりあえず中身を取り出してみる。すると綺麗な文字が目に入る。
ー 今日の放課後、屋上で待っています。必ず来てください。ー
これは一体どういう用件なのだろうか、もしかして本当にラブレターとか?
「ん?え?は?」
そんな私の思考は差出人の名前を見て遮られた。
神崎 沙織
なんで?どうして呼び出されてるの?もしかして昼間の言葉聞かれてた?もしかして、おこなんですか?
落ち着こう、昼休みは特に反応無かったし大丈夫なはず。うん、きっと勘違い、そうだ勘違いだ。それ以外に私が呼び出される心当たりはないけど絶対勘違いだ。
「…」
自分に言い聞かせるように繰り返しても自分の靴箱に手紙が入っていた現実は変わらない。とりあえず手紙から目をそらす。もう知らない、私は知らないから。そうして何か現実を忘れさせてくれるものはないかと靴箱に目を向ける。こんなものを見てもどうしようもないというのに。当然だけどそこにはクラスメイトの名前がずらりと並んでいるだけだ。そんな中の一つに目がいく。
鈴木遥
そういえば彼は大丈夫だろうか。おとなしそうな人だったし圧に負けるんだろうなぁ。同じ鈴木だし漢字は違うけど’はるか’の名前を持つ者としてすごく心配しちゃいますよ。でも大丈夫。ボコされることが決まっている私と違って君はまだなんとかできるよきっと。ええ本当に……
「……んー?」
あれ?まさかこの手紙、鈴木君宛てだったりする?いくら名前が一緒だからってそんな馬鹿なことある?というかあってたまるか。私は鈴木春香であって鈴木遥じゃない。
「どうしよう」
もし本当に間違いなら私に無関係なわけだし帰っても問題ない気がする。でも、そうしたら鈴木君が〆られる気がするし、それは流石にいたたまれない。せめて、間違えてることだけでも伝えに行った方がいいかもしれない。それに考えたくは無いけどもしかしたら本当に私に用があるかもしれない。もしそうだったら私がコンクリートに額をこすりつけることになるけど。
屋上へと通じる扉の前で立ち止まる。扉の隙間からびゅうびゅうと風が入って来る。この扉の向こうには何が待ってるんだろう。誰が待っているんだろう、一番ましなのは神崎さん一人が居ることだ。でも、他のメンバーまでいたらどうしよう。とりあえず辞世の句でも美樹に送っておこう。
「よしっ!」
これで後顧の憂い?はないはずだ、うん。ここは堂々としよう。笑顔大事。
そうして私はノブに手をかけゆっくりと扉を開いた。
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