友愛

第3話 胃薬頂戴

けたたましい目覚ましの音で目が覚める.手探りで須磨あほを探してアラームを解除する.時間を見ようとスマホを見るとメッセージが届いていた.


"おはよう"


 簡潔な一文、今までの人生で何度も見聞きした言葉。だけどどうしてか笑みが止まらない。一昨日の自分が現状を知ればどんな顔をするのだろう。今の私は何度も画面を見てはにやにやしている。

 私の沙織に対する気持ちは何なのか今はまだわからない。ただ、どうしようもなく嬉しくなっている自分がいる。


「うへへ」


 自分でもどうかと思うような気持ち悪い声が出た。


「何気持ち悪い声出してんの…」


 はっとして振り返るといつの間にか開いていた部屋の扉から妹である冬香がじっとこちらを見ていた。なんだい?その顔は、ごみを見る目だよ?


「びっくりするじゃん、急に入ってこないでよ」

「いつまでたっても降りてこないからだよ」

 

 時計を見るといつの間にか結構な時間がたっていた。おかしいな、私まだスマホの画面を見ることしかしてないんだけど。


「降りてくるときは気持ち悪い顔は置いてきてよ」


 それだけ言って冬香は下へ降りて行った。失礼な奴だ。反抗期かな?

 ともあれ支度しないと遅刻してしまう。


「ん?」


 不意にスマホがメッセージの受信を知らせてくる。アプリを開くと沙織から1件のメッセージが来ていた。


"一緒に学校行こ?駅で待ってる"


 なんか、いいねこういうの、にやにやしちゃう。でもこのままだったらまた妹に気持ち悪いって言われてしまう。いけないいけない、早くしないと。そうして沙織に変身をした後、身支度を済ませてリビングへと向かった。


「おっはよー」

「まだ気持ち悪い」


 うん、ごめんね?確かに今のは言った自分でも気持ち悪いなーって思った。微妙な気分になっていると「早よ座れ」とのお母さまからの声が飛んでくる。もうちょっと優しくして。


「えらくご機嫌だけど何かあった?」

「実はねー…」

 

 言おうとして気づく。彼女が出来ましたって言っちゃって大丈夫?冬香やお母さんがこういったことについてどういった考えか分からないし要らぬ心配をかけさせるのも良くない。


「秘密です」

「えー教えてよ」


 ええいなぜそんなに興味津々なんだ。もおし私が本当んことを言って「え、あ、そう…」とかなったらどうする。こうなったら鉄壁の言葉を使うしかない。


「個別具体的な件に関しましては回答を控えさせていただきます」

「そんなことより教えてよ」


 無視された。この言葉を言えば何も追及されないんじゃないの?世の中嘘だらけだよちくしょう。 




「いってらしゃーい」


 お母さんからゆるい言葉を受けながら家を出る。あの後、なんとかして危機を脱し家を出ることが出来た。上を見ると清々しくそして心地よい春空が広がっている。やっぱり今日はいい日になりそう、やったね。


「はるか」

 

 駅に着いたあたりで後ろから声をかけられた。あれ?でもこの声は…


「美樹?今日は朝練無かったの?」


 まさかの美樹だった。良かった、もし沙織だと勘違いして最高の笑み(自称)で振り向いたら、気持ち悪いとか言わるところだった。


「そんなことどうでもいい、これなに?」


 そう言ってスマホの画面に映されたメッセージアプリの画面が見せてきた。


"あかん"


ああ、そういえば昨日家に帰ってから混乱した頭でメッセージを送った気がする。それにしても意味の分からないなぁ。


「なんだろね」

「は?」


 気持ち悪いとは言われなかったけど、ごみを見るような目で見られた。

 でも、どうしようか…メッセージを送ることになった経緯とかその後の話とか最初から最後まで訳分からないだろうし、お母さんや妹にしたように煙に巻くか。


「春香」


 どうしようかと思案しているとまた後ろから声をかけられた。


「あ、沙織」

「おはよ」


 




「一体どういうつもりなの?」

「あなたには関係ない」


 朝7時、道行く人がこっちを一瞥している。そりゃそうだよね朝の駅前で女子高生が言い争いしてるんだもん。私だって意味わからないよ。

 沙織が話しかけてきた途端、美樹がなんでここに沙織が居るのかと私に問い詰めてきた。訳も分からず勢いに負け昨日会ったことを洗いざらい話してしまった。そうしたら今度は沙織に詰め寄って今に至る。振り返っても意味が分からない。


「春香を騙して最低」

「…」


 流石にそれは言い過ぎだと反論したかった。でも言えなかった。私は気にしてないし今こうして付き合っているわけだし、美樹にもそのことは伝えた。でも、美樹は納得しなかった。美樹が本気で私のことを案じていることが伝わってきてそれを否定することが美樹の気持ちを踏みにじることにならないかとも考えてしまった。

 

「ちょっと話してくるから待ってて」

「あ、はい」


 そう言って美樹は沙織を連れて私から離れたところで話を始めた。あれ?私、蚊帳の外?というか、よくよく考えたら美樹と沙織て面識あるの?流石に初対面相手にあそこまで出来るかと聞かれると、私は出来ない気がする。


「お待たせ」


 しばらくして2人が戻ってきた。バチバチに悪い雰囲気とかは感じられないけどもう解決したかな?


「何かあったら絶対言ってよね、絶対助けるから!」


 何も解決してない。バチバチだよ。


「ほら、やう悪いかないと学校遅れるよ?」


 え?もしかしてこのまま行くの?3人で?そんな私の懸念は置き去りに美樹は歩き出した。そのあとは、私を挟んで沙織と美樹が立つという状態になった。意がキリキリしてきた。ちくしょう、清々しい空が憎たらしく思えてきた。


 






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クラスの男子が嘘告されるらしい。いや私はその男子じゃない人違いです。てか女子です。 くと @kuto_kkym

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