第2話 告白
ゆっくりと扉を開けると外の光が飛び込んでくる。ゆっくりと目を開けると、屋上の真ん中に人の姿が見える。間違いなく神崎さんだ。
「神崎さん、こんにちは」
周囲に視線を送ると物陰に数人いるのが見えた。当然、不良グループご一行。負けるな私、笑顔を忘れずに、一行の様子までは分からない。少なくとも目の前の神崎さんは私の登場に一切動じていない。これはもしかして呼び出す対象は私だったってことですか?やばい、帰りたくなってきた。
「あの…」
「ん?」
こわいよ、まだ何も言われてないし、威圧されてるわけじゃない。でも、この状況だけでもう怖い。白旗上げたいです。だって神崎さんだけならまだよかったのに居るんでしょ、ご一行。圧だけで土下座しそう、
「あの、私の靴箱にこれ入ってたんだけど…」
「ん、あーそれね」
私が差し出した手紙を確認すると特に驚くことも無く理解したのか首肯した。
これはやっぱり私がボコされるやつですか?ならばフェーズ2だ。
「そういうことだから」
「すみませんでした!」
15年の人生で初めての土下座。横目でご一行の方を見ると隠れるのも忘れてこっちを見てる。さあどうだ、唖然、茫然するがいい。これが覚悟を決めた人間の背中だ。
お父さん見ていますか?あなたがお母さんにやっていたように私も出来ているでしょうか。あなたのお陰で何の躊躇もなく出来ました。
「なにしてるの?」
「昼休みのことなら謝りますから平にご容赦を、ご容赦をー」
夏じゃなくて良かった。まだコンクリートは灼熱じゃない。これならいつまででもできるよやったね。
「なんのこと?」
「え?」
顔を上げて神崎さんの顔を見ると、表情にあまり変化はない。でも、少し戸惑っているのはわかる。
「私を呼び出したのはなにかしらの制裁をするためじゃ…」
「よくわからないけど違う」
まじすか、違いますか。じゃあ鈴木君と私の靴箱を間違えたパターンですか。すみません、それは戸惑いますよね。
「じゃあ、これって鈴木君に向けての手紙とか?」
「んー」
なんだがはっきりしない返事。
「付き合って」
「え?」
え?このまま突き通すの?間違った事そんなに恥ずかしい?認めた方が絶対楽だと思うよ?別に間違えたこといじらないし誰にも言わないよ?話の着地点見失ってるよ、どうすんの?
「返事は?」
「よろしくお願い済ます」
やっちゃった、勢いよく頭下げちゃった。ノーと言える日本人になりたい。どうすんのこれ、着地できてないよ墜落しちゃったよ。
「ほんと?ありがと」
「あ、はい」
これもしかして私が財布になるやつですか?どうしようやだ、欲しいイヤホンとかあったのに。
「あの…神崎さん」
「沙織」
「へ?」
「恋人なんだから名前で呼んで、春香」
「あ、うん」
わー、もうどうすんのこれ、ご一行まだいるし逃げられないじゃん。
「それじゃあ、行こ」
「え?」
今、私は学校から家への帰路の途中。普段一人だけど今は神崎さんと二人で歩いている。屋上での一件の後、神崎さんから一緒に帰ろうと誘ってきた。話を聞いていくとどうやら家の最寄り駅まで同じのようだった。中学は同じ学校だっただろうかと思ったけど、高校入学と同時に引っ越してきたらしい。ただの下校で良かった。てっきりそのまま不良グループご一行の元へ連行されると思っていたから安心した。
下校中はなんてことはない拍子抜けするほど他愛無い話をした。得意な教科、好きな曲、本当に何気ない話。一体現状がどうなっているか分からなくなるほど普通だ。
神崎さんからは悪意なんてものは感じられない。私との時間を本当に楽しく思ってくれているようにさえ感じた。私もこれが嘘告による結果ということを忘れて会話を楽しんでしまうくらいには安心していた。今までほとんど話したことも無かったのにどうしてか嬉しくて楽しくて心地よかった。でも時折、神崎さんは躊躇うような苦悩の表情を見せる。その時、神崎さんは何を思っているのだろうか。
駅を出て川沿いの道を歩く。この先の十字路で神崎さんともお別れだ。隣に目をやると当然、神崎さんが歩いている。だけどさっきから何も言わない。何かに悩んでいることはわかっている。だけど聞いていいものなのかわからない。
「神崎さん…?」
そうして私もどうしていいかわからず黙り込んでいると、神崎さんの歩みが止まった。
「どうしたの?」
私の問いかけに口を閉ざしたままただ立ち止まって袖を掴む。
ごめんなさい」
震え交じりの声、嘘偽りのない後悔の念が伝わってくる。
「私、春香かを騙してた」
それから神崎さんはこの告白がグループの悪ふざけの嘘告であったことを話してくれた。一体何を考えているのかと思えばそのことか、嘘告だってことはわかってたし、確かに最初は怖かったけど特に何もされることはなかった。だから神崎さんが気に病むようなことは無い。こうして謝ってくれたんだそれで十分だ。
「本当に酷いことをして、ごめんなさい」
「気にしてないから大丈夫だよ」
少し、嘘をついた。私は神崎さんに怒っているとかそんな気持ちはない。ただ、この関係が嘘のもとに成り立っている事、神崎さんとの関係が嘘で終わってしまうことは辛い。まだ少ししか話してないけど神崎さんとの時間は心地よくて楽しくて、神崎さんともっと仲良くなりたい、もっと神崎さんを知って私を知ってほいと思っている。だけど、これは私が勝手に思っていることで、神崎さんにこれを強要することは出来ない。
「でも、これだけは信じて」
神崎さんは顔を上げ真っすぐこちらを見つめてくる。そこからは確かな意志を感じる。
「私は本当に春香が好き」
「…え?」
その言葉はぐちゃぐちゃになっていた私の思考をさらに混乱させる。あの告白は嘘ででも嘘じゃなくて、神崎さんは私のことを本当に好きで、
「図々しいこととは思うけど私と付き合ってください」
神崎さんの小さな叫び、それが真意であると痛切に伝えてくる。だから私も真剣に考える必要がある。答える必要がある。
「私は…神崎さんと一緒にいてすごく楽しかった」
これは私の今日、思ったこと。これが神崎さんとどんなふうな寒けになりたいのかの答えなのか。
「でもこれが恋なのかわからない」
それを判断するには私はあまりにも未熟だ。でも、
「でも…私は神崎さんのことをもっと知りたい。もっと一緒に居たいと思ってる」
これが恋だったら…、そう思う。
「だから、神崎さん…沙織をを好きにならせてください」
これは振り返ることを止めた者と前に進むと決めた者の出会いの物語
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