第25話 マリの奪還作戦


 俺は名刺に記載された通りの場所に行く。

 その場所は意外なところだった。なぜならば、その場所は新・未来党の本部だ。

 新・未来党。それはマリの父親、ピターが設立した党であるのだ。このタイを推進しようとしている理念から設立されたのだ。

 大きな門をくぐると、何やら中は騒がしかった。

 何かしら、資料や電話をかけまくっている状況だ。

 一体、彼らは何を急いでいるのだろうか?

 と、俺がそんなことを思っていると、メガネをかけたし青年が俺を出迎える。


「待っていたよ。えっと、春樹くんだっけ?」

「はい。初めまして、ロームさん」


 俺はロームと握手を交わす。

 彼は新・未来党の新人エースだ。大卒後、政治家活動に専念し、選挙を勝ち抜いた人だ。優秀な人材で、日本でいう大谷翔平のような優秀な若者だ。

 俺たち党内を歩きながら、談話をする。


「なんだか、みんな落ち着きがありませんねえ」

「それもそうだよ。この党、解党する可能性が出てきたからね」

「え? どうしてですか?」

「クーデターでこの党が標的にされたからね。それは仕方がないよ」

「じゃあ、解党するのを待つんですか?」

「されないためにみんなで頑張っているんだ。我々が解党されたら、民衆が生活できなくなる。我々は戦っているのだよ。民衆のためにね」


 ロームは諦めない姿勢を見せる。

 さすがは優秀な人材だ。最小年で議員になれた人の考え方だ。

 そんな談笑をしていると、俺たちは一つの会議室に座らせる。


「さて、話題に入ろうか。まずは、マリのことだね」

「はい」

「彼女は明日の結婚に向けて準備をしている。結婚相手は軍人のプラヴィットだ。通称、太っている豚だ」

「ひどい言われようですね」

「軍人にろくな奴はいないさ。武力を持って権力を得る方法しか知らない猿だからね」


 ロームは苦虫を噛み潰したような顔をしながらそう説明する。


「軍人の結婚式に、マリを奪還する」

「え? でも、そんな簡単に行くのですか?」

「いくさ。僕を誰だと思っている? 革命家のロームだ。牢屋に行った回数イコールデモに行った回数だ」

「それって、威張るところですか?」

「君の国にも、京大だっけ? 熊野寮の活躍は革命家にとっては有名だぞ?」


 熊野寮。あとあと、知った話だが、この寮は伝説の不祥事の数々を行ったの京都大学の寮なのだ。

 え、日本にもそんな汚名な不祥事を起こす人がいるんだ。

 なんだか、悲しい気分になった。

 俺は落ち混んでいると、ロームは作戦を説明する。


「俺ちの作戦はこうだ。俺が合図をする。合図したら、マリを連れ出して全力で走れ」

「そんな簡単に行くの?」

「いくさ。俺を信じろ。俺は革命家ロームだ」


 ロームは胸を張っていう。

 自信満々に言い放ったのだ。

 彼はいい人だ。俺のために色々と動いてくれている。

 でも、俺は一つだけわからないことがあった。

 それは、どうして、彼がそこまで体を張ってまで俺のために助けるのか。

 疑問に思った俺はそのままその疑問を口にする。


「ロームさんはどうして、マリ奪還作戦に協力してくれるのですか?

「そんなの簡単だよ」


 ロームは腕を心臓に当てて、こう放つ。


「革命家はな。人が苦しんでいる時にはその人の感じた痛みもわかるのだよ。君が婚約者を奪われた痛みは俺もよく感じているんだ」


 革命家の心得を俺に教えたのだ。

 そこで、俺は思った。

 彼が優秀で、政治家になれたのは、人の痛みを感じているからこそ、議員選挙を勝ち取ったのだ。

 世界は俺が思った以上に広かったのだ。

 こういう人も、この世界に存在するのだ。


⭐︎⭐︎⭐︎


 わたしは着替え室に着替えさせられる。白く、長いドレス衣装。言い換えれば花嫁の衣装だ。今から、結婚式が行われる。相手は知らない軍人の人。

 でも、この結婚をしなければならない。

 なぜならば、父さんが人質に囚われているからだ。

 わたしがこの結婚を拒否したら、父さんの罪が重くなると言われたのだ。

 だから、無力なわたしはこの結婚を拒否することはできなかったのだ。


「マリさん。着替えは終わりましたか?」

「あ、後もう少しで終わります」

「外で待っていますね!」


 ホテル会場の着替え室に入ってきたのは一人の女軍人。

先週からわたしを監視の役目を担っていう人だった。名前は知らない。彼女は、わたしが花嫁衣装に着替えたことに感心をしてから着替え室を後にしたのだ。

この後、15分後にはわたしは知らない人と結婚をする。

心が痛い、鳥肌が全身立つ。


「ハルキさん。ごめんなさい」


 わたしはハルキさんに謝罪することしかできなかった。

 彼と結婚をすることを交わしたのにも関わらず、こうして別れることにはなってしまったのだ。

 わたしは無力でこの運命を受け入れるしかない。

 わたしは一人で静かに泣いていた。誰もわたしを救えるものはいないのだ。

 権力を失った、父さん


「マリさん! そろそろ、行きましょう」

「……わかりました」


 時間稼ぎはここまでだ。わたしは観念して、着替え室から出る。

 会場の扉の方に行くと、全員が会場内で待機していたのだ。

 会場の中の客は軍人ばかりで、わたしの知らない大人しかいない。

 父さんはもちろん、鉄格子の中でここへ来ることはないのだ。

 涙を堪えて、わたしは会場の扉をくぐる。

 すると、会場から握手する音がし響いた。

心臓が抉られよう音に耐えて、前へと歩く。

 会場のステージへと向かっていった。周囲の微笑みが気持ち悪かった。みんなわたしを見ている。監視されたのだ。わたしは逃げることはできない。

 ステージに着くと、音楽が演奏される。

管弦楽曲だ。演奏しているみなさんはマスカレードの仮面を被りながら管弦楽曲を演奏していた。

 

「皆さん。彼女がマリです。今宵の花嫁です!」


 司会者が説明すると、みんなは拍手をおやめて、わたしに目線を送ってくる。わたしの隣には一人の太った軍人が立っている。この方がわたしの結婚相手だ。

 彼はわたしのことを見ると、涎を流れ出すような興奮していた。正直に話すとかなり気持ち悪いのだ。紳士さが欠けている軍人のお偉いさんだ。


「では、ここから二人の愛の誓いをお願いします」


 司会者は楽しそうに結婚の進行を管理すると、会場のみんなはおう! とわたし以外の人は胸を踊らせた。

 わたしは嘔吐感に襲われた。

 ここから逃げ出したい。でも、逃げ出せる勇気はないのだ。

 わたしは囚われた可哀想な花嫁。

 何も力がなく、ただただ、勢力に従うか弱い女の子なのだ。


(ごめんなさい。ハルキさん)


 わたしは相手には聞こえない謝罪をする。

 婚約者に何も伝えずに見知らずの人の花嫁になっているのは。

 彼を裏切った


「愛を誓いますか? プラヴィットさん」

「はい誓います」

「では、マリさん。あなたは愛を誓いますか」


 その問いにわたしは奥歯を噛み潰してから、司会者に目を向ける。

 そして、心の底から思っていることを口にする。


「いいえ。誓いません」


 すると。プラヴィットは素っ頓狂な表情を浮かべた。周囲はざわついたのだ。

 わたしは決して彼に愛を誓うことはない。

 わたしが愛しているのはハルキさんだけです。

 そんな時だった。


「革命軍だ!」


 扉から数人の集団が現れる。

 彼はオレンジのシャツを身に纏い、清楚のズボンを履いているものたちだ。

 わたしは彼のことを知っている。新・未来党の皆様であった。


「な! 君たち! 新・未来党ども! 解党されたいのか!」

「そんなのどうでもいいのだよ! 食らえ!」


 ロームは何かを投げ出す。みんなも会場の中で同じものを投げ出した。

 それは丸い何かだった。床に落ちるとしゅうという異音を鳴らすと、何かが吹き上がった。白い煙だ。これはスモークグレネードだとわたしは知るのだ。

 わたしは体勢を低くする。有害なガスではないが、白い煙を吸わないように注意を払う。

 すると、わたしはとあるマスカレード仮面を被った男子の前に立つことに気がつく。

 どうしようと、わたしは焦りだすと、彼はゆっくりと仮面を外すと、わたしに手を差し伸べた。


「帰ろうマリ! 日本に帰ろう!」


 ハルキさんが手を差し伸べてきたのだ。

 わたしはあまりのも嬉しさに、涙を流しながら彼の手を掴んだのだ。


⭐️⭐️⭐️


 俺は会場に潜伏していたのだ。ロームの提案で音楽家として、結婚会場の音楽団に溶け込んでいたのだ。


『いいかい。俺がスモークグレネードを投げたら、君はマリを連れて逃げろ。後は、俺たちが足止めする』


 そんな作戦でもない作戦に俺は実行したまでだ。

 俺はマリの手を掴み、煙の中走りだす。出口の方へと向かっていったのだ。


「探せ! 花嫁を捉えよ! しかし、あいつらは射殺してもいい! 銃を構え!」


 軍人の誰かがそう語る。

 すると、煙の中軍は自ら手にしている銃を構えた。


「させねえよ。ばーかー」


 ロームは何か合図をすると、革命軍は列を作り上げたのだ。隊列を作り上げて、ドアの前に封鎖するように立ち塞がる。

 煙の効果が消えると、ある光景が浮かんだ。

 革命軍は手を繋ぎ、人間の壁を作り上げたのだ。

 一方、軍は銃を構えて、革命軍に銃口を向けた。

 見れば、革命軍の圧勝されているのがわかる。特に前線で堂々と立っているローム。銃口は彼に向かれていたのだ。

 あとは引き金を引けば、確実に彼は死ぬのだろうと俺は恐怖を感じた。


「走るんだ! 春樹くん!」

「でも、俺たちが逃げればあなた打たれます!」

「打てるなら、打ってみろ!」


 ロームは咆哮すると、軍隊は動揺し出した。

 そこで、俺は彼の狙いがある意味理解できた。

 今回のクーデターは争いがない、平和的に解決すると報道されている。

 ここで、死人が出たら、クーデターは武力的介入したということになる。

 だから、頭のいい軍は動揺し、銃の引き金を引くことはできないのだ。

 だが、プラヴィットは諦めていないのだ。花嫁を連れ戻すために、銃を構える。


「それくらいどうということはない! 一人二人死んでも、報道を捻じ曲げればいいのだ!」

「そいつはどうかな!」


 ロームは勝利宣言をするとともに、ある人がこの会場に踏み入った。

 その人の姿を見ると、俺は彼の名前を呼んだのだ。


「梨田さん!?」


 名前を呼ばれた梨田さんは静かにこの会場にやってきた。

 日本大使がどうして、こんなところにいるのか俺は気になった。

 プラユットの会談と別れたあと、俺は彼と別行動をした。

 無論、今日のことは何も話していない。

 マリを奪還する作戦は彼に伝えていないのだ。

 なら、誰がこの情報を梨田さんに伝えたのか?

 ……ローム革命家だ。


「この結婚式に日本人がいるときいて、やってきました」

「う……! そんなデマな情報はどこから!」

「いや、デマではありません。一人、日本人がここにいるじゃない」


 最初は誰のことかわからなかったが、マリはすぐにピンときたのだ。


「ハルキさんですね?」

「そうです。わたしの助手がここにいること。それはさほど重要ではありません。しかし、平和を掲げていたクーデター軍が日本人に銃口を向けているのが問題です。これは国際問題に発展します」

「ぬ!」

「これは見過ごせませんね。プラヴィット氏。現に日本人がクーデター軍に殺されかけたのですから」

「くっつ!?」


 梨田さんは臆することなく、軍の前に立ち向かうと、彼の背後からシャッター音が響いた。各国の報道者たちがカメラを構い、俺たちをとらえた。

 それを聞いた軍は銃を下されず追えない。

 これは国内問題ではなく、国際問題に発展する寸前だと、誰もが理解したのだからだ。クーデター軍の平和を掲げていた嘘が一瞬にて全世界に報道されたのだ。

 正義は我にある、と。

 最悪、全世界から経済の援助を断たれる可能性が出てきたのだ。

 勢力とはこういう扱い方があるのだ、と俺は目から鱗状態だった。


「ここで最後だ! プラヴィット。俺たち、革命軍はここで宣言する。我々は非武装行動を行い、外国人を射殺しようとするクーデター軍の実行を阻んだ!」


 革命家、ロームの宣言に、クーデター軍は銃を放棄しだす。

 このクーデターに正義がないのだ。武力を持ったものに正義はない、と全世界に報道されたのだ。


「さあ、行くんだ! 空港へ急げ! 帰国するんだ!」

「はい! ありがとうございます! ロームさん。この恩は忘れません!」


 俺はロームさんと別れを放ち、ホテルの廊下を駆けめくった。

 空港へ行き、梨田さんが手配した、プライベイトジェットに乗り込む。そして、タイのスワンナプーム空港を離陸したのだ。

 こうして、俺たちの長い戦いは一晩で終わった。

 俺はみんなに感謝しなけれっばならない。

 背中を押してくれた父さん、マリの父・タイ元首相のピター、日本大使の梨田さんに革命家のローム。

 みんなが自分の命よりも、覚悟を決めて俺を助けたのだ。

 俺はこの国のことを一生に忘れないのだ。

 

 

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