第22話 クーデター

 最近、俺の帰りはそ遅くなっている。

 それは放課後で俺はヴァイオリンの練習をしているからだ。

 つい最近までは家で練習していたが、瑞希の協力があり、悪いテンポの修正するために色々とアドバイスをしてアドバイスをしてくれたりとかしている。


「ここのテンポはこれで」

「なるほど。これか」

「ちょっと違うわ。もうちょっと早くね」


 瑞希はヴィオラを演奏すると、俺はテンポを掴むために覚える。

 このカノンの厄介のところは16分音符という箇所があり、ちょっとテンポは早めになっているのだ。

 七年間ヴァイオリンをブランクにしていた俺はその早めに対応することはできず、地味時に練習するしかないのだ。

 俺は再度カノンを演奏する。やっぱり失敗する。

 思わず舌打ちをしてしまったのだ。

 

「くそ。失敗か、また最初からだ」

「ふふふ」

「ん? どうした瑞希。何かおかしいことをやったか?」

「いや、ただ、春樹がまたヴァイオリンを演奏してるだなんて」

「でも、下手くそだろ」

「そうね。下手くそね」

「おい……」

「ははは」


 瑞希は大笑いをする。

 失礼なやつだな、俺がヴァイオリンのことで悩んでいるのに、彼女は俺の努力を笑い出すなんて。

 ちょっと休憩。俺はヴァイオリンを置くと、瑞希はどこか楽しげに笑うながら会話をする。



「あんたがヴァイオリンを練習するなんて、それってマリのため?」

「そうだな。来月、孤児院でヴァイオリンの演奏することになった、マリの前では恥を欠かせられないからね」

「大失敗してよ」

「いやだよ。婚約者の前でヘマをしたくはない」


 俺はそういうと、瑞希は笑い出した。

 こいつ、失礼なやつだな。俺は真剣に励んでいるのに。


「でも、なんだか楽しいね」

「楽しい?」

「そう思わない?」


 瑞希はそう尋ねてくると、俺は考え出す。

 マリが来てから、俺は色々と変わった。

 自分でも驚くくらい変わったのだ。笑うようになったのだ。この世界が楽しく感じた。音楽の楽しさを知った。

 だから、瑞希がいう楽しいのは俺にも感じているのだ。


「そうだな。楽しいな。この時間が永遠になればいいのにな」

「バカ言わない。私たちは進学して、卒業して、大学に行って、就職するの」

「ちょっとでもいいから。夢を見させてくれよ」


 俺はヴァイオリンの練習を続けようとするが、音楽室にノック音がしたので、ヴァイオリンをおき、どうぞと声をかける。

 すると担任の前田教授は複雑そうな表情をしながら音楽室にやってくるのだ。


「あれ? マリはここにいると聞いたのだが、石井と吉村だけか?」

「マリならもう帰っていますよ。どうしたのですか?」

 

 俺はそう答えると、前田教授は何やら話ずらそうの顔をしていた。

 そして、その訳を俺は知ることになる。


「マリさんの国でちょっと問題があってね」

「え? タイ王国ですか?」

「そうだ。詳細はわからないけど、ニュース番組はそれを流しっぱなしだ」


 異変に思った俺は慌ててスマホを取り出して、ニュースサイトを見る。

 平和であるタイ王国の首都、バンコクに正体不明な軍隊が国会議事堂を占拠したのだ。

 一体? タイでは何が起きたのか?


⭐︎⭐︎⭐︎


 わたしは急いで帰国をすることにした。

 父さんが今、大変な状況の下でいると知らされた時に居ても立っても居られない。

 いますぐタイへ飛行機を予約する。婚約者のハルキさんには何も告げずにわたしは荷物をまとめる。


「お嬢ちゃん。タイで一体何が起きているんだい?」

「わたしにもわかりかねます」


 喫茶店のテーブルに座っているオーナー、ハルキのお父様、誠一さんは猫じゃらしで雉丸と遊びながらわたしにそう尋ねる。

 テレビを国際番組にチャンネル変える。

 どれも詳細は書かれていないのだ。

 ただわかるのは、タイの国会議事堂前に戦車が走っていることだけだ。

 わたしは冷や汗をかきながら、タクシーアプリを開き、タクシーを呼び出す。


「誠一さん。わたし、一旦帰国します」

「気をつけて帰りなさい。喫茶店ラッセルはいつでもマリの帰りを待っているから」


 誠一さんはそういうと、わたしに10万円の金額を渡してきたのだ。

 わたしは慌てて、受けるのを断る。こんな大金を受けるわけにはいかないのだ。


「ダメです。誠一さん。わたし、このお金を受け取るわけにはいけません」

「そんなことを言わない。マリはわたしの親友の娘で、ハルキの婚約者だ。わたしの娘のようなものだ。だから、少数なお金だけど受け取って欲しいのだ」

「ありがとうございます。誠一さん」


 わたしは誠一さんに一度ハグをする。

 ハルキさんはまだ帰ってきていない。でも、お別れをいう時間もないのだ。

 わたしは一歩も早く帰国しなければいけないのだ。

 

 ……お父様。わたし、すぐに会いに行きます。

 

 すぐにタクシーが店の前にやってきた。

 わたしは荷物をまとめて、タクシーに乗る。

 行き先は羽田空港だ。あと3時間で飛行機が離陸するのだ。

 羽田空港に着くと、わたしはクレジットカードでタクシーの支払いを済ませて、空港のターミナルへと走っていた。

 タイ航空のチェックイン窓口に行き、パスポートを見せる。

 荷物を預けてから、出国審査の方へとやっていく。

 出発搭乗口へと走り、あと1時間で離陸するのだ。

 そんな時に、スマホが振動をする。

 わたしは慌てて、スマホを取り出すと、そこにはわたしが知っている名前がスマホのに表記される。


「もしもし、ハルキさん」

『マリ! 今どこにいるの!』

「空港です。今から、タイに帰国します」

『え? 一体タイで何が起きているの?』

「わかりません。お父様が危ないと思いますので、すぐに帰国しなければいけないのです」

『わかった。飛行機の旅は気をつけてね』


 わたしたちの会話はそれだけで終わった。

 スマホをポケットの中にしまうと、わたしは搭乗口に行き、飛行機に乗る。

 平和な国。タイ。首都、バンコクがぐ軍隊に閉鎖されているためか、今はタイへと観光するものはなかった。観光するものがいないということは、この飛行機の乗人も多くはなかったのだ。


「お父様……」


 わたしはベンダントを首から外し、収めている写真を眺める。

 そこには父さんの写真があった。

 父さんはタイの貧しい人間を改善したいと願って、政治家になる。真・未来党の推進派で、憲法改善や、タイの政治に貢献し、このタイという国は10年も発達したのだ。

 あとこのまま4年を就任すれば、タイは前進国に劣らない国になるのだろう。

 わたしは父さんの安否を念じ、飛行機に乗ったのだ。

 しばらくすると、飛行機は動き出して。やがて離陸することになったのだ。

 

 ここから見る空は青く透き通っていたのだ。

 富士山を越えて、日本という国から離れていく。


 やがて、飛行機はスワンナプーム空港に着いたのだ。

 時計を確認すると、タイの早朝の4時だ。

 2時間の時間差があるタイ。

 わたしは着陸した飛行機に立っても寝てもいられず、すぐに降りようとする。

 飛行機の扉が開かれると、わたしは意外な光景を目の当たりにした。


「同行を願う。マリ」

 

 軍隊だ。タイの陸軍の女子軍がわたしの名前を呼びながら何名かわたしの前にやってくる。


「お父様は無事でしょうか!」

「ええ。無事です。あなたが抵抗しなければ、我々はあなたに危害を加えることはありません」

「この国で……一体何が起きているのですか?」

「クーデターです」

「え?」

「ですから、クーデターです。あなたのお父様、ピターは失権しました。重要犯として、我々の下に置かれています」


 そこでわたしは理解する。この国の政治の仕組みを。

 王が認められなかった人がこの国の政権を収めることはできない。

 それがこの国の暗黙のルールだったのだ。

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