第12話 幼馴染の逆襲

「ちょっと! どういう意味!」


 ホームルームが終わると、瑞希は俺の所にやって来た。

 そして、赤面を作りながら、俺を罵倒する。

 ……ああ。面倒臭え。この時間をスキップする機能はないかな? 俺、彼女の質問に答えなければいけないのかな?

 俺はバックを取り、立ち上がろうとする。


「親の都合だよ。父さんが勝手に決めたことだよ」

「キイイイイイ! おじさん何やっているのよ。許婚ならわたしを選ぶでしょう!」


 え? それどういう意味?

 俺はなんかきいてはならないことを聴こえたので、鈍感主人公を演じることにした。

 ふっと、隣の席。マリの席を眺める。

 彼女は大勢な生徒に囲まれて、楽しそうに会話をする。


「ねえねえ。マリさんってどこからきたの?」

「タイ王国です!」

「台湾?」

「いいえ。東南アジアのタイですよ。地図で言うとここです」

「わあ。そのスマホ新機種だ。いいなー」

「ありがとうございます!」

「これから、マリさんの歓迎パーティーをしようと思うの! 駅前でカラオケはどうだろう?」

「え? カラオケですか! わたし、カラオケは初めてで行ったことないのです」

「うそ! それなら、カラオケに行かないとね」


 どうやら、陽キャの集団にも臆することはなく、会話をできている。

 すごいな、マリは。俺のような隠キャにはこんな卓越した会話はすることはできない。

 そんなことを考えていると、俺はマリと目が合ってしまった。


「あの〜ハルキさん」

「俺は店の手伝いがあるから、マリだけ一人で遊んできな。帰り遅く帰っても問題ないぞ。父さんに伝えておく」

「……そうですか」

 

 マリは顔を少ししゅんとする。

 俺はそんな彼女の顔を耐えきれず、荷物をまとめるふりをしていたのだ。

 俺は隠キャ。カラオケで歌うものなどないのだ。


「じゃあ! マリさん! いきましょう!」

「あ、はい」


 荷物をまとめていると、マリと陽キャたちはゾロゾロとクラスから出ていった。

 俺は彼女が出ていくのを見て、一安心する。

 彼女が友達を作り、スクールカーストの最上位にいられるのはいいことだ。俺みたいに意地を張って、最下位に落ちるのはクズのやることだ。

 だから、お前は俺の代わりにみんなと仲良くしてくれ。

 みんなが教室から出ていくと、俺もそろそろと帰るか、と思った。


「ちょっと、聞いているの?」


 振り向くと、幼馴染の瑞希は腰に手を当てて、文句を言うように俺の帆を睨み出す。

 ああ。面倒臭え。


「悪いけど、俺は急いでいる」

「急いでいるにはゆっくりと物をしまっているのね」

「ち」

「今、この幼馴染面倒臭いと思ったでしょ!」

「なぜバレた?」

 

 俺は鞄を手にして、立ち上がると瑞希はもう! と牛のような鳴き声をし出す。

 それを無視して教室から出ると、階段を降りて、昇降口の方へとやってくると、瑞希は俺の後をついてきていた。


「で、何か用か?」

「ねえ。春樹」

「なんだよ。改まって」

「一緒に帰らない?」


 瑞希はどこか改まって怒りを収めて、どこか羞恥心を抱いた顔になる。

 ……情緒不安定かよ。

 でも、彼女の誘いに断る理由は見つからない。それに、春休みの間、瑞希に会っていない埋め合わせとして、一緒に帰ることにした。


「わかった。一緒に帰ろう」

「うん!」

 

 俺がそういうと、瑞希は楽しげに笑った。

 靴の履き替えを終えると、俺たちは学校を出て、帰路に向かっていた。

 駅に向かっている道。瑞希は俺に尋ねて来た。


「で、結局。マリさんとの関係はなんなの?」

「婚約者同士だ。親同士が勝手に決めた関係だけどな」

「もう。おじさんも変なことを考える」

「そうだな。俺も参っているよ。あんな綺麗な人が俺の婚約者だなんて」

「ふーん。あんな綺麗な人が」

「なんだよ……」

「別に……」

 

 そこから、瑞希は何やら、独り言を語っていた。

 何か知らないけど、俺は聞かないようにした。

 なぜならば、俺は鈍感主人公だからだ。


「で、あの子の住まいはどこよ?」

「俺の家だ」

「じゃあ、なんで、あの子と一緒に帰らないのよ!」

「帰りの約束はしていないし、それに俺と帰るより、クラスのみんなと慣れた方がいいだろ?」

「かなりドライね。あんた」


 瑞希はどこか呆れたように声を上げた。

 まあ、ドライなのは仕方がない。俺はこの学校で隠キャになることを決めたから、学校では彼女と関わることは最小限にする。

 それに、彼女と一緒にいると人生が狂う。

 幸せすぎて、不幸になるんではないか、と思えたのだ。

 だから、俺は彼女と関わらないようにする。


「マリさん。かわいそうね」

「そうか?」

「ええ。婚約者に捨てられるからね」

「手厳しい」


 俺たちはそう茶々を言うと同時に電車がやってくる。

 電車に乗ると、俺は本を読み始める。コーヒー知識の本だ。今朝の続きを読もうと思ったのだ。

 やがて、電車に揺られてすぐに、最寄駅に到着する。

 俺たちは下車し、改札口へと出ていったのだ。


「今日、おじさんに会っていい?」

「いいじゃないか? どうせ、店は暇だろうし」

「やっぱり、忙しくないじゃない!」

「バレたか……」


 俺は舌を出して、てへぺろと誤魔化す。

 忙しい理由は仕込みにはあるが、本日のカレーの仕込みは父さんが担当しているだろうし、そこの心配する必要性はないのだ。

 まあ、喫茶店の経営なんて、客が来なければ大損だ。

 うちは既存客のリピーター狙いの店だから、心配はないけどね。

 俺たちは桜並みの道を通ると、俺は散った桜を見る。

 来週中にはこの桜の木たちは緑色になるのだろう。

 桜の季節もそろそろ終わる頃だ。


「何ぼーっとしているのよ」

「いや、花見していなかったな、と思って」

「わたし、誘ったよね?」

「すまん。父さんが海外出張で店を開けておくわけには行かなかったから」

「まあいいわ。来年も見ましょう」

「来年か……」


 俺はそう呟くと、考え込み。

 来年。マリはここにいるのだろうか?

 一緒に花見をすることは可能なのだろうか?

 彼女は帰国していかないのだろうか?

 そんなことを考えていると、俺は喫茶店のところに戻った。

 雉丸は店の前ですやすやと寝ている。呑気な猫だ。朝は色々と手を焼かせたくせに。


「雉丸。ただいま」

「にゃー」


 俺は雉丸に挨拶すると、そいつは起き上がり、店の前から姿を消したのだ。

 触ることさえ許されない、孤高な猫、雉丸の日課であったのだ。

 そんな雉丸を放って置き、俺は店の中に入る。


「ただいま。父さん」

「帰ってきたか。ちびすけ」

「お邪魔します。おじさん」

「おお! いらっしゃい。瑞希くん」


 父さんが瑞希を相手をしている間に俺は自室の2階にやってくる。

 そこから、制服から従業員の服装に着替えてから、喫茶店の方へと顔を出す。

 

「で、マリはどうした?」

「みんなとカラオケパーティー」

「お前はいかんのかい」

「店があるから、いけねえよ」

「そんなの後回しでいいのだよ」


 父さんは「春樹はドライだね」と、どこか聞いたことがあるセリフを吐いた。

 まあ、俺は鈍感主人公だから、聞こえなかったふりをする。

 厨房の中を入ろうとしたそんな時に、スマホの振動がする。だれからかのメッセージだ。

 スマホを開いてみると、マリからのメッセージだからだ。


マリ:ハルキさん、助けてください! 歌える歌がありません!


 ……なるほど。そういえば、流暢な日本語を話すから、忘れていたが、彼女は外国人だ。日本の歌なんて知るわけがない。

 ここは彼女に助言を与えよう。


春樹:タイで放送されたアニメの主題歌はどう?

マリ:あ、ありました! ありがとうございます!


 どうやら、オタク文化は世界共通言語になっている。彼女は何をみていたがわからないが、少なくとも、子供が歌う歌ならあるだろう。⚪︎えもんの歌とか。

 俺がスマホをいじっている間に、瑞希は改まって父さんの方に声をかける。


「あ、そうだ。おじさんにお願いがあります」

「改ってどうしたの? 瑞希くん」

「わ、わたしを雇ってくれませんか?」


 俺は思わず目をぱちぱちとして困惑した。

 普段。俺の店に興味をなさないくせに、今となっていきなり気になるだなんて、ちょっと意外だったのだ。

 俺は父さんの方に一瞥する。

 父さんは肩をすくめて、どっちでもいい、と言い出すようにする。

 だから、俺は彼女に問い出す。


「どうしたんだい? 金欠か?」

「ち、違うわよ。み、店が忙しそうだな〜と思って。べ、別に春樹と一緒に働きたいだなんて、思っていないわ」


 べ、別にあんたのためじゃないからね!

 と、何か文句を言い出そうにする。

 動機は不明ではあるが、ここで働きたいという気持ちはあるらしい。人手が増えても困らない店でもあるが、色々と彼女に教えないといけないことがある。


「父さんどう思う?」

「ん? いんじゃないか?」

「あれ? いいの?」

「ふふふ。春樹よ。この店は暇だから、忙しくないから、雇う必要はないと思っているだろ?」

「え?」



 俺は素っ頓狂の声をあげていると、奥から何かを取り出す。

 それはフリフリとして黒い洋服だ。いわば、メイド服と言える。


「実は、ここの制服。メイド服にしようと思うだ! 他店の差別化できるようにしようと思うのだ! だから、可愛い子が何人いても問題ないのだ!」

「それ、父さんがやりたいことだけだろ?」

「バレた?」

「モロバレだ」


 俺はため息を吐き出すと、瑞希の方に顔を向けてから彼女を慰める。


「父さんの悪ふざけに付き合わなくていいよ。瑞希」

「え……」

「メイド服。着たくないだろ?」

 

 俺はそういうと、瑞希はちょっと戸惑った表情を作り上げる。

 それは迷うだろ。いきなりメイド服を着て、他人に奉仕するのは抵抗感があるだろう。

 そう思って、俺は彼女を制したのだ。


「いいのか? マリはこのメイド服を着ることになるぞ?」

「え……」

「そしたら、春樹もマリの制服にイチコロになっちゃうな」

「父さん。変なことを言わないでよ!」


 マリにもこの制服を着せようというのかよ。

 この親父、ただのエロガッパなのか。

 預けた子をを自分の願望に使うだなんて、頭イカれているな。

 でも、マリのメイド服姿。

 うむ。きっと似合うだろうな。

 父さんが用意したメイド服はあまりにも綺麗だ。


「ちょ、ちょっと春樹! 鼻の下を伸ばさないでよ!」

「の、伸ばしていないよ!」

「わかりました! わたしもここで働かせてください!」


 瑞希はキレ散らかし、やけになってここで働くことを決意をする。

 俺は思わず、ため息を吐き出してしまったのだ。

 やれやれ、俺の人生がうるさくなるのだ。



 

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