第6話 マリの着替え

「じゃあ、次は洋服屋さんで買い物だな」

「はい!」


 レストランを後にすると、俺たちは街中をぶらついた。

 目的地はこの近くにあるユニクロだ。

 洋服センスに疎い俺は、どんなファッションが主流になっているのかは分からない。

 でも、そこに連れて行けば、ファッションの洋服は揃っている。人ごとで言えば、安心することができる店のユニクロだ。

 俺たちは手を繋いだまま、人混みを通りぬき、ユニクロへと到着する。


「わあ! 日本のユニクロはすごいですね! 大きいです!」

「タイにもあるのか? ユニクロ」

「はい。でもそんなに大きくはないので、ビル全体がユニクロは初めて見ました」

「それはよかったな」


 俺たちはそれだけ会話を交わして、店の中に入る。

 まずは女子用の服を販売している階へと移動する俺たちだった。店の2階にあるのだ。

 色んな洋服がマネキンが着ていたのだ。

 どれもおしゃれと言いようしかないものばかりだ。

 センスに疎い俺でさえも、この洋服はおしゃれと感じ取れるものばかりだったのだ。


「じゃあ、私。いくつか服を試着してみます! ハルキさん、どれがいいか選んでください」

「え? 俺、ファッションセンスに疎いよ?」

「大丈夫です!ハルキさんが思うままの感想でいいのです」


 マリはそういうと、服を何着が持ち出すと、試着室に消えた。

 俺はポカーンとなり、彼女が出てくるのを待った。

 ファッションセンスに疎い俺が、彼女の服装を選ぶなんてことはできるのだろうか?

ちょっと不安を感じ取ったのだ。

 それからしばらくすると、マリは試着室から出てくる。


「お待たせしました。この服装はどうでしょうか?」

「ほう」


 マリは出てくると、彼女の格好はどこかボーイッシュに見えた。

 白いシャツに、長い青いスカート。デニムジャケットに、青い帽子がボーイッシュの決め手となったのだ。


「似合っているよ。少年みたいでいいね」

「はい。ありがとうございます。では、次を選べさせてもらいます」


 マリはそういうと、またも洋服を何着が選んでから試着室へと消えた。

 俺はほ頬杖を立てて、彼女が着替えるのを待った。

 半分。彼女がどんなような洋服で出てくるのか、期待をしていた自分がいる。

 なんだか、背徳感を抱いているようだと俺は密かにそう思った。

 5分くらい待っていると彼女は試着室から出てくる。


「これはどうでしょうか?」

「ほう」


 俺は彼女の姿を眺める。

 ホワイトのブラウスにテーラージャッケット。淡いピンク色のスカートが目立ち、これはどうみてもオフィスカジュアルのおしゃれだった。

 どうも、彼女は何を着てもおしゃれに着られる。

 そのオフィシャルカジュアルでマリが少し妖艶に見えた。


「うん。似合っているよ。OLみたいだよ」

「OLですか?」

「オフィスレディーの役だよ」

 

 俺はそう説明すると、マリはどこか嬉しそうになる。

 タイにもオフィスレディーは存在するのか、と俺はどこか感心する。

 まあ、タイが田舎なイメージは偏見であるのはいうまでもない。あの国も発達した国なんだ。


「じゃあ、次着替えてきますね」

「ああ、うん」


 そういうと、彼女はまたも試着服に戻っていく。

 あれ? なんだか、ファッションショーになっていないか?

 マリを着せ替え人形のようにポッポと着替えて出てくるのだが、これってそういう意味だよね?

 と、俺は首を傾げながら彼女の次の服装を待っていると、マリは試着服から出てくる。


「これはどうでしょうか? ハルキさん!」

「……」


 俺は言葉を失った。

 マリの格好は想像以上より、斜め上だったからだ。

 先ほどよりはもっと似合っているのだからだ。

 彼女はピンク色のワンピースを着用し、麦わら帽子を頭に被せて、どこか漫画に出てくる美少女かのようなものに感じたからだ。

 俺はその格好に見惚れて、口を閉ざしてしまった。

 そんなバカみたいに見惚れていると、彼女から声をかけられる。


「どうしましたか? ハルキさん」

「あ、ああ。すごく似合っている。さすが、ファッションのセンスはあるんだね」

「はい! ありがとうございます」


 マリは喜び、ワンピースを翻す。

 それはあまりにも少女らしい仕草だ。


「じゃあ、この三つからどれか一つを選んでください」

「え? そんなの選べないよ。三つともすごく似合っているのだから」

「でも、服を買うお金は一つしかありません」

「そんなの気にしなくていいよ。俺が払うよ」

「いいのですか?」

「いいさ。父さんから余分にお金ももらっているし、似合っているものを全部買いな」

「むむむ。誠一さんには悪いですよ」

「大丈夫だ。あの人は怒らない」


 俺は代弁をすると、マリはどこか安心感を出す。


「じゃあ、この三つを買います。ちょっと着替えますので、少々お待ちください」

「おう!」

 

俺はそう返事をすると、彼女はまたも試着室に戻った。

 きっと元の服装に着替えるのだろう。その間に、俺は自分の財布を覗き込む。

 5万円はある。父さんからもらった余分のお金はある。だから、彼女に服を買っても問題ないだろう。


「さあて、三着の服にどれくらいの価格をするのかな?」


 俺は自問自答するように財布の中身と相談する。

 結局はその三着を購入して、父さんの余分のお金が残っていたのだ。

 それから店を後にして、俺たちは帰宅することにしたのだ。



「買い物長引いてしまったな」

「ご、ごめんなさい」

「いや、いいさ」


 俺たちは街を後にすると、電車に搭乗して、帰路に着く。

 丁度、二人席が空いているため、俺たちは隣同士に座ったのだ。

 荷物は俺が持った。洋服セットが入ったビニール袋三枚分を俺は手にしていたのだ。

 二人隣り合わせに座っていると、なんだか気まずく感じたため、俺は話題を振る。


「で、今日は楽しかったか?」

「はい! とても楽しかったです」

「それはよかった。今日はうまくエスコートできていないかと心配だった

「うふふ、ハルキさんは紳士ですね」

「そんなことはないさ。普通だと思う」

 

 照れ臭さで、俺は顔をそっぽむける。

 電車の窓の外を眺める。外の日差しはまだ強いままだ。

 時間的にいうと、まだ15時を回ったところだ。

 ……本当はもっと長く遊びたかった。

 でも、彼女は疲れると思い。今日はここまでにしたのだ。


「ふ、ふぁぁ。なんだか眠くなってきました」

「え?」

「ごめんなさい。昨日は緊張して寝ていなくて」

「なら、電車の中で寝てもいいぞ。着いたら、俺が起こす」

「ありがとうございます。ハルキさん」


 マリは俺に礼を言うと、彼女は頭を俺の方に寄せる。コツン、と肩に当てると、フィーフィーとべ寝息を吐いた。

 俺は彼女が起きないように、じっと石のように固まりった。

 ……え? もう寝たの? そんなに疲れていたの?

 思ってみれば、彼女は異国に来て2日目だ。何も知らない国で、生活を一から整えるのだ。それはそれなりに緊張するのだろう。

 気持ちよさそうに寝るマリを横目に見て、俺は考える。

 彼女は不思議な女だ。繊細で天然で、かわいいのだ。

 タイ人は皆こんな風の人間ではないのだろう。

 彼女だけが特別なのだろう。

 ……なんだか、幸せな気分だ。


(……母さん。俺。こんなに幸せでいいのかな?)


 死んだ母さんのことを思う。

 7年前に病で他界してしまった母さん。

 彼女は俺に幸せになれと命じた。

 けど、母さんがいない世界だなんて、幸せになれるのか、とずっと疑問に思っていた。

 でも、今日。その答えが見つけたような気がした。

 幸せなのか、違うのかわからない。がしかし、彼女、マリとずっと一緒にいたい気持ちがあった。

 それは心の底から願った願いだと思っていたのだ。


「ゆっくりおやすみ。マリ」


 俺は小さくそう呟くと、瞳を閉じる。

 うとうとよし感じ始めた。自分の昨夜は緊張していたのだと気づく。

 たかが女子とのお出かけで何緊張しているんだよ、俺。


(……そういえば、彼女はどこかで会ったことがある気がする)


 俺はそう思いながらも微睡の中そう思う。

 だけど、それ以上のことは思い出すことはできず。俺も眠りに入ってしまったのだ。

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