第5話 マリはあざとい

 翌朝。

 俺は起床すると、目覚まし時計に目を向けた。今は午前8時半だ。

 ちょっと寝坊した。本来の俺はもっと朝早くから起きていた。

 慌てて、俺はベッドから起きて、部屋を出る。下の階へと踏み降りると、そこにはコーヒーを飲む父さんと卵焼きを食べているマリが机に座っていた。


「おはよう」

「おう、おはよう。ねぼすけ」

「あ、おはようございます。ハルキさん」


 みんなから挨拶されて、俺はシンクで手を洗う。

 そのあと、俺は冷蔵庫を開ける。

 昨日買い出しをしたため、冷蔵庫の中はパンパンに入っていた。

 俺はスクランブルエッグを食べようと思う。

 そう思うと、俺は卵を冷蔵庫から取り出して、厨房へと向かう。


 まずはバターをフライパンに焦がす。

そのあと、卵2個、牛乳80ミリリトル、生クリーム80グラム、しお小さじ一杯、胡椒小さじ一杯をボウルの中にかき混ぜる。

 そのあと、かき混ぜたボウルをフライパンに入れると、かき混ぜる。

 うん、いい匂いが上がってきた。

 そのあとはフライパンから、クッキングシートに敷いたホテルパンに流し入れて、オーブンに入れる。

 3分加熱すれば、スクランブルエッグの完成だ。


 俺は加熱したホテルパンを慎重に取り出すてから、皿へとおく。

 綺麗な黄金のスクランブルエッグが完成する。横にケチャップをつけるとより芸術点が高める。


「ほう? スクランブルエッグか?」

「あげないよ?」

「ははは。わかっている」


 茶々を出す父さんをよそに、俺はマリの向かい席に座る。

 それから手を合わせてから、いただきます、と放ち。スクランブルエッグに手をつける。

 うん、美味しい。俺の腕も落ちてはいないな。


「美味しそうですね」


 前を向くと、マリは物欲しそうな顔をしながら、俺のスクランブルエッグを覗き込んでいた。

 え? 君も欲しいの?

 思わず内心で突っ込まずに入られずにいた。

 仕方がない。この食いしん坊にお裾分けを出すか。

 そんな物欲しそうにしている彼女の眼差しに耐えられず、俺はは小皿とスプーンを取り出した。彼女に小さく分けてあげる。


「はい。ちょっとなら、あげるよ」

「ありがとうございます。ハルキさん」


 マリは嬉しそうな顔を浮かべると、スクランブルエッグを堪能する。

 美味しそうにベロっとスクランブルエッグを完食したのだ。


「これ、美味しいです! これほっぺがこぼれ落ちそうです! ハルキさん」

「まあ、俺が作ったからな」


 俺は威張るように鼻を鳴らすと、マリは目を輝かせていた。

 そこまで誉められると、俺は照れてしまうので、スクランブルエッグを何もないように続けて食した。


「熱いねえ。お二人さん」

「うっせえ」


 父が茶化すので、俺は追っ払う。

 全く、この人は。何を思ってその言葉が出たのだろうか。

 とっとと朝ご飯を済ませて、着替えよう。

 俺は食べたスクランブルエッグを完食し、手を合わせて皿をシンクに流した。

 今日の洗い物担当は父さんだから、皿洗いを任せることにしたのだ。


「マリ。準備できたら声をかけてくれ。俺は着替えてからここで待っている」

「はい。ありがとうございます」


 マリが返事をすると、俺は2階に戻る。

 バスシンクに行くと、俺は歯を磨き、顔を洗った。タオルで濡れた顔を拭くと、自室に戻った。

 着替えることにした。今日は外に出かけるため、ワイシャツに黒いデニムを着用することにした。

準備が完了すると、俺は母さんの部屋にいく。

 びっしりと本が詰まっている本棚が目の前に広がっていく。

 母さんは本好きなのだ。俺もその影響で本を読むことになった。


マリが準備している間に時間潰しに、読書をすることにした。

 今日はちょっと背伸びして、哲学書、スピノザの「エチカ」を読もうとする。

 すっと、本棚から本を取り出すと、俺は一階に行き、カウンター席で読書する。

 マリを待つことにした。


 俺が本を開いた瞬間、父さんはコーヒーを俺の目の前に置く。


「ほら。飲めよ。朝のカフェインだ」

「ありがとう」


 俺はお礼を言うと、コーヒーカップに手をつけて、飲み出す。

 うん。アラビカ産のコーヒーは美味い。渋さと苦味が融合して、美味しいのだ。

 父さん淹れたコーヒーは世界一美味しいのだ。


 しばらく待っていると、マリが着替え終わって一階にくる。

 彼女は白いブラウスに淡い色の長いスカートを着用していたのだ。季節にはいい格好だと思う。


「お待たせしました。ハルキさん」

「じゃあ、いくか」

「はい!」


 俺は本を閉じると、カバンの中に入れる。

 それから俺とマリは店を後にすることにしたのだ。


「じゃあ、父さん。行ってくるよ」

「ああ! いいスマホを彼女に買うだぞ」

「わかった」


 俺は店を後にすると、マリも、行ってきます、と父さんに言い放つと、店を出た。

 俺たちは店を出て、駅へと向かっていったのだ。


「ハルキさん! ハルキさん!」

「ん? どうした?」

「あの。今日の買い物はどこに行くのでしょうか?」

「そうだな。都内にあるスマホショップに行こうかなと思う。電車で30分かかる場所だけど、時間大丈夫か?」

「はい。大丈夫です!」


 マリは満面な笑みで応える。

 俺はその笑みを見て、ドキッとする。

 マリノ笑顔はいつも見ても慣れない。彼女の笑顔は破壊力が高い。笑うだけで、心臓が抉られるのだ。

 さすがは微笑みの国。タイから来た美少女だ。

 彼女の期待を答えるように頑張ることにするか。

 俺たちは駅に着くと、マリにICカードの購入を教えた。


「このボタンを押すと、ICカードが出てくる。担保として1000円取られるけど、持っとくと便利なものだ。コンビニの支払いもこのICカードで使えるからね」

「ほへえ。日本の技術はすごいですね!」

「まあ、そうだな」


 タイはどんな国かわからないが、日本のICカードはすごく便利なものだ。どこの支払いもこのICカード一つで解決だ。

 これ考えたやつ天才だと思う。ノーベル賞を与えたいくらいだ。


 マリはICカードを購入すると、ICカードに金をチャージする。

 落としたら大変だから、まずは1000円程度だけチャージした。

 それから、俺たちは改札を通り、電車に乗ったのだ。


 目的駅は東京駅だ。最初に彼女のスマホを購入するために、東京駅にあるスマホメーカーリンゴマークに行くことにした。

 電車に揺られて、30分。ついに俺たちは東京駅に着いた。

 人混みに紛れて、俺たちは歩き出す。


「わあ、人が多いですね!」

「そうだな。東京の中心。東京駅だからな!」


 俺がそう答えると、マリはきゃ、と小さく悲鳴をあげた。

 何事か、と思いながら、足を止めて彼女が着いてくる後ろに振り向くと、マリは躓いていた。

 人とぶっつかりながら、慣れない人混みに戸惑い出す。

 ……仕方がない。ここは手を繋ぐことにしよう。


「マリ。手を出して」

「はい?」

 

 マリは手を出すと、俺はマリの手を取る。

 すると、彼女はどこか落ち着いたよ様子で。

 一瞬だけ、俺たちの世界が止まったかのようになったのだ。

 俺たち世界がこの世界しか存在しない。そう言う瞬間を感じ取った。

 俺は照れ臭さを払拭し、彼女に尋ねる。


「これで歩きやすくなっただろ?」

「は、はい。ありがとうございます!」


 それから、俺たちは二人手を繋ぎ、ゆっくりと人混みの中を歩く。

 なんだか、二人だけの世界を作り、他の世界と遮断したような感覚を思ったのだ。

 恥ずかしい気持ちが半分、安堵感が半分。変な感情が俺の中に湧き上がった。

 それは恋なのか、愛なのか、わからないのだ。

 ただ一つだけわかるのは、彼女に向けるこの感情は愛しさだ。

 彼女を守りたいのだ。


 俺たちはゆっくりと歩き、やがて目的地に辿り着く。

 スマホリンゴショップだ。今日は祝日のせいか、人が多いのだ。

 つい先日販売した新機種のスマホ狙いで購入する人がたくさんいたのだ。


「いらっしゃいませ! 何をお探しでしょうか?」


 一人の従業員の女性が愛嬌よく、俺たちを歓迎する。

 俺は手を離して、その従業員にスマホのことを話す。


「一番新しい機種のスマホをください。彼女が使うのだ」

「かしこまりました、。色はどうされますか?」

「確か、ピンク色がありますよね。その色でお願いします」


 従業員は返事をすると奥の方へと消えた。

 新しいスマホを取り出しているのだろう。


「あの〜ハルキさん」

「ん? 色が気に入らないのか? すまない。女子はピンク色が好きだと思って口にしてしまった」

「そうじゃなくて、スマホは新機種じゃなくてもいいのですよ。安いやつでもいいのですよ」


 なるほど。お金のことで心配なのか。

 でも、昨日の父さんからもらったお金だと足りるはずだ。

 父さんもそれを見越して、多めにお金を渡したはずだ。

 足りなかったら、俺が出すか。



「いや、スマホは一番いいやつを購入した方がいい。寿命も長くなるしな」

「そうですか?」

「そうだ。それにお金の心配はしなくていい。俺もお金多めに持ってきたから、これで購入できるはずだ」


 俺はそういうと、従業員が戻ってきて、スマホを俺たちに見せた。


「こちら、新機種になります。今使用しますか?」

「あ、はい。古いスマホから機種変更できますか?」

「可能でございます」

「じゃあ、お願いします」


 俺はマリに古いスマホを取り出すように促した。

 マリも壊れたスマホを取り出すと、従業員に渡す。

 従業員はバックヤードに戻り、スマホを入れ替え作業をする。

 しばらくすると、従業員は戻ってきて、新しいスマホを俺たちの前に持ち出す。


「大変お待たせしました。機種変更が完了しましたので、お持ちしました」

「ありがとうございます」


 マリは従業員にお礼を言うと、会計をする。

 結局は父さんからもらったお金全てを使い果たすことになったのだ。

 それから、俺たちは店を後にする。

 店の前に立つと、マリは俺の裾をツンツンと引っ張り出した。

 一体、何事か、と思い彼女の方に顔を向けると、彼女はウルウルと何か言いたそうな声をする。


「あの〜ハルキさん」

「ん? なんだ?」

「電話番号の交換をしましょう」

「そうだな。連絡先を交換しよう。電話番号だけじゃなくて、ラインも交換しよう」

「はい!」


 満面な笑みを浮かべると彼女は自分のスマホを取り出す。

 俺も自分のスマホを取り出すと、連絡先交換をしたのだ。

 連絡先交換を完了すると、マリは何か嬉しそうにスマホを抱き抱える。

 ちょっと恥ずかしくなった俺はなんともない態度をとりながら、彼女にこう尋ねる。


「どうした? そんなにうれしいのか?」

「はい! だって、ハルキさんと連絡先を交換できたのですよ! これでいつでもハルキさんと話せます」

「それは大袈裟だよ」


 大袈裟なことだ。

 たかが、連絡先交換だけなのに、そこまで嬉しくするとこっちが照れてしまうじゃないか。

 

 さて、閑話休題。

 少し休憩に入ろうと俺は思った。

 電車やスマホの設定で何かしら使いたいと思うし、この辺の喫茶店昼ご飯でもしよう。


「ちょっとこの辺の店で昼ごはんでもしよう」

「あ、はい!」


 それから、俺はイタリア系のに入る。

 俺たちはテラスに座り、メニューを眺める。

 丁度昼だから、何か食べようと思ったのだ。


「じゃあ、俺はパスタを頼もうと思う。マリはどうする?」

「わたしは……ミラノ風ドリアにします」

「Ok。じゃあ、店員さんを呼ぶね」


 俺は従業員を呼ぶと、注文をする。

 


「ふふふ」

「ん? 何がおかしいのかな」

「あ、いえ。男子とこうして二人っきりになるのは初めてで、なんだかデートみたいですね」


 ……デートみたいですね。

 その言葉を聞くと、俺はドキッとした。

 ああ、そうだ。今の俺たちの行動はデートのようなものだった。二人っきりになって、買い物したり、食事したりするだなんて、デート。

 彼女いない歴イコール年齢な自分はこう言うのには弱いのだ。

 特に美少女である、マリと一緒に行動するのは心が揺らぐ。

 いかんいかん。今日は彼女とデートしにきたのではない。

 彼女が日本に快適に過ごせるために、俺たちは買い物に来たのだ。


「冗談はよせ。今日はお前のための買い物だ」

「でも、私にとっては大切な時間です」


 マリはそういうと、目を閉じて手を胸に当てる。

 この時間がいかにも大切かだと主張するようにしたのだ。

 彼女の天然さには頭が上がらない。

 本当に純粋で、器用で、繊細な彼女には俺は無力に感じるのだ。


 そんなことを思っていると、料理が運ばれて来る。

 俺の前にはパスタ。マリの前にはミラノ風ドリア。

 俺たちは一度手を合わせて、頂きます、と言い放ってから食事に取り掛かることにした。


「うん! ハルキさん。このミラノ風ドリアは美味しいです」

「はは。よかったな」


 今日は本格的のイタリアレストランにいる。

 昨日のファミレスよりは美味しく食べれられるのだろう。

 一皿1000円の単価と来たら、味の期待することはできるのだ。 

 


「ハルキさん」

「なんだ?」

「はい、あーん」


 マリはそういうと、スプーンでミラノ風ドリアを掬い、俺の口元まで寄ってくる。

 彼女の天然な行為に俺は思わず息を詰まらせてしまったのだ。


「ま、マリさん? これって」

「ミラノ風ドリアは美味しいです」

「そ、それはわかったけど。どうして?」

「食欲。ありませんか?」


 マリは涙目で俺のことを上目使いで見る。その表情はあまりにも可哀想な子犬のようで、断り用ができないのだ。

 ……ああ、こん畜生! 可愛いすぎるだろうか。こう言われたら断れることができないだろうが。

 俺は頭を悩ませながら、彼女が差し出すミラノ風ドリアに目を落とす。

 これを食べてしたら、彼女と間接キスすることになる。

 そして、彼女はそんなことを気づいていない様子であった。

 しかし、これを断れば、マリが可哀想だ。

 彼女は悪意を持って、このような行動を取ったのではない。

 ただ、美味しいからお裾分けをしただけなのだ。

 心の中で道徳という天秤が揺らぐ。これを食べるべきなのか、食べないべきなのか悩ませた。

 時間もあまりないのだ。彼女が悲しい表情をしていた。

 俺が取った行動と言うと。


「すいません! 新しいスプーンをください!」


 恥ずかしさのあまりに、俺は新しいスプーンを店員さんから要求することにしたのだ。

 マリは一瞬俺の行動した原因を分からずに、頭を右に傾けて困惑する。

 だから、俺は彼女に失礼がないように伝える。


「あ、すまない。スプーンは自分の方を使った方がいいと思って」

「っつ!?」


 やっと俺が伝えたいことを理解したのか、マリは顔を真っ赤になり、ミラノ風ドリアを渋々と食べる。

 ふう、天然とは怖いものだ。

 悪意なき行為には驚かさることばかりだ。彼女の行為には気をつけないといけない。

 そのあと、店員さんがスプーンを持ってきたので、俺は一口ミラノ風ドリアを食べた。

 彼女が絶賛するような味で、美味しいかったのだ。

 俺たちはぺろっと全部の食事を食べ終えて、店を後にした。

 もちろん会計は全て俺が支払ったのだ。父さんから余分にお金をもらっている。

 お客さんを払わせることはできないのだ。




 


 


 

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