第4話 マリの歓迎パーティー

「よ〜し。じゃんじゃん食べていいぞ!」

「わあ。こんなご馳走ありがとうございます」


 父さんは手を開くと、ピザ、カルボナーラ、ポテトが提供されていく。

 マリもその量を見ると、手を叩き感動する。

 結局、俺たちは家(喫茶店)近くのファミレスにパーティーをすることになった。とは言っても、そんな大層なものじゃない。ファミレスは所詮ファミレスだ。

 安くて、美味しいものが机に運ばれてくる。

 これ全部で5000円もいかないだろう。


「こんな美味しいピザ。日本に来て初めてかもしれません」

「ははは。それはよかった」


 父さんよ。そこは威張るところではないぞ。

 所詮はファミレスのピザだ。本格的のピザの方が美味しいぞ。釜焼きでチーズが乗っている方が何百倍も美味しい。

でも、彼女がファミレスで喜んでいるなら、それでいいかもしれない。


「それより、マリの部屋はどうするんだ? お客様用の部屋を使うの?」

「ああ。そうとも、その部屋をマリ専用の部屋にするのさ」

「荷物とかは明日に届くんだっけ?」

「手紙ではそう書いてある」

 

 父さんは英文に書かれている手紙をあげると俺にみせる。

 俺はみないよ、と言い放ち。それをそっとそのまま父さんに返す。


「それに、明日にはマリの父親も来るから、粗相がないようにな。春樹」

「え? マリの父親が来るの?」

「当たり前だ。商談に来るのだからな」

「商談って?」

「マリの父親は貿易をやっているのさ。そこで、コーヒー豆の仕入れについて商談するのだよ」


 なるほど。それは大切な商談だ。

 コーヒー豆の大半な価格は、コーヒー豆の輸送料にかかっていた。

 だから、もしも、この商談がうまくいけば、コーヒー豆を仕入れやすくなるのだ。

 どうやら、これからもマリの父親にはお世話になりそうだ。


「それより、マリよ。欲しいものはあるか?」

「えっと。そこまでないのですか? 実はスマホが壊れてしまって」

「スマホが壊れた? それはいけないね。明日、春樹くんと一緒に新しいの買いなさい」

「あ、はい。ありがとうございます」


 父さんはポンと、数十万円のお金をマリに渡す。

 マリはなんだか、申し訳なさそうに受け取る。

 まあ、スマホは高いからな。最新機だと、十数万円もするから、妥当のお金なのかもしれないな。

 でも、俺はそんなことより心配していることがある。

 それは今は3月末であることだ。

 彼女は確か、一年間、同じ屋根の下に住むことになる。

 なら、自然に4月のことが気になる。


「それより、4月になったらどうするの?」

「え? 4月に何があるんだね?」

「学校だよ。父さん」


 父さんは学校の言葉を聞くと、おう、そうだった! と思い出す。


「もちろん! 彼女には学校に行ってもらうよ!」

「転入生か?」

「留学生として、学校に通うのだよ。その話はこちらで手続きする。お前のクラスに配属されるだろう」

「学校で面倒を見るのか……」


 嫌な予感しかしない。

 もしも、クラスの中で俺がマリと一緒に住んでいることがバレたら、殺されるだろう。この聖ガブリエル私立中高一貫校はゴジプネタが好きで、彼女のような留学生が転入してきたら、一瞬で彼女の話題になるのだろう。

 考えるだけで、頭が痛くなった。


「それより、春樹よ。明日はマリの買い物に付き合いなさい」

「ああ、わかった。その代わり、店は父さんに任せたよ」

「うん。返事がいい息子はいい子だ」


 父さんはニコニコと笑うと、フォークでパスタを回した。

 明日の買い物はまずはスマホからだな。街中に入ることになるのだろう。特にスマホといえばリンゴマークのもの。細心なものを購入するならば、街中にいかなければ買えないのだろう。

 そんなことを覚悟し、俺はフライドポテトに指を咥えて食べ出す。

 ん? 俺、なんか見落としたことなかったか? 

 明日、マリと二人っきりで買い物。それってデートじゃないか。

 そう思うと、俺は顔が自然に熱ってくる。


「どうされたのですか? ハルキさん」

「い、いや。なんでもない」


 マリに感づかれられたのか、彼女は心配そうに俺の方に顔を近寄せた。

 俺は慌てて、大丈夫、と言いながら彼女の顔から遠下げた。

 

……ふう。危ない。


彼女いないイコール年齢な俺に、美少女と一緒に買い物だなって、身が重い。

明日はちゃんとした服装と父さんが口うるさく言う、粗相がないような行動を取らないといけないな。

と、俺はそう思いながらも、ポリポリとポテトをむさぼった。



 夜になると、俺たち3人は店に戻ってきた。

 喫茶店ラッセルの2階は従業員が住むようにできている。とは言っても従業員は俺と父さんしかいない。母さんは小さい頃に他界したため、部屋はそのまま残っていた。

 俺はマリの荷物を手に取り、店の2階の方へと登っていく。


「ここが君の部屋だ。そして、この廊下の付きあたりがトイレとシャワー室になっている」


 俺は廊下の奥を指を指してから、客様用の部屋を開き中に入る。

 部屋は約平方25メートルもある、一軒家と変わらない部屋だ。 

 部屋にはベッド以外何もなくて、机と椅子。それから一枚の窓しかない。殺風景な部屋になっている。一人住むにはちょうどいい部屋なのだ。

 

「ありがとうございます。ハルキさん」


 マリはお礼を言うと、部屋の中へと踏み入った。

 俺は荷物を床に置くと、彼女が自由になれるように部屋から出ようとする。


「じゃあ、俺はここで。もし何かあれば、俺の部屋は隣だから、何かわからないことがあれば気楽に尋ねてきていいよ」

「ありがとうございます。ハルキさん」

「じゃあ、おやすみ」


 女子をここまで案内するのが恥ずかしく感じたのか、俺はとっとと解放されるように逃げ出すようにマリの部屋から出ていく。

 すると、マリは俺を引き留めるかのように声をかけた。


「あ、明日のことなんですか」

「ん?」


 思わず声をかけられたので、俺は足を止めて彼女の方へと振り向く。

 マリはどこかモジモジとしながら、こちらを眺めた。


「わたし、日本のことはあまり何も知らなくて。できれば、明日は洋服店にも案内してもらってもいいでしょうか?」

「それは構わないが、俺……あまり詳しくないだ。洋服店のこと」

「ハルキさんがいつも行っている場所で構いません。ダメでしょうか?」


 上眼使いで俺を眺めるマリ。

 俺はポリポリと頭を掻きむしる。

 実際に、俺が着ている洋服はユニクロで購入したものばかりだ。

 だから、女子のオシャレに目が叶うか、ちょっと怪しいところでもある。

 しかし、彼女の要望だ。ここで断るわけにもいかない。

 俺は一瞬ため息を吐き出すと、マリにこう応える。


「わかった。でも、可愛いものがないかもしれないよ」

「別に大丈夫です。わたし、ファッションのセンスには得意なのです」


 胸を張って言うマリ。それはあまりにも期待できそうな態度だ。

 俺は思わず口角を釣り上げて、彼女を眺めた。


「わかった。じゃあ、明日はスマホ購入たら、ユニクロに行こうか」

「はい! ありがとうございます ハルキさん」


 何が嬉しいのかがわからないが、マリは笑ってそう答える。

 ふむ。彼女は前向きだな。明日は俺がちゃんとエスコートしないといけないな。

 俺はそう思うと、彼女に背を向ける。


「今度こそ、おやすみ。マリ」

「はい。おやすみなさい。ハルキさん」


 パタン。と扉が閉まると、俺は自分の部屋に戻った。

 ……不思議な少女だ。

 何にでも笑えて、笑顔が魅力的な少女。

 もしかして、これが微笑みから来た国のタイ人の魅力なのだろうか?

 

「何バカなことを考えているんだ。俺は……」

 

 誰も聞こえないように小さく呟くと、俺は机の上に飾っている母さんの写真を持ち出す。


「母さん。今日、タイの人が家にやってきたよ。彼女はいい子で天然な子なんだ」


 俺は今日の出来ことを母さんに報告する。

 もちろん、返事は返ってこない。死人には口はないのだ。

 でも、俺は報告したかったのだ。今日の不可思議なことはどうも

 父さんの悪戯なのかも知れないが、


「もう寝よう」


 俺は母さんの写真を机に置くと、そのままベッドにダイブする。

 歯磨きは明日の朝にやろう。

 今日はいろんなことがあって疲れた。

 変なダンディーなおっさんに出会って、桜の吹雪の下でマリと出会った。それも運命の悪戯なのか?

 俺は深く考えずに、眠りにつくことにした。

 明日もいい日でありますように、と母さんの口癖が脳内にリピートされる。

 その後の記憶は曖昧だ。泡に包まれたように、俺はは眠りについたのだ。

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