第2話 これが俺たちの出会い

 桜が舞い落ちる季節の3月中旬。

 俺は喫茶店の手伝いにいつものように街中にあるスーパーへ向かっていた。

 カレーようの食材を購入したのであったのだ。


 玉ねぎに肉にじゃがいもニンジンを手一杯購入し、スーパーから出るのだ。

 そこで、俺はあるダンディーな人と出会ったのだ。

 彼はびしっと着慣れたスーツを着用し、金ピカな腕時計をしていたので合った。

 どうも、この周辺の人とは思えない格好だと最初は思ったのだ。

 何せ、ここは繁華街。ビジネス街とは正反対にある。

 彼がどうして、ここにいるのかも謎でしかないのだ。


「やあ、そこの綺麗な人。どうか僕とお茶をしないか?」

「け、結構です」


 彼はスーパーの出口にて主婦に声をかけていたのだ。

 結果は見ての通り、玉砕されていた。

 

 なんだ? この人は? ナンパでもしているのか?

 と、俺は彼の行動に疑問符を浮かべてしまったのだ。

 いい大人がナンパをするなんて、何かきな臭く感じた。


 そこで、俺は彼と目が合った。

 あ、やべ、と思った時には時すでに遅しだったのだ。

 

「そこの少年。どうか、僕とお茶でも飲まないか?」


 声をかけられてしまったのだ。それもお茶のお誘いだ。

 嫌な予感がぷんぷんする。彼の誘いを受け取ると何か面倒なことが起きそうだと思っていた。

 ここで知らんふりをして逃げ出すのも可能である。

 よし、ここは逃げよう。と思った矢先に。


「そんな顔するなよ。国際問題について話をしようじゃないか」

「内容がハード過ぎます!」


 そんな内容、高校2年生に上がったばかりの俺が知るわけがないだろうが。

 国際問題なんて、黒船来航のことしか知らんがな。

 それも、この平和な日本には話題すべき問題なのか?


「君、僕と話したね?」

「あ、やばい」

「何がやばいのだね? 一緒にお茶でも楽しもうじゃないか?」 


 俺は断ることもできず、彼に首元をガッチリと掴まれてしまったのだ。

 猫のように掴まれた俺は抵抗することをできず、ただ単にダンディーな男とお茶をすることになったのだ。

 なんで? なんて、いうわけもないのだ。


 そこで俺たちは近くの喫茶店で話をすることにした。


「いやー実はメニューの注文方法がわからなくてねえ。君がいてくれて助かったよ」

「それは良かったですね」


 数分後。俺たちは喫茶店に入り、何かを注文する。

 彼はコーヒーが飲みたい、とのことでブレンドを注文した。


 けれど、改めて考えてみると、この注文も無駄なんじゃないかと思う。

 店員さんにメニューに食べたいものを指を刺せばいいだろう? けど、あえて俺は口にしなかった。

 なぜならば、面倒臭いからだ。このダンディーな男も日本人ではないらしい。流暢な日本語を話すけど、格好と仕草は日本人ではないことがわかる。


 それにこのダンディー、どこか見たことがある顔立ちだったのだ。

 どこかで? 見たことがある? それはどこで?


 俺は思考を巡らせると、ダンディーな男から声をかけてきた。


「君は礼儀正しい男子だね。こういう男子は我が国にあるべきだ」

「あ、どうも」

「それで、国際問題について話をしようか」

「その話。まだ、するつもり何ですか? 僕は高二ですよ」

「話題選択ミスだ~」


 オーノー、と大きく口を開いていると、店員さんがブレンドを二つ持ってきたのだ。

 香ばしいコーヒーの匂いが鼻に触れる。

 けれど、そのコーヒーは何か足りないものがある。俺はそれに気づき、コーヒーに期待を寄せないまま口にする。


「うむ。ここのコーヒー65点だな」


 ダンディーな男は総点数を上げる。

 それも悪くない点数だが、それも妥当な点数だと俺は思った。

 なぜならば、このコーヒーはインスタンスコーヒーだからだ。コーヒー粉とお湯を入れただけのコーヒー。特に手を加えていないもの。だから、この味が出てくるのだ。だが、この味は納得がいく。なぜならば、このコーヒーも100円だからだ。ワンコインで飲めるコーヒーはそんなに期待するべきものではないのだ。


「ここで、君に質問だ。どうして、私はこのコーヒーを65点つけたのか、わかるかな?」

「それはここのコーヒーはインスタンスコーヒーですからですよね? それも、ロブスタ豆とオーソドックスの淹れ方ペーパードリップだから、こんなに低い点数になったのでしょう」

「ほう。どうやら、君はコーヒーの知識はあるらしいね」

「喫茶店の息子ですから、それくらい知らないと」

「君も喫茶店経営しているのか、素晴らしい」


 ダンディーな男は何かしら喜ぶように、微笑むとすずっとコーヒーを飲み尽くした。

 本当にこの人はコーヒーが好きなんだな、低い点数をあげたコーヒーなのに、こうも苦手意識がなくコーヒーを飲み尽くすなんて。


「そういえば、君は買い物の帰りかね」

「あ、はい。家の手伝いで買い物をしています」

「家の手伝いか。偉いな。我が国もこういった子が増えればいい国になるだろうに」


 ダンディーな男は何か悔しそうに語る。

 いい国? 何のことだ?

 俺は疑問符を浮かばせてしまった。彼の口調から何か違和感を感じた。

 国だとか、国際だとか、外人としてその言葉を使用するのは何かが意図があるように聞こえた。

 そう、例えば、政治家とか。


 俺は訝しかめな表情を浮かべていると、ダンディーな男が俺に質問にしてくる。


「それより、君はこの国についてどう思う?」

「この日本ですか?」

「そうだ、この日本だ。私はこの国の若者の意見が聞きたくてね。この日本とういう国がどういう国なのか知りたくて」


 そう聞くと、俺は腕を組む。

 この日本しか生きたことがない俺はこの国についてどう思うんだろうか。

 けれど、仕方がない。尋ねられたなら、俺は思っていることを口にすることにした。


「平和でいい国です」

「ほう?」

「日本は戦争がない。平和で、人も和やかでいい国だと思います」

「なるほどね」

 

 ダンディな男子は納得した様子で顔を頷いた。

 それはどういう意味か、俺にはわからないのだ。

 素朴でくだらない意見だと思われるが、俺はこの現象が好きだ。

 平和で競争心も持たないこと。そう、何事も平和が大事だと思った。


「げ、もうこんな時間!」


 俺は喫茶店の店内に飾っている時計に目を向けると、悲鳴を上げる。

 今は午後の3時だ。俺が経営している店は午後5時に営業する。

 早く帰って、カレーの仕込みをしないといけないのだ。


「おじさん。俺は店の手伝いがあるから、もう帰るよ」

「おお。時間をとって申し訳ない。さあ、早く帰りなさい」

「ありがとうございます」

「礼をいうのは私の方だ。この私と話し相手になってくれたからね」

 

 ダンディーな男性は俺に一見ウインクをする。

 俺はそのウインクを受けると、荷物を手にして、焦って店から出る。

 早くカレーの仕込みをしないといけない。

 喫茶店を後にして、俺はダッシュで商店街を駆け抜けたのだ。

 

 そして、俺は桜並の河川敷を一人で走っていた。

 この季節、桜が両サイドに咲き、美しい背景になっていた。毎年、観光客がこの場所

 でも、運よく変な時間であるためか、観光客がいなく、俺はこの景色を独り占めできた。


 けど、時間がないため、俺はせっせとあ早足で歩いていたのだ。


「うわ」

 

 ある一瞬だけ、風が強く吹き。俺は足を止めた。

 桜吹雪が舞い。花びらがヒューヒューと舞い落ちる。

 一瞬だけ、風が強く吹き、俺は目を閉じた。風が強い。台風でも来たんじゃないか、と錯覚する。

 けれど、瞳を開けると俺は幻想を見る。

 天使が見えた。

 それはただの比喩だ。そこには一人の少女が立っていた。

 あまりにも美しい顔立ちにゆで卵のような白い肌。桜吹雪の中ではにかんでいた。身長は俺の頭一個分低くくて、一般少女と同じくらいとも言えた。

 けれど、彼女は桜吹雪の下でピンク色のワンピースを翻すように踊り、鼻歌を歌う。


「ら〜らら〜」


 それはカノンだ。

 正式名称は3つのヴァイオリンと通奏低音のためのカノンとジーグ ニ長調。あのドイツバロック時代の室内音楽だ。

 俺はこの音楽を知っていた。昔、俺もこの音楽に魅了されていたからだ。


「あら?」


 少女は俺のことに気づくと、俺の方に目を向けた。

 彼女の黒い双眸と合った。美しい容姿に俺はどくどくと心臓が早鐘になる。

 お互いに何も話さずに、一方に見つめ合うだけの関係になった。

 そんなストレートに見つめていると、彼女から声が発せられる。


「あのー」

「あ、ああ」


 照れくさいように俺は声を発する。

 すると、彼女は俺の方に近づき、尋ねてきた。


「あなたは喫茶店ラッセルを知っていますか? 今からそちらに向かうのですが、ちょっと道に迷ってしまって。スマートフォンのGPSの表記がおかしくなって」


 開口したのは俺が経営している喫茶店への道。

 運命の悪戯なのか、彼女はその店を指定した。

 うちはそんな若者が人気な喫茶店ではない。某バックスのようなおしゃれの店ではないのだ。

 なので、彼女がその店に行きたかっている理由が見当たらないのだ。

 けれど、来るものを拒むわけにはいかないので、俺はこう答える。


「俺も丁度あの店に用事があるから、道案内するよ」

「ありがとうございます!」


 彼女は俺に一礼をし、頭を下げた。

 俺はそんなに畏まらなくてもいい、と言い放つと道案内をする。

 これが運命の悪戯だと知らずに、俺たちは桜並の下を歩いていったのだ。

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