第11話

【笑えぬ世の中。花と星は川に流れつつ。真っ赤に染まった青春の下】


 幼馴染の優星と花奈は、お互いのパートナー権代と私の母の浮気に気づき、殺された。

 死体をワゴン車で運んで木村食堂で解体し、原型をとどめないレベルで煮込んでトイレに流された。


 我ながらひどい想像だ。

 ばーさんは真相を暴く糸口が見つからずに、月日が流れて権代が死に、認知症の診断が下ってしまった。

 命を絶ったのも、判断力が低下した自分が、何をするか分からなかったから。

 妄想と現実の区別が次第につかなくなり、孫を巻き込んで破滅に突き進む事態をばーさんは命をかけて阻止したのだ。 


 私は背を向けたまま、テレビを見る母に絶望的な気分になる。

 母が洸一を憎いんでいるのは、花奈憎い恋敵の血がまだ現世に残っているからなのかと問い詰めたくなる。


『藍ちゃんは似てないねぇ』

(父が私を拒絶した理由。私に対する権代の態度はまるで……)


「浮気はいつから? 隠しごとをしても、幸せが遠のくだけだよ」

「うるさい。面白いネタを仕入れてないなら――もう、帰ってこなくていいわ」

「いいよ。けど、洸一になにかしたら、私はあなたを殺す」

「――親不孝者! 放っておいて悪いと思ったのに。あの時、捨てればよかった!」


 母は絶対認めないだろう。ならそれでいい。

 日に当てられた隠しごとは赤い棺になった。

 こっそり持ち帰った洸一の毛と、私の毛からDNA鑑定をすれば、殺人まではわからなくても二人の不逞が確定する。

 これが、加害者二人の血を引く私のケジメだ。


『ごめんね』


 と。帰り道で、ばーさんの言葉が聞こえた気がして苦笑する。

 

「私は大丈夫だから、洸一を見守ってやって」


 私とは正反対の異母兄弟きょうだいへ。

 身勝手かもしれないが、どうか幸せになって欲しい。

 誰にも愛されていないと嘆いて、ゆがまないで欲しい。


 私はばーさんに可愛がられたかもしれないが、本当に愛されたのは君なのだから。

 

 不意に私の身体から、なにかが離れていった気配がした。


 本当に一人になってしまったのだと、言いようのない感情に襲われて、私はその場で泣いてしまった。


――さよなら。


【了】

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薄情の赤 たってぃ/増森海晶 @taxtutexi

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