第10話

「ねぇ、母さん。なんで、ずっとここに住んでいるの?」

「はぁ、なに言っているのよ」


 実家に戻った私は、テレビを見ている母に話しかける。


「ずっと気になっていたのよ。なんで、駆け落ちなんて恥をかかされたのに、ずっとここに住んでいたのか。もしかしたら、後ろめたくて目が離せないことがここであったとか」

「……あなたには関係ないことよ。可哀そうに、あの子になにか吹き込まれたのね」

「ちがう。木村のばーさんは、ずっと母さんや洸一の父さんを疑っていたの」


 書置きの【桜】の単語で、ばーさんは、娘の身になにが起こったのか察したのだろう。

 身内に向けたSOS。それが、なぜ同じタイミングで、権代と私の母が見つけたのか。ばーさんは二人が黒だと確信した。

 母は会社の受付嬢。権代は木村食堂の従業員だが、仕入れでよく街に出ていた。

 近所の眼が届かない場所で、二人が逢瀬おうせを重ねていたとしたら?

 ずっと働いていた木村食堂だからこそ、不自然な調理器具の使い方に、ばーさんが気付いたとしたら?


「もしかして浮気をしていたのは、本当は母さんと洸一の父さんなの? だけど、バレてしまって二人を殺した」

「ハッ、ハハハハ……、馬鹿らしい。だったら、なんで書置きなんてあるのよ」

「脅して書かせたんでしょう。そう考えれば、手段なんて何通りも考えられる」


 ヘルプ緊急事態は【桜】。だけど権代と花奈娘夫婦の代では【上野】で定着していた為、見逃されていた。

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