生首が眠る魔法冷凍庫

長月瓦礫

生首が眠る魔法冷凍庫

魔法とは、すなわち冷凍庫であった。

痺れるような寒さが地下のフロアを支配していた。


棚にはガラスでできた壺が並んでいる。

その中に生首が浮かんでいる。

壺からケーブルが伸び、後ろにある巨大な機械に接続されている。


ガラスの壺に浮かんでいる生首たちは虚空を見ている。


この国は結界で閉ざされており、国交が断絶されていた。

増加するばかりの人口、エネルギーは消費される一方だ。

人々の生活を考えた際、新たに目をつけたのが人間の魂である。

魂だけは毎日のように無限に生産される。


毎日絶対に誰かが死ぬ。

死者の世界がないことは証明され、魂の核となる人格は生まれた時の環境で決められることが分かった。


だから、魂とは絶対に尽きることがないエネルギーとなりうる。

肉体から抜け出た魂を集め抽出し、エネルギーに変換する。

たったこれだけだ。


おかげで生活はずいぶん楽になった。

魂はすべてのエネルギーに変換できる。


死人の脳からエネルギーとなる魂を抽出し、ここを守らせていた。脳だけが生きていた。

いや、生きていると言えるのだろうか。私には分からなかった。


この町は結界で守られていから、秩序が乱されることはない。

そう信じて疑わなかった。

そのエネルギーをどこで得ているのかなんて、疑問に思わなかった。


誰もが結界に洗脳され、思考を奪われていた。

それを魔法だと思わされていただけだ。


それに気づいたのは、つい先日のことだ。

一つの疑問はすべてにつながった。


だから、私はここを訪れた。


ここの電源を落とせば、冷凍庫は停止する。

私は冷凍庫の電源を落とした。


パネルの音声はこう告げた。

この魔法はあと十秒で解けます。

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生首が眠る魔法冷凍庫 長月瓦礫 @debrisbottle00

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