一歩いっぽ

ひぐらし ちまよったか

魔法の言葉を……

 ――5時間目の道徳の時間に、やっぱりウトウトしてしまいました。

 あわてて田川くんを、さがします。

 シャツに『Step by Step』と書いてありました。やっぱりよくわかりません。


(効果ないよ、田川くん……)



 夢の中で、そうたろう君が「チビ、チビ」と、たかし君をからかっていました。

 たかし君は「やめて!」と、魔法の言葉をとなえます。


「なんだよ、ちび」

「チビって言うの、やめて! そうたろう君」

「おまえが、でかくなりゃいいだけじゃん」

「チビじゃダメなの? ぼくがチビだと、そうたろう君が困るの?」

「はあ?」


 このあと、そうたろう君が乾いた唇で、しんじられない事を言いました。


「いっしょにいて、はずかしいじゃん」


 ――わたしは、泣きました。




【……泣……いで……おねがい……泣かないで……】

 お空から、だれかの声が聞こえてきました。

「……だれ……?」

【わたしは……あなたに『かわいそう』な魔法をかけてしまった『作者かみさま』です】


「かみさま?」

【そうです。作者は時々、かわいそうな魔法をかけてしまい、そのあと決まっていつも、とても悲しむのです】

「どうして、そんなことするの!」

 あとで決まって悲しむ魔法を、なぜ使うのか、わかりません。

【創作のためなのです……ごめんなさい、仕方がない事なんです】

「そんな……」


【――おわびに、道徳の授業の続きをしましょう】


「つづき?」


 今は道徳の時間で、田川くんのせいで眠ってしまったのに、夢の中でも授業? これが、おわび?


【先生は『たかし君はどうしたらいいでしょうか?』と、おっしゃいましたね?】

「はい」


【本当は、もう一つ、とても大切なことが続くのです】

「たいせつなこと?」


【ええ……『そうたろう君は、どうすればいいでしょう』……そこまでが、本当の授業です】


「そう……だったんですか……」


【……すなお、ですね? 本当に、いい子……くすん……先生は『お友だちがやめてって言ったら、やめようね』とも、おっしゃいました。それも、みんなに考えてもらいたい事なのです】


「……みんなに……」


【先生が教えて下さった『やめて』は、相手に考える『きっかけ』をあげる魔法の言葉です。でもそれだけで、すべてが良くなる『終わりの呪文』ではありません】


 ――おかあさんも、考えてくれる?


【大切なのは『やめて』の魔法を受け取った後に、どう、こたえを返してあげられるか、なのです】

「はい」


【――ごらんなさい。たかし君と、そうたろう君の時間を『きっかけ』をもらった所まで、もどしてみせましょう!】

「そんな事ができるのですか?」

【ワタクシ、作者かみさま、ですから~っ!】



「やめて!」

「な、なんだよ……ちび」

「チビって言うの、やめて! そうたろう君」

「お、おまえが、でかくなりゃいいだけじゃん」

「チビじゃダメなの? ぼくがチビだと、そうたろう君が困るの?」


「……な、なんだよ……」

 そうたろう君は、こまった顔をしています。

「ち、チビって、かわいいじゃん……い、いやなのかよ……」

「いやだよ! かなしいよ!」


「……わ、わかった……もう言わないよ」



「わぁ! かみさま、すごいっ!」


【でしょう? ふっふん~、でしょぉ~お】

 気を良くしたかみさまが、オマケをくれました。


【この魔法の夢はもうすぐ解けるけど、お別れの前に、おもしろいこと言ってあげる】

「なんですか?」

【田川くんの着ていた『Often』は『たびたび』……そうたろう君が使った、からかい言葉は『チビ、チビ』……では、きょうの田川くんの『Step by Step』は、なんでしょ~っ】


「え?」


 わたしは少し、かんがえました。


「なんだろう? たびたび……ちびちび……くり返しことばかしら? それにしても田川くん……たびたび、て……うける」


【ちょっと元気が出た? 安心したわ。それじゃ、またね。応援してるから!】


「え! ちょっと、かみさま~っ!」



『この魔法は、あと十秒で解けます』

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