第13話 お誘いと
———翌朝。
「…………ん……?」
俺は自身の顔を照らす太陽の光の眩しさで目を覚ます。
ぼやけた頭で辺りに視線を巡らせると、そこはあの無機質な空間ではなく、TVにベッド、鏡や窓の外に見える綺麗な青空が存在している。
そしてぼんやりとしていた思考が段々と意識が覚醒すると共にクリアになっていき、遂に数万年ぶりに地球に戻ってきた事を思い出した。
「本当に戻ってこれたのか……」
しみじみとそんな事を思うが、そんなことより身体がベタベタしている不快感が俺の思考を支配する。
昨日の夜はこのベッドのあまりの気持ちよさに一瞬で眠りについてしまったようで、服も着替えておらず非常に気持ち悪い。
しかし———それだけではなかった。
「身体が……」
ほんの僅かな違和感だが、昨日よりも力が入れやすくなっている気がする。
それに、衣服に明らかに汗ではない様な汚れた跡があった。
「何なんだよこれ……ステータス」
—————————————
【年齢】18(51,867)歳
【Lv】999,999
【職業】極致到達者
【体力】126,999/126,999↓
【魔力】126,999/126,999↓
【攻撃】126,999↓
【防御】126,999↓
【敏捷】126,999↓
【極致異能】
《−−−》《−−−》
————————————
「やはりか……ステータスが元に戻ってるな。それに肉体再構築のパーセンテージも増えているし……寝ていると身体が再構築される仕組みなのか?」
まだ確定は出来ないが、その説が1番有力そうだ。
そこでふと、時計に視線が定まったのが、既に11時を過ぎていた。
「……取り敢えず、風呂に入るか」
俺は名残惜しい気持ちを何とか抑えてベッドから起き上がると、洗面所に移動した。
「夕薙さん、アレらはどうすれば良い?」
協会の受付にて俺は後ろの大量の覚醒者を指差す。
あれから物凄く凄いとしか言いようがない素晴らしいシャワーで体を念入りに洗った後、ツルツルスベスベのお肌の上からバトルスーツに変化する服を着て、昨日と同じく協会へと来ていたのだが、受付の順番が来るまでに十数分も掛かった。
何故かを説明すると、今日は俺がS級覚醒者になったと言うことが全国に公開されたためである。
そのせいでこの協会は覚醒者が押し寄せていたのだ。
「……正直我々協会側からしても予想外の出来事なんです。今まで何回もS級覚醒者の公表をしていましたが、此処まで集まってくることはありませんでした。しかし……これが原因かと」
夕薙さんが映し出したのは、俺が巨神獣を担いで闊歩しているシーン。
チラッと再生回数を見ると、僅か1日で2300万回以上再生されていた。
更にはツ◯ッターでは『夕陽を愛する謎の強者』とか言うハッシュタグでバズっている。
「……これの収束は不可能……だろうな」
「無理ですね……流石に此処まで流れてしまえばどうする事もできません。神羅様には申し訳ありませんが、落ち着くまで耐えていただく以外に方法は……」
「分かった。気にしないでおく」
まぁ自業自得な部分の方が多いので、俺が文句を言う資格はない。
更に言えばバズって欲しいと願ったのも俺なので、逆に無事バズって良かったと言う気持ちの方が大きく、琴葉にも届いているかな……とふと思ってしまう。
「夕薙さん、水野琴葉の所属しているクランって何処なんだ?」
「え? あの『戦女神』ですか?」
「ああ」
「えっとですね……彼女は『夜明けの証』と言う日本最強のギルドに所属しています。その実力と人気から絶大な支持を得て、副会長を務められていますよ」
日本最強のクランで副会長か……随分と偉くなったんだな。
まぁSS級覚醒者だし、綾人さんの様な熱狂的ファンが何千、何万と居るんだから当然と言えば当然か。
しかしクランに所属している者にアポ無しで会う事が出来ないのだろうか?
「俺が今から会いに行くのはダメなのか?」
「そ、それはいけません! 単独でアポ無しで行くとなると、襲撃を疑われてしまいます! SS級覚醒者なら犯罪をしたSS級覚醒者以下を罰する権利もあるんですから。それに『夜明けの証』の会長は世界に10人もいないSSS級覚醒者なのです。今の神羅様では申し上げありませんが倒せないと思われます……」
昔も『夜明けの証』と言うクランはあったが、その時はまだSS級覚醒者が会長だったはず……どうやらこの15年で会長はSSS級覚醒者に昇進したらしい。
そうか……今の俺で勝てないと言うと、SSS級とはそれほど強いんだな。
「……じゃあやめておこう」
「その方がよろしいかと。そもそもきっと彼方の方から神羅様に会いにくると思いますよ」
「……? 何故だ?」
俺がよく分からず首を傾げていると、後ろに気配を感じた瞬間に肩をトンと叩かれる。
誰だ……と疑惑の目で振り向くと、そこには心と咲良が居た。
「こんにちは神羅くん〜☆ もしかしたらと思ってきてみたけど案の定居たんだねぇ」
「こんにちは神羅さん。よく眠れましたか?」
「ああ、おはよう2人とも。お陰でぐっすり眠れたぞ」
2人とも武器は持っておらず、昨日着ていたバトルスーツも着用しておらず、その代わり心は肩の空いた少し艶めかしい服と膝より断然上の短いスカートと言うお洒落な服を着ていた。
そして咲良は心とは対極で、肌の殆ど見せない白いワンピースと鍔の広い帽子を身に付けており、清楚さが滲み出ている。
その服装で一体何のために此処にきたのだろうか、と首を傾げていると、心が俺の疑問に気付いたのか説明してくれた。
「本当は2人でカフェ巡りでもしようと思ってたんだけどね〜偶々神羅くん見つけたから話しかけようってなってね」
「そ、それで少し寄り道として此処にいると言うわけです。ご迷惑だったでしょうか?」
心は1ミリも自分が話しかけて迷惑と思っていない様で堂々としていたが、咲良は少し不安そうに眉を潜めていた。
「別に迷惑じゃないぞ。俺には琴葉以外に友達は居ないからな」
「ほら言ったでしょさくら〜? 絶対迷惑じゃないって!」
「う、うん……」
心が「あ、そうそう」と何かを思い出したかの様に言うと、俺に訊いてくる。
「神羅くんは今日何か予定ある?」
「いや……特にないな。琴葉には俺から会いに行ってはいけないらしいからな」
———瞬間、心の目がキランッと光る。
その瞳はまるで獲物を狙っている肉食動物の様だった。
「ねぇねぇ神羅くんっ! 一緒にカフェ巡りしない?」
「えっ!? 流石にそれは迷惑ですよ心ちゃん! 男の人はきっと暇になりま———」
「いいぞ別に。丁度この安全地帯の案内を誰かにして欲しかった所だ」
「———いいのですか!?」
「にゃはははは! やったぁ! これで幾らか奢ってもらえるぜ☆ それじゃあ善は急げと言うことで———レッツゴー!」
心が俺と咲良の手を引いて協会の外に出ようとした時———
「———此処に斎藤神羅は居るかッッ!!」
ドンッと何かを地面に叩きつける音と共に粗暴そうな男の声がエントランスをこだました。
そしてその男を避ける様にして覚醒者達が道を開けていく。
視界が開け、目の前にゴツい装備に身を包んだ如何にもヤクザっぽい見た目の男達が現れた。
———どうやら俺は、何もしていないのに面倒事に巻き込まれた様だ。
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