遺書

 A氏のスマートフォンのメモ帳より



 このメッセージが読まれているということは、私はすでにこの世にいないでしょう。遺書の書き出しとしてこれが適切なものなのかもわからない。けれどもこれ以外に思いつかなかったのでこれで始めさせてもらうこととする。


 さて、このメモを始めに読むのは誰になるのだろうか。スマートフォンのロックの類は外しておいたので、第一発見者が見ているのかもしれないし、もしかしたら警察の関係者かもしれない。まあそんなことはそうでもいい。


 一応、悪意ある第三者が不正に書き換える可能性を考慮して、自宅のPCに同様の遺書を転送しておいた。まあ、自分で言うのもなんだが、大した事件ではないのでそのような心配は不要なのだが。


 なかなか本題に入らないことについては申し訳ないと思っている。ただ、もうすでに死んでいるとなればできる限り私の生きていた痕跡のようなものを残しておきたくなってしまうものなのだ。何せ私には子供もおらず、父も亡くした。母は数年前に既に亡くなっているし親戚もほとんど連絡を取っていない。


 ああ、忘れる前に言っておきたいのだけれど遺産などについては適当に処理しておいてほしい。残される側は意外と面倒なことすら最近まで知らなかったのに、もう残す側になる事に関しては正直少し面白いと思っている。まあ、この家は(計画通りならば)事故物件になってしまうのだが。それについては本当に申し訳ない。


 さて、警察の捜査の状況などは一切想像がつかないので、全てを一から説明せねばならないのだろう。日本の警察は優秀なので次期に全てが明らかになるのは分かっているのだが、こんなくだらない事件のために貴重な税金が無駄になるのももったいないので一応。


 計画通りであれば、私ともう一人の男が一酸化炭素中毒で死亡し、同じ部屋にもう一つの切り刻まれた死体が残っていることになるだろう。一酸化炭素中毒で死亡するのは私の小学校の頃からの同級生であるMで、バラバラの死体はその親である。私が殺した。


 Mは知的な部分で少しハンデを抱えていた。いわゆる境界知能とよばれるものだったかもしれない。それは幼少期からのものであったし、私もそのように感じる部分はあったものの幼少期は特に問題なく生活ができていた。


 彼の環境が大きく変化したのは彼の母親の死によるものであった。彼曰く、母は彼が高校生の時に死んだらしい。


 父親は彼に対して強い拒絶を示すようになり、最終的には日常的に暴力を振るうようになったらしい。彼もどうしていいかわからず、黙ってそれに耐え続けることしかできなかったらしい。


 彼はスマートフォンさえ持っておらず、もっぱら外に出るのは父親に命令された酒類を購入するときくらいのものであったらしい。たまたま、こちらに帰ってきていたときに、彼が袋いっぱいの酒を持っているところに出会い、私はそのことを知った。


 私は彼に大きな恩があった。それこそ、彼がいなければとっくの昔に死んでいた程度には。詳細については彼と私だけの秘密ということにしておいてほしい。今回の件には直接関与しない事柄なので。


 俺は彼を何とかして助けてやりたいと言った。すると彼は真剣な眼差しで僕を殺してくれと言った。それなら俺が手伝ってやることはできると言った。丁度、父が死んだ家なら七輪で自殺を図ることは容易だった。


 そんな話をしていると、後ろから恐ろしい形相の男がこちらに向かってやってきた。彼の怯えから、それが彼の父親であることは明白だった。彼は身体を小さくしてまるで小さな子供のように震えている。


「お前だれ?」

「彼の友人です。あなたのそれはれっきとした虐待ではないのでしょうか。然るべき機関に通報させていただきます」

「は?お前に何がわかるんだよ」


 そう言って男が襲ってきたところからはほとんど何も覚えていない。一つだけ確かだったのは、男が死んでいたことだった。


 とりあえず、人目に付かない場所であったことが功を奏した。俺が車を持ってきてブルーシートに包んで死体は実家へ持って帰った。


「なあ、お前の諸悪の根源が死んだけど。まだ死にたい?」

「……うん。正直、もう疲れた。何もできないし、ずっと苦しかった。もう、生きるためのエネルギーも残ってないような気がする」

「そっか。じゃあ、俺も死んでいいかな」

「どうして?」

「似たような感じだよ。俺もエネルギー切れなんだ」


 そう言って自分の部屋の窓を密閉して鍛錬自殺の用意ができた時、彼が一言。


「どうせ、七輪があるんだっだらさ、上でなんか焼けるんじゃないの?」

「何もないよ。大したものは」

「大きな肉塊があるじゃん」

「そうだな」


 一見猟奇的な殺人はカニバリズムなどでもなんでもなく、単なる死ぬ前の変なテンションのせいでした。そんなくだらないことで、二人で彼の父の身体を分解し焼きました。私はあまり乗り気ではなかったのですが、彼がさいごに少しだけ元気になれたようで良かった。

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焼肉 赤井あおい @migimimihidarimimi

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