夢見心地

はるむら さき

夢見心地

ぽつ。

唐突に目の前に落ちた雨の欠片で、僕は現実に引き戻される。

ぽた。

頬の上を冷たい雫がすべり落ちてゆく。

夕立だろうか、あるいは涙か。

ざあ…。

降りだした雨に導かれるように、家への路を急ぐ。濡れることなど、気にもとめずに。


本当はあの時、少しだけ夢を見ていたんだ。とても幸せな夢を。

けれど、夢の中で笑いかけてくれた人はもう、いない。


少しだけ。一瞬だけ迷って、そして僕は振り返るのをやめて、ふたたび前へと歩きだす。

ただ、ただ、現実へと続く道を。


もう、君からどれだけ離れてしまったかなんて、振り返ったりしない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

夢見心地 はるむら さき @haru61a39

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ