第5話 異文化交流2

 「さて、自己紹介は済んだようじゃから一先ずは菓子でも摘まみながら話をするかの」


 源蔵はその一言だけ言うと我先にと煎餅やら御萩やらを取り皿に移していく。その様子はまるで子供の様で日向以下一同は苦笑を浮かべた。


 「まあ、おじいさんったら……二人も遠慮せずに食べてくださいね。ほらそこに隠れている貴方も遠慮せずに」


 源蔵の行動に苦笑しながらフェイは日向とオリビア、そして姿の見えない誰かに菓子を勧めた。フェイが指摘した人物に心当たりのない日向は軽く周囲を見渡すと驚いた表情をしたオリビアが目に入った。


 「えっと……その」


 「別に取って食おうって訳ではありませんよ。その子にとって毒になる物はありませんから」


 「それじゃあ……出てきていいよ」


 フェイに説得されてオリビアは諦めたように呟くと。彼女の持っていたポーチから小さな生き物が顔を出した、と思ったが一瞬でテーブルに置かれた御萩を一つを持ち去りポーチの中に消えていった。


 「あっ!こらっ!」


 オリビアがポーチに向かって叱責するが大した反応が返ってくることは無かった。


 「ご、ごめんなさい」


 「気にしなくていいですよ。警戒することは命を守るために大切なことですから」


 オリビアが謝罪をするとフェイは笑って謝罪の必要はないと諭す。その言葉に日向はどこか決して軽くはない重みがある気がした。それはフェイが何かしたの経験を踏まえての言葉だったのか、日向には推し量ることは出来なかった。


 「フェイばあちゃんもオリビアさんも取り合えず何か食べたら?」


  だから日向はひょうきんに努めてフェイとオリビアに菓子皿を近づけた。二人は顔を見合わせてから「確かにそうだ」といった様子で菓子を取り皿に移した。


 二人が菓子を取り始めたことを確認した日向は羊羹の包みを開いて一口食べた。しっとりとした舌ざわりに一瞬遅れて甘さを感じ目を閉じる。「和菓子は良いものだ」とは日向が数少ない友人(ネトゲ)に常日頃言っている言葉だ。普段から和菓子をよく持ち歩く位には日向は和菓子が好きだった。


 「ねえ、ヒナタ……この黒っぽいものはなに?」


 「はい?……ああ、餡子のことですね。これはとある豆を煮詰めて練り、砂糖を加えたもの……といった感じだと思います。出会ったときに食べてもらった白い食べ物の中にも入っていたやつです」


 「あっあの甘くて美味しいスライムの!」


 「えっ……スライム?」


 日向が羊羹を楽しんでいるとオリビアから声を掛けられた。どうやら見たことのない食べ物を見て食べるか否か迷っているようだった。御萩には悪いが初めて見た者からすれば泥団子に見えなくも無い。スライムには……見えなかったが。日向は自分の知っている限りの知識を絞り出してオリビアに伝えた。


 するとオリビアは目を輝かせて御萩を取り皿に取る。説明に白い食べ物大福に入っていたものだと伝えたからか抵抗が無かった。


 「ん~……美味しいですね~……これは豆そのものが甘いのでしょうか、それとも砂糖が甘さを引き出しているのか……こっちにもこれに似た豆があれば作れそうな気も……」


 頬を緩めながら御萩を食べるオリビアは余程気に入ったのか再現できないかを考えているようだった。その眼は真剣でどれだけ本気ガチかが窺える。


 「ふぃ~~~美味かった美味かった。さてじゃあ話を始めようかの」


 それに少し経って源蔵が菓子を食べ終えオリビアの事情を聞き出す姿勢になった。ついさっきまでは菓子に夢中になっていたのにとんでもない落差だ。


 「まあまずは嬢ちゃんがこちらの世界に来た時の状況を話してもらおうかの」


 「は、はい……私は―――」


 オリビアは少しだけ考えるような仕草を見せてからゆっくり語りだした。

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異世界からの迷子を拾った。どないしろってんだよ 結城 蓮 @Ren_Yuuki

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